猿編
ここが猿の林か。
真っ直ぐ伸びている木がそこら中に乱立している。
犬の洞窟の時のように足を踏み入れた瞬間に襲われることはないらしい。
「おい、猿なんていないぞ」
「よく上を見るワン」
言われるがままに上を見てみる。
驚くほど高い木の頂上に、なにやら怪しい影が動くのが見えた。
と、その影が突然木の頂上から飛び降りてきた!
「来やがったワン!!」
ドスッ!という重い音と共に地上に飛び降りたそいつは、しかし猿ではなかった。
猿の毛で出来た服を纏った大男。
「俺様は猿の林のボス、猿芝モンキだウキ!洞窟で引きこもってたか弱い犬っころが何の用だウキ?」
おいおい、語尾と体格が合ってないぞ。
それにしても、この2人は知り合いなのか?
「貴様みたいに策もなく敵の前に身を乗り出すバカではないのだワン」
「相変わらず口が悪いウキ」
「貴様も相変わらず顔がキモいワン」
おぉ、なにやら険悪だぞ。
これが犬猿の仲とかいうやつか。
「まぁまぁ、ここは仲良く・・・」
俺が仲裁に入ろうとしたのも束の間、2人の獣は一斉に声を荒げた。
「犬総勢200匹!戦闘用意だワン!積年の恨みを晴らすワン」
「猿総勢500匹!戦闘用意だウキ!顔がキモいとか二度と言わせるなウキ」
いつの間にか周囲の林に猿が群がっていた。
一匹の猿がバナナを皮を落とす。
それが戦闘開始の合図となった。
「「「ウキャァアア!!」」」
「「「ガオォオオオ!!」」」
え?なにこの展開。
ここに居たら死ぬやつやん。
「ちょっ!待っ!」
しかもモンキが一番に俺に襲いかかる。
「テメェ!犬じゃねぇなウキ!」
「桃から生まれたことに目をつぶると正真正銘ただの人間だよ!」
「じゃぁなぜ犬と戦ってるウキ?」
「勝手に戦い始めて俺もビックリしてんだよ!」
どうやらモンキは犬以外は敵視してないらしい。
しかしそれも俺の返答次第でどうなるか分からない。
「お前、人間ならあれ知ってるかウキ?」
「あれ?」
「きび団子」
「まぁ、知ってるけど」
俺の婆ちゃんの得意料理。
最近ボケて忘れた。
「あれは俺様が食べた中で一番美味な料理だウキ!もしくれたら見逃してもいいウキ」
「いや、持ってない」
「じゃぁ話は終わりウキ。恨むならきび団子を恨むウキ」
そう言い、モンキは俺に向かって金棒を振りかぶる。
おい待てそれは死ぬってかその武器は普通鬼が使うものだろおい。
「ま、待て!」
「俺様をこんなに失望させるとは犬の仲間に違いないウキ」
「きび団子持ってないやつは皆犬かよコンチクショウ!いや、そうじゃなくて良い話があるんだ」
ピタッとモンキの金棒が止まる。
「俺の婆ちゃんは、実は世界一美味いきび団子を作れるんだ」
俺の中ではだけど。
「本当かウキ?」
「あぁ、しかしそれも昔の話。鬼が暴れるようになってから町のきびが不足してるんだ。それで、ここ最近は一回もきび団子を作れていない」
本当はボケて忘れてるだけだけど。
「それは酷い話だウキ!」
「だろ?けど、もしその鬼が居なくなったら?」
「・・・きびが作れるウキ」
「そしたら?」
「きび団子が作れるウキ!」
「鬼を退治したのがお前の功績と知ったら!?」
「俺様にいっぱいきび団子作ってくれるウキ!!!」
「やるしかないでしょ!!」
「ウキャァー!」
モンキが手を高く上げて叫ぶ。
「戦闘やめ!!!!これより俺様達は鬼ヶ島に向かうウキ!!!」
全ての猿が制止する。
「待てワン!私は納得してないワン」
「おい、ここで戦力を失うとビーフジャーキーが遠のくぞ」
「戦闘やめ!!!!すぐにビーフジャーキーへ向かうワン」
どこ行く気だよ。
だが、これで猿も仲間になった。
戦闘でいくらか負傷したものの、犬200と猿500。
これなら雉なんて楽勝でしょ!