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聖女のボディ楽しすぎかな!?


 さぁ、肉体改造に挑戦するぞ!

 

 なんとなんと、朝起きたら私の元に届けられました。ズボンとシャツです。

 さすがアレクシスさん。昨日感じた印象通り、期待を裏切らず有言実行の方だ。かっこよすぎて三次元みがない。実は二次元なのでは?現実から逃げようとしてる思考だとはわかってる。だがしかし、二次元なのでは?

 そして戸惑いながらその衣類を手渡してくれる侍女さんすみません。これが私の望みなんです。

 心のなかで合掌し、顔は頑張って笑顔になるように笑顔になるようにと口角をあげる努力をする。

 よくよく考えたら元の世界で喪女極めすぎた私、職場で喜怒哀楽の表情筋を失っていたらしく、光の貴公子に反応の薄さを言われて知ったという体たらく…

 だってビジネスライクが一番だったんだもんよ。

 友だち?いたよ。もちろん、ネットにね!


「嬉しいです…!ありがとうございます。」


 信用ならない表情筋だけでは伝わらないと、口下手ながらに感謝を告げて、その衣服を抱き締める。

 これで山野を駆け回れるってもんだよ。ついでに靴やら髪をまとめる紐やらも頂きました。至れり尽くせりで、若干わがままを言い過ぎたかと反省の気持ちがわいてくる。

 

 この世界は基本的に夜眠りにつくのが早い。自動的に朝も早くなる。

 暇をもて余した私はそれをさらに加速させていて、お陰さまで目覚は日の出前の一番暗い時間帯だった時期がある。

 着替えはドレスを固辞して用意頂いたお嬢さん風ワンピースとかだから一人で着れるし、髪も、麗しの女神様のお陰でサラッツヤなストレート、ささっと櫛でととのえただけでキラッキラのツヤッツヤで手間いらず。

 さっさと着替えて一人で井戸で顔を洗ったりなんかして、日の出を一人で眺めたり…なんてしてたら5日目にはそれがばれた。

 別にばれて何が悪いかって話なんだけど残念ながら、侍女さんたち的には私の起きる時間に合わせて顔を洗う水やタライや身支度を手伝う義務があると言われてしまい…あれやこれや人がわざわざ部屋に来ずとも済むようにと提案したけどダメだった。皆さんにも、カーライルさんにも、どうかお世話をさせてほしいと頭まで下げられてしまった。侍女さんたち…相手が歳上の喪女だと知らずにそんなに献身的に…!くっなんて素晴らしい侍女さんたちなんだ。

 心が痛い。いつか痛くなくなる日が来るのだろうか…。


 そんなこんながありまして、なんとかかんとか私も少し生活を変える約束とお互いの譲歩のもと、日の出のこの時間、新しいお洋服ゲットだぜ!

 因みに私がした約束は、日の出前の活動は自粛する。である。

 私は心行くまでおふとぅん様とイチャラブしつくして親密度を上げまくってる日々を送ってる。

 おふとぅん様愛してる!きっとおふとぅん様も私に愛してるよって語りかけてくれていることだろう。そろそろ親密度マックスでエンディングを迎えてくれてもいいんだよ。

 

 と、いけないいけない。早く着替えて行こう。

 朝の木立の清々しい空気の中走る気分はどんなだろう。と、実は期待に胸を膨らませていたのだ。

 マシュマロ(クソワロ)ボディだった私にはできなかった運動が、前より苦もなくできるかもしれない可能性にはしゃがずにはいられない。

 私はいそいそと着替えを済ませ、鏡の前に立つ。ハイウエストなズボンに、真っ白なシャツ。ブーツにズボンの裾をしまってべらぼうに長い髪を…しばれなかった…。

 か…神よ…

 ツヤサラ麗しのストレートに、こんな呪いがあるとは…。

 鏡の前で悪戦苦闘していると、あのぉ…と、控えめな声が私にかけられた。おっと誰かが来ていたようだ。一生懸命過ぎて気付かなかった。


「え?」


 振り返ると、おずおずと侍女さんが一歩、歩み寄ってくれる。


「よろしければ、私にやらせていただけませんか?」

「良いんですか!?」


 私は一も二もなく髪紐をその方にお渡しした。

 ありがてぇ!まじ、ありがてぇ!!

 こんな可愛らしいお嬢さんに結ってもらえるなんて。


「ご希望はございますか?」

「動き回っても乱れない振り回されない髪型なら何でも好きにお願いします。」


 そう言ったら、口許を両手で覆って、声になら無い悲鳴みたいな音が微かに漏れてきた。


「光栄です!」


 この屋敷の方々は、カーライルさんの色に染まりすぎでは…と、内心真顔になってしまった。あ、でも、表情筋が死にかけてるから最初から真顔かもしれない。

 

 急募:真顔にならない方法

 

 嬉しげに私の髪をとかす侍女さんは可愛らしい。鏡の中では聖女様より歳上の、私からしたら可愛い可愛い年下のお嬢さん。

 こんなお嬢さんになら、優しく声をかけられるかもしれない。

 何せ可愛い。可愛いは正義。

 スルスルと編み込みをされて、残る髪もみつあみにしていただき、ぐるりと後頭部に巻かれてときめいた。

 うっはぁぁぁっ!

 聖女み増し増し!

 侍女さんグッジョブ!!

 鏡に写るお手もとガン見してたけど、何をどうしたかさっぱわからん。


「できました。いかがですか?」

「すごく素敵です。ありがとうございます…あの…えっと…」


 嬉しくてときめいて仕方ない。自分でも驚くほど自然に笑みになる。お嬢さんも可愛らしいし、髪型も嬉しい。

 しかしそこではた…とまた真顔になる。

 私はこの侍女さんのお名前を知らない。


「あ、あの、すみません。私お名前…知らなくて…。その、伺っても宜しいですか?」


 あまりの失礼さに頭をかきむしりたい。いやだめだ。侍女さんの作品を崩せない!

 内心しょんぼりと伺うと、侍女さんがまた口許を両手で隠し、顔を真っ赤にして、まぁ…!と、声をこぼした。

 感極まってるのがわかる。うおぉ…むしろお名前把握してなくて申し訳ないというのに…!心の広いお嬢さんに申し訳なさマックス!!


「し、失礼いたしました。聖女様に名前を告げる機会に恵まれましたこと、光栄に存じます。私はユナと申します。」

「ユナさんですね…ユナさん、髪、ありがとうございます。」


 私は確認のための復唱をし、改めて髪のお礼を言って部屋をあとにした。

 中庭でまずはストレッチと整理体操からだなぁと頭の中を整理しながら階段を降りていく。今まで運動なんて真面目にやったことが無いから、上から順にストレッチしておけばいいだろうか?と、頭を捻る。いっそのことラジオ体操するか?

 つらつらと考えながら階段を降りていると、玄関ホールに麗しの黒髪が見え、目を見開いた。


「あ、アレクシスさん??」


 昨日着ていたかっちりしてて刺繍の入った服装と打って変わって、私同様そっけない格好をしている。


「おはようございます。聖女様」

「お、おはうょ…おはようございます。」


 咬んだ…はずかしぬ…。


「随分お早いのですね。」

「は、はい。いつも日の出前に起床しておりまして。」

「日の出前…ですか?」


 じっと見られて恥ずかしい。それにしても、いぶかしむ様な顔で見られるの、何度目だろう。違う世界から来たことは伝わってるはずだと思うけど、それにしたって…ということだろうか。


「あ、あの、服装と靴も、ありがとうございます。」


 何とか忘れずにお礼が言えた。これで角はたたず過ごせるだろう。


「で、では、行ってきます。」

「お待ちください。」

「ひゃっひゃいっ」


 そそくさと目の前から立ち去ろうとするが、なぜか呼び止められてしまった。予想外の事でひっくり返る声。

 恐る恐る振り返るとアレクシスさんが歩いてきて隣に並ぶ。


「ご一緒します。」

「ご、ご一緒…されるんですか…?」

「お一人で行かせるわけには参りませんので。」


 何で…と、ビクビクしてしまったけど納得した。良かった。そういうことか。

 理由がわかると安心する。

 嬉しい内容かはともかく…。

 聖女様だからってことですね。失念しておりました。


「わ、わかりました。」


 私、このストレスに耐えられるかな…。


 外に出て、裏庭へ。まずはストレッチだなぁ。と、ひとまず屈伸、アキレス腱…と、始めると、アレクシスさんがじっとまた私を見ている。無言が痛い…


「聖女様、その行為の意味を聞いても宜しいでしょうか?」


 痛いとか思っていたら声をかけられてしまう。それはそれで緊張が凄い。

 変なこと言って変な風にみられないかというプレッシャー。

 どんなに見た目が変わっても中身はコミュ障。会話するという行為自体がしんどすぎる。

 ある意味説明の仕事を承ってるのだとやるしかない。聞かれてるのだから。これはお問い合わせを頂いた際の対応であると思うのだ。そう。これはお問い合わせ窓口。私はインストラクターか説明担当。


「これは運動の前に筋肉を柔らかくする行為です。いきなり運動をするよりも怪我をしづらくする効果があります。宜しければご一緒に」


 と、説明のあとアレクシスさんを促しながらアキレス腱伸ばしを再開すると、アレクシスさんもそれを始める。

 何とかどの部位を伸ばす行為かや、まだやれそうなら角度をつけていくといいですよ等を話しながら思い付く限りのストレッチを終らせ、よし。と、気合いをいれて裏の林へ続く道へ、駆け出してみる。

 林の中はしっとりとした空気で充満していて土臭い。私はこの香りが、好きかもしれない。

 足はビックリするほど疲れを訴えないし、継続して私を走らせて先へ先へと連れていく。

 こんなのは知らなかった。

 体が軽い。

 とても楽しい。

 それもこれも、女神様のお陰だ。全然ちゃんと説明せずに行ってらっしゃいと言われたけど、こんな見た目で中身私とか、全然萌えないけど、とても楽しい。嬉しい。楽しい。

 私はそうして一回り林の中を走り、館の裏庭へ戻って来た。

 心臓は跳ねて汗をかいてるが清々しい気分だった。


「はぁー走ったぁ。」


 あはは…と笑いをこぼしながら足を緩め、止め、膝に手を置いて荒い呼吸を調えていたら、視界の端に白いブーツの爪先が見え、顔を上げた。


「おぅふ…」


 光の貴公子、降臨してる。


「昨日ぶり…」

「聖女、今度は何を始めたのだ?」


 くくく…と、楽しそうに小首を傾げてくる光の貴公子。何で今日はこんなにご機嫌なんだろう、この神様。と、私は遠い目をしたのだった。

 




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