王城と赤い事情
今、私は見知らぬ場所で、フェルヴィドさんとシアさんを侍らせた状態で楚々と椅子に腰かけて人を待っている。
正直言って二重、三重の意味で気まずい。
見知らぬ場所に来ているという事、ここが王城という事、そして、半歩後ろに常に人が付いているという事。
ここは王城のとある一角。ここに来るまでの間に、馬車の中で私はアレクシスさんから簡単に事の経緯を説明された。
「アオ様には大変申し訳ない事ですが、貴族と王家の関係上、どうしてもいらしていただかねば収まらない状況となってしまいました。」
「はあ…」
ガタガタと石を組んで作られた道の上を馬車が走る。
その揺れにちょっとお尻痛いなと思いつつ、赤子並みに低下した思考力のせいで私は気の抜けたような返答しか口から出てこなかった。
いやだって、突然の王城への呼び出しとか、私の予定にはなかった。他に人がいなければ唇を噛み締めてたよ。なんでや。って集中線入りまくりの背景でモノローグで叫んでたよ。
どんな関係があって何が起きてるのか、さっぱりぽんとわからないし、IQ下がりまくるのも含めて私の反応の何もかもが致し方のない事だと思います。
そんな間抜けな返答にも特に突っ込まず、アレクシスさんは丁寧な口調で続きを教えてくれる。
「この国では、貴族の子供たちの中でも特に能力の高い10歳~18歳の子供を王城で教育しているのです。その場所を鶸宮と呼びます。」
「能力の高い子供…この国の教育機関ということですか。」
「アオ様の後見であるディオールジュ家は、教育環境が良い事で有名なのです。そのため、基本的に子供達の質が高く、直系の子供は必ず王城へ呼ばれます。今回アオ様が王城へ呼ばれたのは、その鶸宮への召喚が目的です。」
つまり、国は貴族の子供達を王城に差し出させることで、恭順の意を貴族に見せる様に要求している。という解釈でいいだろうか。
大名行列とかと意味合いは近いのではなかろうか。
やたらとできのいいディオールジュ家の人間を王城に来させる事で恭順の意を見せる様に要求してきたという事だとして…だ。
結局のところどうして鶸宮に自分が呼ばれた事とつながらず、私は首をひねる。
なんで私がその鶸宮に呼ばれるのだ。
聞いた話のどこにも、私が引っかかる要素等ないではないか。
貴族でも何でもないし、そもそも見た目はともかく、子供でもない。年齢公表はしていないので、見た目年齢で換算されたら条件に当てはまるのかもしれないが。
「アオ様が中央教会へいらした際に身に着けていたドレスは、ディオールジュ家の正装でした。王城では、ディオールジュ家が鶸宮へやる年ごろの子供を隠していたのではないか。と…」
「私、ディオールジュ家の者じゃないですけど…」
「存じております。ただ、アオ様の許可もなく4ヶ月程前にこの世界に生まれたばかりなのだという話をするわけにも参りませんでしたので」
「あぁ…」
絶望的な声が転げ出てしまった。
それを言ってしまうと、私がどうやら原初様と同様の存在らしい事まで話が及んでしまう。
原初は禁句。私としてはトップシークレット案件である。
「言わないでいてくれてありがとうございます。」
「とんでもございません。ただ、それを伏せると、私としても周囲を抑えられるだけの材料がなく、このような急な呼び出しとなってしまいました。」
「それで…呼ばれたのはわかりましたが、私は何を求められているんでしょう?」
「王は、アオ様を王城へ呼び出されましたが、無理を通そうと出された理由が鶸宮でしたので、それを逆手にとって鶸宮以外の場所に連れてはいかないという条件を飲んでいただきました。」
「??」
…今、王様に、条件を飲ませたと、言ったかな?
おぅふ…って声が出ないように頑張った私偉い。心の中では呟きましたが。
アレクシスさん、王城でも謎の権力持ってない?ほんとに何。
っていうか、仕事で忙しいって聞いてたはずだけど、そんな話を王城でしてるって、一般的な仕事じゃないよね?
知りたくないけど!
絶対聞きたくないけど!
ほんとに!なに!?
「鶸宮では他の子供たちと同じく、まずは学力を試されると思いますのでそちらを受けてください。どの程度教育を受けているかや、能力の高さを測るのは正直に言えば、ついででしかありません。鶸宮にいる間に、私的な事柄を聞かれるとは思います。あちらの主目的は、その質問への返答内容ですので、答えたくない事はお答えにならなくてよろしいですよ。」
つまりは、アレクシスさんから引き出せる情報がないので、本人から聞き出そうという事か。
ふむふむと頷く。
どう見てもアレクシスさんから何かを聞き出すよりは、子供でかつ、女の私に聞いた方が手っ取り早そうだもんね。目の付け所は間違ってないと思うよ。
ただし、話せるだけの情報を私が持っていればの話だが…。
「鶸宮へはご一緒できないですが、指導役の者以外の大人も簡単には出入りできませんから、そこはご安心いただけるかと。」
「え、アレクシスさんと一緒じゃないんですか…?」
何それ怖い。
てっきり一緒に行ってくれるものだと思っていたからちょっと安心していたというのに、ジワリと手に嫌な汗が浮き出てくる。
「カーライルの従者もついておりますし、侍女をお付けしましたのもアオ様を守るためです。決して二人を傍から離されませんよう。」
「…うぅ…思った以上の苦行の予感しかない…」
そんなわけで私は今、王城の一角、鶸宮の手前の待合室にいる。
王城という場所と、自分の事を探られている状況に緊張しないわけがない。緊張のし過ぎで、お城のつくりをじっくり見忘れた。痛恨のミスだった。などと考えられるようになった辺り、この部屋に到着した直後と比べれば多少思考に余裕が出てきたのだろう。
まぁ、現実逃避とも言えるんだけどね!