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初めての最期

 思えば、恥の多い人生を送ってきたわ。


 アタシには、ふつうの――三十代男性社会人の――生活というものが理解できないの。

 というか正直、理解したくなかったのよね。


 北の外れの小さな寒村で生まれ育って、男としても女としても中途半端で。どこにも居場所がなくて、誰にも受け入れられなくて。


 そんなの当たり前よね。自分自身さえ受け入れられなかったんだもの。


 最低。


 そんな人間は田舎じゃ異物。何をしたいのかも、何が出来るのかもわからなくて。ひとつ行動を起こすたびに、いちいち躓いて。ことあるごとに周囲とぶつかって、揉め事を起こして、どんどん世間を狭くした。


 でも、いまならわかるわ。

 アタシは、美しく生きたかった。それだけなの。

 自分の外見を綺麗にするっていう話じゃなくて。美しいもの、綺麗なもの、愛おしいものに囲まれて暮らしたかったの。

 不快なものや醜いものや間違ったものを世の中から排除したいってことじゃない。それをいうならアタシ自身が真っ先に排除されちゃうわけだし。


 アタシはただ……欲しかったの。アタシが必要としている何かと、アタシを必要としてくれる誰かが。


 ああ、何いってるのかしら。考えが上手くまとまらないわ。思考がグルグル同じところを回って。関係ない過去のあれこれが浮かんでは消えて。

 でも、ホントはわかってるの、これが……


 ――走馬灯だって。


「レイチェルちゃん! 目を開けて!」


 ママ?

 もう、なんて顔してるのよ。ふだんは完璧な美女なのに、お化粧が落ちてエラいことになってるわ。教えてあげなきゃ。興奮するとベヘリットに激似よねって。

 笑いそうになって腹筋に激痛が走る。

 思い出したわ。刺されたのねアタシ。絡まれてた若いコ助けようとして、逆上した男にナイフで。

 脈打つたび脇腹から赤黒いものが、お気に入りのワンピースを染めながら溢れ出してく。

 やだ、高かったのに。もう着れそうにないわ。


「……さま」


 変ね。すぐ近くで、声が聞こえたわ。

 不安げに取り巻く店の子たちの前で、黒いメイド服を着た少女――だと思うんだけど何か違和感がある――が、アタシを見下ろしていた。その背中で小さな翼のようなものが揺れてる。


「あら可愛い……でも、女の子は……お家に帰る……時間よ?」


「何いってるのレイチェルちゃん、しっかりして! お、落ちチュきなさい大丈夫、もうすぐお迎えが来るから!」


 ……どっちよ。あんたが落ち着きなさいよ。

 アタシは大丈夫。ホラもう、そんなに痛くないし。

 目の前に手を伸ばそうとするけど、思ったように動かない。メイド少女の身体を突き抜けて(・・・・・)、ママがアタシの手を取った。


 やっぱり、そういうことね。

 ママごめん。伝えたいのに、声は出ない。男前なママの顔が揺れながら滲んでく。


 ママ、良いひとよね。微笑んでると清楚な美人。なのに手だけはごっつくて頼り甲斐があるお父さんの手。薄汚い野良犬みたいになって都会に転がり込んできたアタシを、ひとりで生きていけるところまで鍛えてくれたひと。誰よりも大切で、誰よりも大好きなアタシのお母さん。教えてあげなきゃ。


 あなたといられて、幸せだったって。

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