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御隠居レフリー 石頭厳格

御隠居レフリー 石頭厳格

 


かれんちゃんのパパのお腹には、珍しい妖精が住んでおります。その名も「御隠居レフリー。」この妖精がお腹にいる人間は、なかなかお目にかかれないと言って良いほど珍しいのです。この妖精は元はというとお代官だった妖精です。しかもこのご隠居レフリーというお役目は、ものすごく真面目で、ものすごく厳しいお代官だけが、お代官の職務を引退した後に特別に任命されるという、とても名誉あるお役目なのです。

 

ここはパパの胃袋の中。胃の入口で誰かがハンモックに揺られ昼寝をしております。白と黒の縦縞の着物を着ていて、白髪の頭にはこれまた白と黒の縦縞の小さい頭巾をかぶっております。首から、銀色の高級そうなホイッスルがネックレスのようにかけられておりますが・・・。


いったい何をしている妖精なのでしょうか。小さい丸いメガネ越しに見える二重の大きな目は半開きで、口からはよだれを垂らし気持ちよさそうに揺られています。この妖精が「御隠居レフリー 石頭厳格」です。素晴らしい優秀なお代官で伝説の妖精でもあるのですが、面倒くさい位の真面目さと、勘弁してほしい位の厳しさを兼ね備えているという、御隠居レフリーにピッタリな妖精なのです。


おや、おや?・・・ハンモックを吊るすヒモには一匹の鳥がとまっていますね。南国にいそうな大きなクチバシをもった派手な色の鳥ですが・・・

そう、その鳥は「きんちょう」という種類の鳥だそうです。別に石頭厳格のペットではありません・・・、というか逆に石頭厳格はこの鳥が大嫌いなのです。

 

 今日は、かれんちゃんのパパは、高校生の頃のお友達とお酒を飲みに居酒屋さんにやってきています。パパはお酒を飲むと直ぐに酔っぱらってしまうのに、お酒が大好きなのです。今日も調子にのって、炭酸入りのお酒をクイーッと飲んでおりました。少しづつ酔いが回ってまいりますと、いつも口数の少ないパパもおしゃべりになります。そして、もっともっと調子にのってくると口癖の「大丈夫、大丈夫。」という、大人の威厳も責任感も微塵も感じさせない、いい加減な言葉を連呼します。そして、本当にフニャフニャのいい加減さんになってしまうのです。


そんなパパには小さい秘密があります。大した秘密ではないのですが、それは・・・。


イカやタコを食べられないのです。食べられないというか、アレルギーなのです。イカやタコを少しでも食べてしまうと、お腹の中で急にゴロゴロと雷が鳴り響き、しばらくトイレから出られなくなってしまいます。


そんなパパが機嫌よくお酒をのんでいますと、板さんが小鉢を二つ持ってやってきました。


「どうも~、これサービスです!」


小鉢の中身は、どうやらイカの塩辛のようです。


「うっほー、ラッキー!」


とパパは小躍りしておりますが、アレルギー持ちのパパは食べられないでしょう・・・。しかし、おもむろにお箸をつけてしまいました・・・。


「あれっ、イカだめじゃなかった?」とパパの友達が聞きますと・・・


「ダイジョウ・ブイ。」


と、パパはピースサインをしておどけております。そしてパパは、パクリと一口、イカの塩辛を食べてしまいました。まったく、またトイレの便器と仲良しこよしのお友達になってしまいます・・・。


「うまい!」


パパの目は子供のように輝き、涙さえ浮かべております。パパは残りのイカの塩辛を一気にモリモリっと全部食べてしまいました・・・。


満足そうな顔をしております。



 その頃パパのお腹の中では、石頭厳格がハンモックの上で正座をして座り、目の前を通り過ぎる食べ物達をギラリギラリと鋭い目つきでチェックしておりました。すると、そんなナイフのような目つきの石頭厳格の前を、さき程パパの口を通過したイカ達が口笛を吹きながら、通りすぎてゆきます。石頭厳格の目がイカ達を追跡します。


「んんっ?」


石頭厳格の目は座り、瞳孔がひろがりました。そして、素早い動きでホイッスルをくわえ、ハンモックの隅にぶらさがっているボタンを押しますと、スルスルッとハンモックが床の方に降りていきました。イカ達は驚いた顔をして、降りてくる石頭厳格を見上げております。

「ピッピッピー、ピッピッ!」


ホイッスルを吹きながら石頭厳格はイカの前まで降りて来ると、暖かい笑顔を見せながら懐に手を入れ、何かを出しました・・・・。


あーっと、レッドカードを出しました。レッドカードです。イカ達は何のことだか・・・納得いかないのでしょう。そろって、両手を広げ「何故ですか?」のポーズをとっております。石頭厳格はホイッスルをくわえたまま、背筋を伸ばし、厳かにゆっくりと首を横に何度か振り、出口を指さして退場をうながしています。イカ達は不満そうに首をかしげ、小さい出口からトボトボと退場してゆきます。

 

その頃パパは、お店を出て帰宅の途についておりました。テクテクと上機嫌で歩いておりますが・・・、大丈夫なのでしょうか?時折、何を思ったのかスキップをしたり、コサックダンスをして息を弾ませております。今のところ変わった様子はないようですが・・・。かれんちゃんの通う小学校が見えてきました。もうちょっとで、家に到着します。パパはクルクルとダンサーのように回転しながら進んでおりました。その回転の途中で・・・

「ピッピッピー、ピッピッ!」

パパのお腹から、石頭厳格のホイッスルが聞こえてきました。パパの上機嫌だったほろほろの笑顔が青ざめてゆきます。


「ゴロゴロゴロ・・・」


イカ達の退場・・・、からの急降下が始まりました。まるで大型プールにある、高速ウォータースライダーのごとき勢いです。イカ達の恐怖で引きつった悲鳴が聞こえてきそうであります。


「しまったぁー・・・」


パパは調子にのった事を、ようやく後悔しはじめました。それはそうでしょう、あんなに食べてはいけないイカを大量に食べてしまったのですから。能天気まるだしの間抜けな、アンポンタンであります。

 パパは内またに力を入れて、お尻の門が勝手に開かぬようにきつく閉めつけ、足早に家路を急ぎます。まるで着物姿の、内股でおつかいに走るお母さんのようです。顔に蕁麻疹が出始めました。こんな情けない走り方で、しかも顔は青白く、ボツボツの赤い斑点の出来た顔・・・、誰かにあったら悲鳴をあげられ、おまわりさんに通報されそうであります。そこの角を曲がればもうすぐ家です。我慢も限界が近づいている模様・・・。

イカ達が門をこじ開けようとがんばっています。


「ご、ご近所さんに会いませんように・・・。」


虚ろ目のパパは、歯を食いしばり内股に力を入れ、そう呟きました。しかしその途端、自転車に乗った誰かが角を曲がって来ました。それは、かれんちゃんの仲の良い友達のねねちゃんのママでした。パパの存在に気づいたねねちゃんのママは一瞬、パパの顔を見て「あらっ?」という顔をしたのですが、パパの顔を直視すると、顔が能面のように固まってしまいました・・・・。


「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」


そんなパパの顔を見たねねちゃんのママは、腰を抜かして自転車ごと倒れてしまいました。


「ご、ごきげんようぅぅぅぅ・・・。」


パパは倒れたねねちゃんのママを助ける余裕があるはずもなく、内またで猛スピードで歩き続けながら、か細い声で挨拶を済ませ、家に飛び込んでいきました。

 

 ここで一つ小話を・・・・石頭厳格が乗っているハンモックを吊るすヒモに「きんちょう」という鳥が止まっていましたよね。あの「きんちょう」は何故存在しているのかと申しますと・・・。それは、かれんちゃんのパパが特別大事な出来事にみまわれ、極度に緊張してしまいますと、この「きんちょう」がそのパパの緊張を感じとり、ヒモから離れ飛びたちます。そして・・・、

「キンチョウシテオリマス、キンチョウシテオリマス・・・」

そう鳴きながら石頭厳格の周りを飛び回るのです。石頭厳格はこの鳴き声が大嫌いなので、この鳥が騒ぎ始めるとホイッスルをくわえ、耳をおさえながらそれをピーピーと吹きまくり、怒りちらすのです。

すると、お腹にあった食べ物達が、自分達がホイッスルを吹かれているのだと勘違いして、そそくさと自ら退場していくのです。


その後パパは、急いでお腹を抱えトイレに走っていきます。


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