表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/251

日常

 それから十一年の時が経ち、二十七歳になった篠原は、自転車に乗って近所のコンビニに向かっている。

 漫然とタカシのことを考えながら、漫然と自転車のペダルをこいでいる。

 時刻は午後十時の少し前。季節は冬の初めの十二月。別に、夜食を買いに行くのではない。篠原は、そこでアルバイトをしているのだ。勤務時間は夜の十時から朝の六時、全八時間の深夜勤務だ。


 いつものように店の裏手に自転車を停め、煌々と明かりが灯った店内に足を踏み入れると、すでにユニフォームに着替えて売り場に出ていた同僚の村井が、「ギリギリだよ、篠原くん!」と、笑いながら壁の時計を指差してみせた。

「あ、本当ですね」と篠原も時計に目をやって、笑顔で言葉を返しつつ、小走りになってバックヤードのほうへと向かう。

 スウィングドアを片手で押そうとした瞬間、中から、私服姿の渡辺が出てきた。

 篠原より六つ年上の三十三歳で、この店の雇われ店長だ。色が白くて背が高い、若い頃はだいぶ馬鹿やってました、という感じの雰囲気の人だ。

 篠原は慌てて右手を引っ込めると、彼に向かって挨拶をした。

「あ、お早うございます!」

 すると、渡辺店長は笑みを浮かべ、「ギリギリだよ、篠原くん!」と、村井と全く同じセリフを言ったかと思うと、ポンポンと篠原の肩を叩いてみせた。そして、「俺もう帰るから、あとよろしくね」と軽い口調で付け加えると、足早にレジのほうへと向かって行った。

 篠原はもう一度壁の時計を見上げてみた。確かに、遅刻ギリギリの時間だった。

 スイングドアを改めて押し、滑り込ませるようにそこから体を中に入れると、篠原は再びの小走りで、奥のほうへと向かって行った。


 中は、長方形の狭いスペースだ。うなぎの寝床、といった感じの空間だ。カップ麺やお菓子などの在庫が並んだスチール棚、ウォークインの冷蔵庫へと繋がっているクリーム色の厚い扉、小さな椅子と机が置かれた従業員用の休憩スペース、全身が写せる大きな鏡と、男女別の細長いロッカー。どこのコンビニでも共通であろう、そんなものが並んでいる。

 それらの間を足早に抜け、ずんずんと奥のほうへと足を進めて行く篠原。パソコンや電話などが置かれた一番奥の大きなデスクの前で行き、『篠原圭一』と書かれたタイムカードを壁のラックから引っ張り出すと、素早い手つきでその横の箱型の機械に押し込んだ。

 ガチャリと小さな音がして、タイムカードが押し上げられる。

 恐る恐る見てみると、印字された出勤時間は、午後九時五十九分。

 ……ギリギリセーフだ。

 ユニフォームに手早く着替え、ささっと髪を整えると、接客五大用語の読み上げはいつものようにスルーして、篠原はすぐに売り場のほうへと出て行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ