第9話~学園都市入学編④
始めの合図がかかるやいなや僕は本能のままに右足で地面を蹴って身体を押して飛び出る!
「ほぅ」
少し驚いた顔をした教官が構える。
僕は手に持っていた剣を#袈裟懸け__斜め左__#に振り下ろす。
「シッ!」
カンッ!!
「ふんっ!」
グレモリー教官の大剣はやはり重く、大剣を振り上げる動作のなかで剣は弾かれ、身体が少し浮く。
そして振り上げられた大剣は迷うことなく僕に振り下ろされる!
「ぐぅ!」
慌てて剣を両手で支えて受け止めたがむこうは剣の質量と腕力にものをいわせているのでジリジリと剣を支える僕の腕が下がってくる。
「どうしたぁ!初めの1撃はまぐれかぁ?」
(あなたに軽々と弾かれましたけどね!)
なんて考えている暇もなく、そのままの状態で後ろに弾き飛ばされる。
なんて馬鹿力なんだ!
「ではこちらから行くぞ!」
巨漢に似合わず軽快なステップでこちらまで詰め寄ると軽々と大剣を振りかぶり下ろす。
ほぼとっさで避けたが……
ドォーン
木刀の質感ではなるはずのない音が練習場に響き渡る。
「「うぉ!?」」
「なんだなんだ!?」
「グレモリー教官が生徒と戦ってるぜ!」
「あいつ誰だよ?命知らずなやつだなぁ」
「たぶん特待生試験だろうけど可哀想に」
地面にめり込んだ剣をみるに当たったのなら洒落にならなかっただろう。
さっきの音を聞いてか野次馬も多くなる。
「ヒュー、やるねぇー」
ノースが相変わらずな顔で野次を浴びせてくる。
そんな僕は闘いの真っ最中で構っている暇はない!
「ほらほらほらほらほらほらぁ!」
右へ左へと絶え間なく繰り出される連撃は全てが重く、全てが受けれず、キレもあるからうまく避けれもしない。
「ぐぅ……!」
思わず後ろに下がる。
確かにスキルのおかげかただの素人よりも剣を振るえているのかもしれないが教官の前では手も足も出ない!
お互いに睨み合う……グレモリー教官が圧倒的に有利なのに仕掛けて来ないのは、ただ単純に力を測っているからか……それとも戦いを楽しんでいるだけなのか?
しかしさっきまでの戦いでなにも学んでいないわけじゃない!
「反撃と行こうか……」
ニヤリ
最初同様にまっすぐと地面を蹴って飛び込んでいく。
「単調だなぁ!」
教官は剣を真上に振り上げた、間合いに入ってきたらそのまま叩きつけるつもりだろう。
僕は剣を後ろに引く。
しかしさっきまでと違うのはここからだ!
(ここで左足で右へ!)
グレモリー教官の左に飛ぶ、そう教官は筋肉のつき具合からして右手が利き手だろう。
利き手の方の部位がその人にとって成長しやすいのなら、右足も利き足だし右目も利き目に違いない……つまり左方向は死角の中でもより反応がしにくいっ!
反応できないグレモリー先生の剣をかわしながらも移動する。
グレモリー教官の左後ろに達した時に違和感に気付く……言い知れぬ違和感。
(集中しろっ!!)
後ろに振りかぶっていた剣を前に突き刺す!
剣のリーチも同じ!相手の死角からのタイミングも良いこの攻撃よけれるはずが!?
「甘いわっ!!!」
教官はそう叫ぶと体勢を低くして大剣を回転しながら振り回した!
「なんてでたらめな!」
突き刺しに行っていた剣が弾かれて姿勢が大きく左にぶれる
「ふんっ!!」
メリッ!
回していた大剣を避ける暇なく崩れた身体に回転しているスピードも加えた大剣が腹にめり込んだ、教官はここぞとばかりに力を入れて吹き飛ばす。
「ぐふぅ!」
宙から見た教官はまるでホームランを打ったかのごとく、またはゴルフでドライバーで思いっきり振り切った時のように完璧なスイングをしていた。
3メートルほど浮いてから背中から地面に落ちる。
「がぁっ!!……なんて…馬鹿力……」
意識が遠のく…………
しかしこれは夢だろうか?
目の前には年老いた老人がいる。
「よいか……適度な緊張があるときが……1番身体が動く時なんじゃよ」
もやぁと老人が蜃気楼のように消える。
次には筋骨隆々とした若い男の人が出てくる。むさくるしい筋肉の割に顔はハンサムだ。
「何回も言っただろ?力は入れるだけじゃないんだ、どんな時に力を抜いたら有利に進めるれるかを考えてみなさい……戦いだけじゃないぞこれはいろんな所で生かせれるんだ。早く身につけれるといいな」
これは……記憶だ。
でも……俺のじゃない。
「そうこれは僕の記憶だ」
突然若い男の声が響く、声だけで判断するのなら同い年ぐらいだろう。
「誰だ!」
「君は僕で僕は君だ」
こいつは何を言ってるんだ?君は僕で僕は君だ……だと?
「訳がわからない……」
「わからなくてもいいよ。いつか絶対にわかるから、わからないままなんてできないよ」
どこか自嘲が含んだ様な、嘲るような声が響く。
どこか聞いたことあるのはこの世界の自分の声だからか?
「にしてもひどいやられっぷりだねー、悲しいなぁ僕はそんなに落ちぶれてないけどなぁ?」
クスクスと笑い声がする。
「ほら君のLupitも暴れたそうだ」
するとまるで地面から響き渡るかのような唸り声がする、唸り声だけで地面が揺れるなんてのは聞いたことがない。
「力はもう持ってるよ……近道をするか遠回りをするかは君次第だけど君は……遠回りをするんだろうなぁ」
「ほら思い出してよ力は?」
「……入れるだけじゃない……」
「「力の使い所に勝利の鍵がある」」
「ほら、やっぱり覚えてる」
大剣を構えてアルに近づく教官に静止を促す。
「教官!もう勝負はつきました!やめてください!」
「まだだ!こんなものが特待生だとぉ?ほかの特待生はもっとやれるぞ!」
明らかに意識を失っているアルを見る。
呼びかけに応じない時点で教官の勝ちは決まっていたのになぜこの人はいつもいつも……そんなに特待生が憎たらしいのだろうか?
まだアルに向かおうとする教官の前に急ぐ。
「それ以上は生徒に対する暴力行為です!」
教官はさっきよりかは苛立ちが収まったのか歩みを止める。
「だがなぁ……」
「彼はきっと学力の部分で優れていたのではないでしょうか?」
と言いつつ僕もなぜ彼が武力の試験を受けろと言われたのかがわからない。
普通、特待生は得意分野においての試験を受ける。例えばアルの場合は武力に優れているから学力試験は回避することができたということになる。
しかしアルは最初の1撃以外はほとんどが素人同然だった。
さっき、1回も戦ったこともないし剣も握ったこともないと言ってたけど……どういうことなのだろうか?
教官の苛立ちも少しはわからないことはない。
「あーあ、特待生だから期待したけど……親のコネかなぁ?」
「こんなやつ見たことねぇーけどな」
「ははははは」
見かねた生徒が帰っていく。
早くこの場を収めて彼を医務室に連れて行かないと、と思った時!!
声が聞こえた
「「勝利の鍵がある」」
グレモリー教官にも聞こえたのか声の主を探るが倒れているアル以外には見当たらない。
瞬間、爆発するかのような魔力の上昇を感じた!
練習をまだしていない僕でもこんなにも強い魔力を感じ取ることができるのはそうない。
「うぅ!」
意識を失ってたはずのアルが突然飛び起きる、内臓にまで響いているはずの怪我をものともせずに。
「まだ闘いは終わってないですよね?」
それを聞いた教官が置いていた大剣を片手で構えるとニヤリと笑い叫ぶ!
「あぁ、まだ終わってないなぁ!!」
2人は同時に走り出した。
「うぉぉおおお!!」
「はぁああああ!!」