鬼編
「あれが、鬼ヶ島」
雉にまたがり、上空からその姿を捕らえる。
果てしない苦悩の道のりの末、ようやくここまでたどりついた。
右手にしっかりと鎌を握りしめる。
「総員、突撃だぁああ!!」
俺が叫ぶと同時に、犬、猿、雉が臨戦態勢に入る。
犬は飢えた面持ちで牙を出し、猿は歴戦の戦士の顔で鋭い爪を見せつける。
雉はくちばしの照準を鬼ヶ島に合わせ、鬼に向かって急降下を始める。
俺達のことなど考えもせずに。
「ちょ、待っ!落ちる落ちたうぎゃぁ」
雉の背中で完全に油断していた俺は雉の急降下のスピードについて行けず、真っ逆さまに落ちていく。
幸い下は海であり致命傷を負うことはなかった。
が、仲間だと思っていた雉に落とされるという突然の裏切り行為に俺のメンタルはボロボロである。
「このままドンブラコと流れて帰りてぇ」
が、潮の関係か流された先は鬼ヶ島であった。
仕方が無い、やるか。
右手にはまだしっかりと鎌を握りしめている。
左手にはきちんと洗濯板を抱きしめている。
準備は万端だ。
「いざ!」
「終わったワン」
「楽勝だったウキ」
「手応えが足りないクエ」
既に勝負は着いていた。
めでたしめでたし。
「早すぎだろ!」
「そうは言っても戦力が違うウキ」
「鬼はせいぜい100体ってとこだったワン」
「対してこっちは1800体だクエ。勝負にならないクエ」
なんたる虐殺。
これじゃぁどっちが鬼か分からんな。
と、まだ喋れる鬼が命乞いをしてきた。
「助けてくれオニ!財宝なら全部やるオニ!」
語尾に何もつけない俺が異端な気がしてきた。
しかし気になる情報を持ち出してきやがった。
「財宝?」
「人々から巻き上げた物だオニ。こっちだオニ」
その鬼は大きな洞窟に入って行った。明かりもなく進むごとに薄暗くなって行く。
しかし、突如として風景が光に包まれる。
黄金だ。
わずかな光を反射して数多の財宝が黄金色に光っている。
「いらんワン」
「不味そうだウキ」
「眩しい!なんだこれ!目が痛っ、クエーーーー!!!」
何言ってんだこいつら。
「こ、これ全部くれるの?」
「やるオニ。だから命だけは・・・」
やったぁああ!!
明らかに鬼を倒して貰える額を超えている。
「おい犬!これだけあれば一生サーロインステーキだ!」
「ワン!?」
「おい猿、雉!これだけあれば俺の婆ちゃんの命尽きようとも永遠に極上のきび団子を食べられるぞ!」
「ウキ!?」
「クエ!?」
なんという棚からぼた餅。
住民に返す?ご冗談を。
むしろもっと奪ってやりたいくらい・・・
「そうだ!これだけの戦力があるんだ。もっと奪える、これは、行ける!!」
そこからは早かった。
もっと豊かな生活を。もっと美味しい食べ物を。もっと幸せな人生を。
もっと。もっと。もっと。
俺率いる犬と猿と雉は人々から金銀財宝を奪い続けた。
が、それでも満足はしない。
満足できないならば奪えばいい。
こうして、俺達はかつての鬼より人々に恐れられるようになった。
いやいつしか人々は俺達を鬼と呼ぶようになった。
「ふははは!!」
俺の高笑いが鬼ヶ島に響く。
こんな俺を倒す次の桃太郎が現れるのはまだ先の話。