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作品紹介(自身のHPより転載)

作者: みかしょー

ファンタジー好きが書く体験談

ボクがボクであり、ボクが何者なのかを意識したのは、そう。

キミと出会い、見つめあったほんの僅かな時間。

それから、ボクが死んでいくまでの、ほんの僅かな時間で、ボクがボクであり、ボクが何者だったかを知り、思い、考えることができた。



ボクは暗い所が好きだ。ちょっとした光でも鮮明に見えるからだ。

ぼんやり漏れてくる明かりも、とても小さな輝きも、暗い所からの方がはっきりと見える。

それに匂いもはっきりと感じる。大好きな木の香りも、微かに漂う米の香りも、暗い所の方がはっきりと感じる。

何よりも暗い所の方が、誰にも見つからず、邪魔をされることもなく、のびのびと走り回れる。

だから、ボクは暗い所が好きだ。



ボクがキミと出会ったあの日、ボクが自由を失ったあの日、ボクはいつものように暗闇の中を壁に寄り添うように走り回っていた。

温かい壁、冷たい壁、順繰りに走り回ってた。

そのとき、何かが擦れる音がして、白くて淡い光が漏れてきた。

物陰からその光を眺めていると、突然、後ろの方で橙の光が灯った。

ボクは驚いて、どうしようかと思い、淡い光が漏れてくる方に逃げた。

でも、光が通れる隙間でも、ボクが通るには狭すぎて、しばらくの間隠れていることにした。

ドタドタ、がさがさ、物音が続いたあと、またプツリと橙の光が消えた。

それを見計らって、ボクは出来るだけ高いところに逃げた。暗い所でなら見つかることはないだろう。

トタトタと物音が近づいてくる。

ボクはジッと身を潜めている。

物音が止むと同時に、ボクの足場が揺れた。

そして、光が漏れてきた場所がギシギシとあのときに聞いた擦れる音を立てた。

揺れる足場にバランスを崩して、ボクは放り出されると思った。

でも、そうじゃなかった。

ボクは一瞬だけ宙に浮いていた。その直後、ボクがいた足場と壁の間で、ボクは身動きが取れなくなってしまった。

しかも、ボクが好きな暗いところではなく、煌々と白い光が照っている世界だった。

しばらくの間、体を動かすこともできず、ただ壁と壁の間で浮いてるしかなかった。

ボクとは形も大きさも、何もかもが違う生き物がやって来て、ボクの目の前で話し合っていた。

ボクは最近姿を見かけない仲間のことを少しだけ思い出した。

仲間と喧嘩したり、話し合ったりしたっけな。

そんな事を思っていると、前触れなく白い霧がボクを襲った。

目に染みて、息が苦しくて、体をよじって、身悶えして、苦痛から逃れようとした。

もうほとんど何も見えなくなった目で、なんとか見えたのは、そう。

キミの瞳だった。

キミは、混乱してた。その混乱した瞳から、ボクは全てを感じ取った。

見えなくなった目だったからこそ、感じとることが出来たのかもしれない。


キミはボクの事を怖いと思ったね。

キミはボクの事をまっすぐ見つめたね。

キミはボクの事を可愛いと思ったね。

そして、キミは悲しそうな目をしたね。


それで、ボクは分かった。

ボクの存在は、

キミの世界では好ましいものではない。

ボクはネズミ。

ボクは仔ネズミ。

ボクとキミは共には暮らせない。

仲間ではなかったんだ。

それだけのこと。

身体中がべとべとしたものに捕らわれて、身動きが出来なくなって、ガサゴソという耳をつんざく音がして、ボクはまた暗い世界に戻ってきた。


動けない。

何も食べられない。


大好きだった暗い所なのに、走り回ることもできずに、だんだんと衰弱していって、ボクはそのまま死んでしまったんだ。




これは、ただ生きていただけのボクがキミに出会い、初めて意識を持って、死ぬまでの、ほんの僅かな時間の物語。

共生、共存って、難しい。

出会い方が違えば、こんな風にならずに済んだのかな。

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