第8話~学園都市入学編③~
ノースは屈託もない笑顔で「良いよ」と答えてくれた。
それから僕らは何も話さずに無言で歩く、城の外に出るとコロシアムの様な形をしたドーナッツ状の建物に入っていく。
アーチの形をした玄関から入り通路を歩いているとノースは突然立ち止まる。
「着替え……制服って言ってたっけ?」
学園長なんて言ってたっけ?
「制服でいいんじゃないかな?」
高校の制服や学ランよりも天地の差がある制服が着たいという期待があった。
「じゃあこっちに」
案内されたのは小さな小部屋、小さいといっても20畳はありそうだ。この世界のスケールの大きさにどうやら感覚がおかしくなってきたのかもしれない。
木で作られた棚の中からノースが来ているような服を取り出す。
「これがズボンで……こっちが服ね、サイズはたぶんこれだと思うよ」
感謝の言葉を言いつつ、ノースから渡された制服を見る。
汚れていなくシワも少ないためあまり使われていないと感じた。
実際に着てみるとピッタリと自分のサイズでズボンや肩周りはストレッチの様な素材で出来ておりとても動かしやすく思わずその場で軽く柔軟体操をしてしまう。
ノースがこちらを不思議そうに見てくる。もしかしたらこっちには柔軟体操がないのかもしれない。
「ピッタリでビックリしたよ」
「へへ、いろんな職業は体験してきたからね。服屋で働いた名残でサイズが目測で軽くだけど測れるんだ」
「ありがとう」
「このあと試験があるけど内容はわかる?」
この後学園都市に入学するために試験をしないといけない、小説や漫画のように試験もなしで入れてくれる所はそうないらしい。
「全く」
「まず試験の内容だけど今から試験官の先生と1対1の決闘をやってもらうよ。使用する武器は色々と置いてあるからそれを使って。有効な1本を相手から取るか……まぁ相手は先生だからね先生の持っている時計で3分?耐えれれば合格だと思うよ」
「有効な1本?」
「うん。頭、首、心臓などの急所を寸止めするんだ。使われるのはどれも木製だから当たっても大丈夫だと思うけど……あっあと魔法は禁止だよ身体能力を測るためだろうね」
何気なく質問したけど決闘!?
決闘ってあの刀を持って侍とかがやってる!?
命とか奪うやつだよねっ!?
「むりむり剣もなにも持ったことないし、闘いとかしたことないし!」
「記憶喪失で記憶がないだけじゃないの?大丈夫だよー、身体が覚えてるよ!……たぶん」
「たぶんってなにさ!?」
そういえば僕のステータスに剣術というスキルがあった気がする?もしかしたら意外とチートスキルとかなのかもしれない。
「ほら行くよ」
ノースに連れられるままに奥に進まされる。
今日は生徒はいないのだと思っていたがチラホラと同じ制服を着た生徒とすれ違う、ノースの顔を見たあとに明らかにこいつ誰?という顔をして通り過ぎていく。
確かに誰だよ。
薄暗い通路のむこうにはかなり空間があった。
「ここが練習場だよ」
ノースとともに練習場を見る、練習場の広さはサッカーコートが8個ぐらい入りそうだ。それを囲うように観客席が配置されている。
高さが高さだけに相当の人数が収容できるだろう。
中に入ると床は土と上に被せてある2センチぐらいの砂で出来ていて、足が取られるほどではないのだがこれは倒れた時の衝撃をおさえるためのものだろうか?
さっきから鳴り響いている木刀を打ち合う鈍い音の方に自然と目がいく。
試合のように木刀を交えている生徒が何組もいて、怒号やその殺気のようなものに圧され思わず足がすくんでしまう。
圧倒されるなかでノースはさっきまで生徒達を見ていた1人だけ威圧の違うの人の元に歩いていく。
「グレモリー先生!特待生のカミイアルを連れてきました。グリモワール学園長より試験をしてもらいたいとのことです!」
目の前に立っているのはいかにも鬼教官の様な風貌をしている男だった。
頭はスキンヘッドでおでこから右の頬まで切り傷だろうか?が伸びていて顔だけで人を圧迫できるような顔をしている。
「特待生か……ふんっ!」
ブンッ!!
木刀を1振りしただけで風が起き少しだが砂が宙に舞う。
ああいうのを大剣というのだろうほとんどの生徒は一般的な木刀を手にしていたのだがこの人が持っている木刀は1まわりも2まわりも大きさが違う。それを片手で持っているのだ、いかに木製だといってもそれはやばくないですか。
「初めましてアル?君俺の名前はグレモリー・グロウリーだ!あまり緊張することはない!」
声の大きさに全身の毛がたったかのように感じた。
「どうせ書類上の試験だ!気軽にいこうじゃあないか!!」
コノヒトハカッテニナニヲイッテイルノダロウ?書類上の試験とは?
「あぁ言っちゃったよあの人……。」
ノースはやれやれと頭を振ると顔を近づけて耳打ちをしてくる。
「特待生だからほんとはもう入学は決まってるんだよ。試験なんて形だけなんだ、だって他の生徒に示しがつかないだろ?まぁここでその特待生の優れているのが武か?智か?みんなにわかるからね。教官も張り切るわけよ」
ノースは顔を遠ざけると色々な武器が入った籠を持ってきた、もちろんすべて木製だ。
「さぁ、自分の直感で選ぶんだ」
ガラガラッ
(直感とか言われてもなぁ)
普通の形をした木刀を持ってみる……無難に軽く振りやすい、でも軽すぎて両手で振りにくい盾も持ってみたがどうにも性に合わないようだ。
次に刀身が20センチぐらいのナイフだろうか?を持ってみる……まるでおもちゃを持っているかのようだ。
色々と持ってみる中で1本だけピンとくる武器があった僕はそれを持ってまたノースの所に向かう。
「へぇその武器……僅かにだけど長剣よりも少し長いね」
なぜこの武器にしたのかはよくわからないがほんとに直感だろう。この武器は使い慣れている気がしたからだ。
教官の元へと歩いていく中で自分の感覚が研ぎ澄まされて行く気がした、身体はこの瞬間を待ち望んでいたかのように。
(適度な緊張下の元でこそ最高のパフォーマンスが出来ると誰かが言っていたっけ?)
「その剣でいいんだな?」
僕は自信を持って言う
「もちろん!」
「ノース!!審判だ!!」
戦ったことはないけれどもなんだか本当に身体が覚えている気がする。
この身体は僕のじゃない、身長こそ同じぐらいだけれども違う、神様は僕をどうやって生き返らせたのだろうか?この身体は誰かのもの?
「アルっ!いいかいっ!?」
いっちょやってやりますか!
ノースの目を見て頷く。
挙げていた右手を下ろしながらノースは言った
「始めっ!!」