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亡国戦線――オネエ魔王の戦争――  作者: 石和¥


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侵略の序曲2

「……というわけ。わかってもらえた?」

「まったくわからん。いや、概要と理屈は朧気ながら理解したのだが、意図が微塵も納得できん」

「姫様ん領地(とこ)の、税吏? でしたっけ。会計や経理を担当されてる方とお話しした方が良い?」

「話すのは構わんが、守銭奴モースに目を付けられたら領地ごと盗まれるぞ」


 ……どんな税吏よ、それ。


「“魔王ソーダ”おふたつお待たせしました~」


 トレイに真鍮のカップを載せて運んできたのは、タバサ伍長の重装歩兵分隊で前衛(ポイントマン)を務めるミルトン上等兵。能天気な声とスッキリ切り揃えられた短髪、シンプルな白のエプロンドレスが良く似合う少年のような爽やか系猫耳美少女だが、その愛らしさに似つかわしくない戦歴を持つ猛者だ。

 まあ、新魔王軍(ウチ)の女性陣みんなそんな感じだけど。

 ミルトンちゃんは姫騎士とアタシを交互に見て、ニヘラッと笑みを浮かべる。そんなん(・・・・)じゃないわよという意味を込め、手を振って下がらせる。


「むむッ、これは何だ。ピリピリと喉が痺れるが、後味が爽やかで美味いな。魔道具で冷やしているのか?」

「“魔王ソーダ”よ」

「……味は良いのに、ネーミングはひどいな」

「アタシもそう思うわ」


 姫騎士殿下が手にしたカップには、大きく“魔王ソーダ”と刻んである。ネーミングのセンスがアレなのはイグノちゃんの常だ。しかも、冷却保温の魔法陣を兼ねるとかであまりに装飾的な字体(というか紋様)になってしまい、幸か不幸か誰にも読めない。


「魔王城のあるルメア山脈の裏手にね、いくつか良質の岩清水(ミネラルウォーター)が湧いてるんだけど、そのうちのひとつに天然の炭酸ガス成分が含まれているものがあったの。それを冷やして果汁を混ぜたの」

「次から次へと、わけのわからんものを……いや、しかし美味い。暑いときに飲むと素晴らしく美味いぞ」


 喉が渇いていたのかよほど気に入ったのか、姫騎士は大振りのカップに入った“魔王ソーダ”をグビグビとひと息に飲み干した。


「ああ、そうだ。ひとつ気になったことがあった。というか、訊きたいことがな。ここの軽食をいくつか買い求めて試したのが……味がおかしい」

「あら、どこか御不満でも?」

「逆だ。レシピはともかく、使われている素材はおおかた判別できたのだが、ひとつだけ……いや、違うな。全ての料理(・・・・・)に含まれている何か(・・)の風味が、何によるものなのか、わからなかったのだ」

「召し上がられたのは、フライドキチンと、ホットドッグでしたっけ?」

「ハンバーガーとケンチンスープと魚のテリヤキとポテトフライ、ヤキトリとイチゴダイフクもだ」


 ……また、えらいたくさんお買い上げくださったのね。そのほっそりしたウェストのどこに入ったものやら。


「イチゴダイフクには含まれていなかった……が」


 自分で話しながら答えに辿り着いたらしい。自領で産出しないから意識に登ることもなかったのかもしれない。

 それにしても、これほど(・・・・)とは。


「おわかりになられましたか」

()だ。そうだな!?」

「ええ。さすがね。素晴らしいわ殿下、そこまでわかってくださる方がいるなんて、アタシの優秀な部下たちが頑張った甲斐があったというものです」

「だが、塩は塩だろう? 何が違う」


 アタシは、ポケットから小袋を差し出す。先程ルーイン商会との商談で手渡した物の残りだ。庶民の小売り用に小分けされた300グラムほどのもの。


「その塩です。お付きの方にも、お土産にお渡ししましたが……まあ、少しだけ舐めてみてください」


 少量を掌に出すと思ったら、姫様は袋ごと傾けて口のなかに流し込む。

 ……ワイルドね。


「……これだ。この匂い、いや香りか。そして後に残る味。どこかで経験したのだが、思い出せん」

「ふだん王国で使われている岩塩と違って、海の水から精製した塩は、ミネラル……ええと、海の栄養の味がするものなんです」

「これも売り物か」

「ええ、あちらを」


 指差した先、商店街の隅の方に、波のマークの看板がある。

 大行列というわけではないが、ひっきりなしにお客さんが出いるしている。出てくる人たちのほとんどが手ぶらなのは、大口の購入で店の人間が馬車に届けるからだ。


「わたしがいうのも何だが、王国にも売るのか。厳密にいえば軍需物資だぞ」

「いったでしょう? これがアタシたちの武器。これがアタシたちの侵略だって」


 姫は、わずかに警戒した顔になる。当然だ。塩と水を絶たれると、人は簡単に死ぬ。平時に供給量を上げて依存させ、いざというときに供給を止める。誰でも考える手だ。


「大丈夫ですよ、既存の販路を潰すほど供給する気はありません。まだ(・・)供給量もそれほどありませんしね。売るのも、とりあえずはメレイア(ここ)だけです」

「ちなみに、値段は」

「その袋ひとつで銅貨3枚。末端での販売価格(・・・・・・・・)までは、こちらで管理できませんが」

「……冗談だろう、この品質で標準岩塩と等価だと?」


 軍事に秀でているとは聞いていたが、内政にも通じているようだ。塩の価格まで把握しているとは思わなかった。こちらの視線でわかってしまったのか、姫は少し不機嫌な顔をする。


「軍需物資だといっただろうが。塩と小麦と水と炭、鉄と(まぐさ)(馬のエサ)の価格変動くらい常に調べている。特に塩はな、水の次に切実だ。切れると兵の動きが鈍る」

「これは宣伝文句(セールストーク)ですけどね、ミネラル入りの塩は岩塩より美味しくて身体に良いんです。プレミアム狙いという方法もあったんですけどね」

「ぷれみあむ? 聞いたことのない言葉だが、稀少価値のことか。確かにそれなら恨みを買わずに儲けを出せただろうに」


 文脈を読んだのだろう、姫騎士殿下はすぐに意図を察する。こういう相手は、話していて楽しいが商売相手としては怖い。押されそうになるところを笑顔で踏みとどまる。


「ええ。ですが、まずは多くの人に知ってもらいたかったんです。アタシたちが何をどう商うか。こと商人に関していえば、フェアな戦いをする相手の方が怖い。違いますか?」

「商売の話はわからんが、愚かな蛮族(・・・・・)との戦いが楽なのは事実だな。無事に済んで良かった」


 アタシは、顔色が変わったことを自覚する。笑顔でとぼけようとして、すぐに諦めた。姫騎士配下の偵察部隊が、魔王領内に入り込んでいるということだ。あるいは。


「一蓮托生なんだろう、貴殿の戦況くらい調べさせているとも。だが、斥候を送っているのではない。話すと長くなるのだがな」

「時間は、ありますよ。未来に繋がる話なら特に」

「……ハーン魔王陛下(・・・・)。貴殿を見込んで頼みがある。王国の獣人たち(・・・・・・・)を、救ってもらえないだろうか」

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