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亡国戦線――オネエ魔王の戦争――  作者: 石和¥


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荷馬車の行方

夜明けとともに王国の城門を出た17台の荷馬車は、昼前には南部領に入った。速度が遅いのは長い隊列を乱さないため。そして襲撃を警戒しているためだ。

それぞれの荷台には手枷足枷を着けられた獣人たちが20余名、むっつりと押し黙ったまま詰め込まれていた。


総勢349名の彼らは元魔王領軍近衛歩兵連隊。率いるのはいかにも古強者といった面構えの人虎族コムス曹長。部下たちと同じ下級魔族である彼は下士官以上にはなれない。連隊を指揮することなど有り得ないのだが、将校である中級・上級魔族を失ったため、最先任の彼にその任が回ってきたのだ。

将校たちが消えたのは離反と戦死によるものだが、そこにはかなりの“消息不明”が混じっている。平時の人望は戦時に明らかになるものだ。


「曹長」

「まだ動くな。部下たちにも伝えろ。国境近くまで行ければ、逃げ延びる可能性もある」


魔王領まで送ると事前に説明を受けてはいたが、死刑囚の彼らに信じる者はない。解放するなどといって王都から運び出し、人目に付かない場所で密かに処刑するつもりなのだと確信していた。


食事も休憩もなく走り続けていた馬車が止まったときには、日も中天を越えていた。

外を見た獣人兵士たちは思わず生唾を呑み込む。目の前にあるのは魔王領との境界を守る王国南部領の南端、国境城砦だ。

彼らの心によぎるのは、故郷に帰れるかも知れないという希望と、魔族の鼻先で見せしめに殺されるかも知れないという警戒。


「いいぞ、降りろ降りろー」


砦の王国軍兵士が、獣人たちに命じて各自荷台から降りさせる。敵国の軍事施設内に降ろされた彼らは、互いに背後を守るように円陣を組み周囲を警戒しながらある筈の敵影を探す。


「おい、何してんだ。そんなに固まってたら、それ外せないだろ?」


近付いて来る王国兵士を見て、コムス曹長は部下たちに待機の合図を送る。何かがおかしい。静かすぎる。


「大陸公用語がダメなのかね? あーっと、ケミカ・オラ・コミエンテ・ナ?」


350もの敵の獣人兵士を前に、武器の長槍を手放し壁へと立て掛ける王国兵士。そのあまりの迂闊さに言葉を失ったが、心の声は罠だと叫ぶ。ここで不用意に動けば虐殺の口実を作るだけだと。あるいは。コムスは迷う。

全てがこちらの思い過ごしなのだとしたら。


「警戒解け、総員整列!」


曹長の号令を聞き、部下たちは瞬時に反応する。両手足を拘束されていながらも2秒と掛からず整然と並び終えた獣人たちに、今度は王国兵士が言葉を失った。


その間にもコムスは警戒を怠らなかったが、周囲に動く者はなく、気配も魔力も感じられない。

罠では、ないのか。

コムスが目を向けると、迂闊な王国兵士が気の抜けた顔で笑う。


「なんだ、言葉わかるのか」

「当たり前だ。むしろ獣人古語なんてわかる奴の方が少ないぞ」

「獣人古語?」

「お前が、先ほど話していたやつだ。“ケミカ・オラ・コミエンテ・ナ?” ……我が言葉を心に留めよ、か。なんで女性幼児語なのかと思ったが、わからずに使ってたのか」

「いま大流行の台詞なんだよ。“悪魔の涙”の殺し文句だ。“聞いて、これは大事なこと”ってな。いやあ、泣ける……」


悪魔の涙。

確か魔王領に伝わる古い子供向けの話だが、なんでまた王国の、それも大人がそんな話に興味を持ったのか。

ひとの流行とやらに理由などないのだろうが、魔王領におかしな影響でも及ばさなければいいが。


「ああ、来たぞ。あんたらのお迎えだ」


ざわりと、兵たちが静かにどよめく。

指された先を見て、コムスは思わず息を呑んだ。

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