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亡国戦線――オネエ魔王の戦争――  作者: 石和¥


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初めての領地奪還作戦4

 戦闘終結後、村を訪れたアタシを出迎えてくれたのは、ほぼ無傷の友軍兵士たちと、下級魔族の領民2130名。そのほとんどが混血を含む獣人族(ウェア)だ。

 叛乱軍に備蓄を奪われてしまったらしいので、訪問がてら機械式荷車2台分の補給物資を差し入れた。メインは使い道のなかった帝国軍の軍用糧食だ。あんまり美味しくないが、栄養価は高いし日持ちもする。

 収穫前の畑は無事。少し育ちが悪いというが、不作とまではいかない。レイチェルちゃんの試算では、交易を含めて考えると収支はプラス。来年まで村民の暮らしを支えるくらいは問題なさそうだ。

 アタシの前に平伏するのは村長のメイブル。初老の人牛族(ミノス)で、若い頃は怪力を誇っていたと思われる巨漢だ。節くれ立った手と赤褐色に焼けた肌は、長く過酷な野外労働に就いてきた証だろう。叩き上げの働き者というわけだ。

 ただ、アタシに対する態度は、敬意というより恐怖に近い。


「ああ、立ってちょうだい。そういうのは結構よ。新魔王領(ここ)では、これからずっとね」

「……だども、ワシは下級魔族だす」

「階級を厳守するのは軍だけでいいわ。第一、アタシ自分が何級魔族か知らないし。すぐに対応するのは難しいとは思うけど、あんまり気にしないで」

「……へえ」

「怪我人や病人、何か困っているひとは?」

「へえ、奥の療養所におりますだ」


 バーンズちゃんたちの護衛に守られながら村の奥へと向かうアタシたちを、獣人族の村人たちが恐怖と好奇心の入り混じった目で見守る。いますぐ態度を改めろといっても無理な話だから、せいぜい笑顔で手を振る程度に留める。


「中級魔族は獣人族を必要以上に蔑んでおりましたが、その結果として住人が慰み者になることだけは避けられました」


 バーンズちゃんのコメントには少し苦悩が混じっている。つまり、虐待自体がなかったわけではないのだ。その予想は当たる。

 療養所と呼ばれた建物は村の北東、崖下に近い場所にあった。民家からは少し離され、垣根で隔てられている。縦横高さが10メートルほど、倉庫を二階建てに改装したような、広く古びた木造建築だ。雨風程度は避けられるが療養というには程遠く、要は疫病などが発生したときの隔離施設だ。

 唸り声とすすり泣く声がして、入る前から気持ちが沈む。薄暗がりでこちらを見る目はどんよりした感情で濁っている。


「はあい、アタシはハーン。新しい魔王よ。挨拶も平伏も結構、そのまま楽にして聞いてちょうだい」


 反応はない。視線が合うなりビクリと身体を震わしたのは、人狼族らしい若い女性。性的虐待はなかったと聞いたんだけど、報告外の事例があったとしたら、こちらではわからない。


「村長さん、重傷者から先に手当てがしたいの。若い人たちで手を貸して一か所に集めてくれる?」

「……へえ」

「魔王陛下、それは自分たちでやります」


 躊躇して固まる村長を制し、バーンズちゃんが部下を連れてテキパキと誘導を始めた。怯える傷病者はなかなかいうことを聞かず、次第に泣き出す者まで現れる始末。


「母ちゃんを、殺すのか!」


 振り返ると棒切れを構えた人猪族(オーク)らしい少年が、アタシを睨みつけていた。イノシシに似た風貌だが、毛並みがフサフサして縞模様がある。いわゆる“ウリ坊”の状態だ。可愛らしい顔を怒りで真っ赤にしているが、その頭にも血の滲んだ粗末なボロ布が巻かれている。


「するわけないでしょ。助けに来たのよ」

「信用出来るか! お前ら()の魔族どもは俺たち獣人族のことなんか虫けらくらいにしか思ってるぶぉあ!?」


 少年はお尻を蹴り上げられて転がった。慌てて起き上がるが、反撃しかけた彼は相手を見て固まる。そこにいたのは、憤怒の表情で牙を剥いた人狼族軽装歩兵ハインズ伍長。

 逃げ出しかけた少年の頭をわしづかみにしてしゃがみ込み、耳元に囁く(・・)


俺は何だ(・・・・)

「ぅへ?」

「俺たちは魔王陛下の命令で、森精族(エルフ)を倒し、小匠族(ドワーフ)を殺した。それもこれも、お前たちの村を解放し、助けてやるためだ。なあ坊主、俺は何族だ(・・・・・)?」

「……だって」

「家族思いなのは良い。戦う勇気も褒めてやる。だが、敵味方くらい見極めろ」


 アタシは伍長に後を任せて、傷病者たちのところに向かう。少年があそこまで(いき)り立っていっていたのは、たぶん過去に似たようなことがあったからだろう。

 積み上げられてきたものは、すぐには変わらない。


 療養所の奥に、重傷者が集められていた。戦闘か虐待か労働中の事故かはわからないけど、手足や顔に傷や欠損がある。虚ろな目で宙を見上げたままの中年女性は、何かの病気だろうか。精神的なものじゃなきゃいいけど。


「改めてご挨拶させてもらうわ、アタシは新しい魔王のハーンよ。あいにく戦う力はお粗末なもんだけど、安癒だけは得意なの。心配しないで、すぐ楽にしてあげるから」


 あら皆ビクッて、言葉の選択を間違えたわ。言い訳するだけド壺にハマりそうだし、もうこのままやってしまいましょ。


「はい兵隊さんたち離れて、始めるわよ」


 身を寄せ合い涙目で悲鳴を押し殺し、戸口で見守る村の面々に、助けを求めるように手を伸ばす。実力を見せなきゃ、信用してくれなんて、いえない。


「「「!!」」」


 魔力を集中させると、傷病者が一斉に息を呑む声がした。魔圧が低いと回復し切れないし、掛け過ぎると害になる。まだその加減はわからないから、回復過程を目で見るしかない。欠損と傷が消えたところで止める。後は必要があれば個別に対処する。

 もうチョイ便利に自動調整(おまかせ)って、出来ないものかしら。


「母ちゃん!」


 虚ろな目をしていた女性に、さっきのウリ坊が駆け寄る。息子を撫で回す彼女は寝惚けたような戸惑いの表情だったが、ハッと周囲を見渡し、いきなり正気に戻った。


「ああああ鍋! 火に掛けっ放し!」

「何いってんだよ母ちゃん、大丈夫か!?」

「……あら、ここどこよ。アンタ、なんでこんな……大きくなってんの(・・・・・・・・)?」


 よくわからないけど、まあ無事で何より。後は村長に案内されて、軽傷者の病床を訪ねる。骨折や擦り傷や火傷、不自由な身体ではあるが、回復は時間の問題でしかないというひとたちだ。

 調整が難しいので、ひとりずつ手で触れる。幸い、軽傷者程度なら撫でるだけで回復させることが出来た。いちいち大袈裟に感謝されるのがこそばゆい。


「まおー、へーか!」


 療養所から出ようとしたアタシを呼び止める声。パットみたいに幼くぎこちないそれは、さっきのウリ坊だった。涙と鼻水をダラダラと垂れ流しながら、アタシに駆け寄り飛びついてくる。


「がーぢゃん、おぎだ!!」

「え?なんて?」

「があぢゃん! あだま打っで! 何年も、目ぇ覚めなくで! ずっど、ごのまんまじゃねえがっで!」

「ああ、さっきの女性ね。良かったじゃない、お母さん大事にしなさいよ?」


 アタシは布切れを外して、ウリ坊の頭をワシャワシャと撫で回す。少しは傷と一緒に、頭も良くなるといいんだけど。


「ごめんなさい。へーかに、ひどいこといって」


 顔を上げると、母親らしい女性が村の住人たちと一緒に深々と頭を下げていた。


「いいのよ、いままで良く頑張ったわ。……ねえ、あんた名前は?」

「ラッセル」

「良い名前ね。ねえラッセル、お腹空かない? 荷車にご飯を積んで来たの。これからお店(・・)で出す試作品もあるんだけど、ふつうのひと(・・・・・・)の感想が聞きたくて……」


 けたたましい唸り声がして、周囲の兵や住人たちがハッと息を呑む。

 それがラッセルの腹の虫だとわかって、笑いとともに緊張していた村人たちの空気が緩くほどけてゆくのがわかった。

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