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亡国戦線――オネエ魔王の戦争――  作者: 石和¥


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初めての墓荒らし

“あまりにも高度な回復術は死霊術と区別がつかない”


 実際には、区別がつかないどころじゃなかった。その驚異は――そして戦力的脅威性も、死霊術を超えていた。

 自分の目で見たわけではないレイチェルちゃんは、蘇生者と会い会話をし回復のお世話までしたにもかかわらず、いまでも半信半疑だ。


「魔族に伝わってたのは事実ですが、それは半分冗談としてです。実現できると考えていたものはいません」

「確かに何かの冗談みたいな話よ。でもいまは面白がる気分じゃないわね。それで、御遺体は」

「練兵場の埋葬場所で準備に入っています。作業指揮はセバスチャンが」

「御遺体に触れるときは完全防備でね。伝染病が発生する可能性があるから」

「作業区画の隔離、防護服の着用は確認しました。城内の者にも、近付かないよう伝えてあります」


 アタシたちは、抽出可能な全兵力を偵察・監視・城内での防衛に回し、籠城戦に入っている。正確にいうと、籠城可能な人員の再生に取り組んでいた。


 実際の作業に当たるのは、アタシが蘇生させたセバスちゃんの知り合い十三名。下級魔族の軽装歩兵で、みな戦闘経験豊富なベテランだ。彼らは叛乱軍との魔王城攻防戦で戦死したらしい。まだ自分たちの置かれた状況をうまく受け入れられてはいないようだけど、こんな説明しにくい作業には彼ら以上の適任者はいない。


 事前に上限まで安癒を掛け、健康状態をチェックしながら十分な食事と睡眠、念入りな入浴で回復を促した。いまのところ肉体的に変調は見られない。問題があるとするならば記憶の混乱と精神的動揺だ。仲間内では軽口と笑顔が出るほどになってはいたが、パニックやフラッシュバックなどが起きていないのは単にまだ現実認識が麻痺しているせいだ。


 無理を掛けているのは重々承知している。兵力数十倍の敵勢力に包囲された状態では完全な回復を行うほどの時間はない。お叱りも恨み言も改善要求も褒章も、この戦いが済んだら可能な限り受け入れる。

 それを伝えると、蘇生者たちは揃って怯えたような戸惑ったような妙な顔をした。表現しにくいのだが、敢えていえば……


 ――ドラゴンに鼻面を舐められたみたいな顔。


 蘇生用魔術の影響と発掘時の病原菌が外に出ないよう遮断する隔離防壁はイグノちゃんが用意してくれた。見た目はトタンのような薄板で作られた簡易倉庫だが、二重扉である程度の密閉が出来る。簡易的な防護服と、細かい採掘作業が出来るようにアタシが要望を出した軽合金のスコップも。間違っても遺体に損傷を与えないため、機械を使わず手作業で行う必要があるからだ。

 作業監督はセバスちゃんが自ら鼻息荒く立候補して(というかねじ込んで来て)くれた。

 いまのところ問題はなさそう。


「あなたたちが埋葬記録を残しておいてくれたおかげで助かったわ」

「もともと、ちゃんとお墓を作れるようになったら埋葬し直すつもりだったのです。ですので簡易的にですが個体が混ざらないように布で包んでありました」


 実は最も助かったのは、各遺体の死因と損傷具合が記録されていたことだ。蘇生・回復不能なひとたちを除外して、可能性の高いグループを抽出することが出来た。

 後は……申し訳ないが実地で試すしかない。前回の成功例を基準にするなら、セバスちゃんが死霊術で初期の起動だけでもサポート(といっていいのか不明だけど)した方が良いのかもしれない。


「魂が残っていてくれたらいいけど……って、不謹慎な話よね。成仏していなかったら良いだなんて」

「魔王陛下のお力あっての奇跡です。感謝こそすれ非難されることなどありません」


 過去の魔術行使による魔力消費量を考えると、アタシは通常の安癒ならほぼ無制限に近く使える。注ぎ込む魔力次第では重傷者でも完全回復し、仮死者も息を吹き返す。さらに最大まで魔圧を上げ一気にぶつけることで死者の蘇生も可能になる。


 ただ、軽傷者や健康体に強すぎる安癒を掛けた場合、精神に重篤な障害を残す。……こともある。

 実際、叛乱軍の軍使にぶっつけ本番で試したけど、あれはもう、完全に“攻撃”だった。


「ねえ、レイチェルちゃん。人を殺すような安癒って、聞いたことはある?」

「文献でなら読みました。確か、王国の治癒魔導師が乱心して暴れたとき、その杖に直撃された人間は揃って生きたまま天国に迎えられたのだとか」

「物は言い様よね。それ、帰ってきたの?」

「目を覚ましたという記録はありません」

「……自覚はあったけど、やっぱ死んじゃうのと変わりないわね」


 ここに至っても、躊躇いがあった。叛乱軍とはいえ魔族同胞二千名を再起不能にするのは抵抗がある。さらにいえば、精神的にハッキリ拒否反応があるのだ。

 かといって、他に方法は思いつかない。時間もない。状況は、考える時間を許してはくれないのだ。

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