第一話 高校生活 1
最初はシリアスですが、すぐに終わる予定です。
高校に入学した俺はふと目に止まり、何となくその部活に入った。
それは写真部。
彼女がいなくなってからは撮っていなかったけど、再出発するためにも入部した。
少人数の緩い部活で、活動も学校行事の時に撮影するくらいだったのも入部した決め手だ。
部活動は部室に集まって喋ったり、コンテストに提出する写真を撮ったりする程度だったから、俺はほぼ部室に顔を出さない幽霊部員だった。
とは言っても、写真コンテストでなぜか賞を獲ったりしたので幽霊部員ではないかもしれない。
「水原君は被写体は景色や動物だね。人は撮らないのかい?」
一回部長に聞かれたことがある。
俺はあれから人を撮ってない。部活動で学校行事の時には撮るが、それ以外では自分から進んで撮らない。
「何か理由でもあるのかな?」
撮る気にならないから。
そのレンズの先にはいつも彼女がいた。俺にとっては最初の被写体で、最高の被写体だった。
「君の写真はいつもその一瞬を切り取る。だからか、物悲しい気持ちになるんだよね〜」
それは俺の写真を見た人からよく聞く感想だ。
紫がいない世界を、紫に見せたい世界を俺は今でも撮り続けてる。
水原悠人君。それが私の好きな人の名前だ。
穏やかな人で男子の友達が多い。
だけど時々、遠い目をしては寂しそうな顔をしている。
それを見てからは目が離せなくなった。
私は写真部に入った。よくふとしたものを撮っていたし、写真に興味があったからだ。そういう人も多いと思う。緩い部活だったし、友達も入部するので一緒に入部した。
水原君も同じ部活に入っていたからびっくりした。
彼は部室にはあまり来ない。でも、コンテストには参加していて、入賞もしたみたいですごいと思う。
そんな感じで彼のことを眺めていたけど、周りにはそんな私の淡い恋心はバレバレだったらしい。
「もっとアタックすればいいのに」
「無理だよ…」
真紀ちゃんみたいにスタイル良くないし、綺麗じゃないし。
「私は見てるだけで満足なんだから」
「ふ〜ん、じゃあ、水原君が誰かと付き合ってもいいんだ?」
「えっ?」
想像したこともなかった。だって、彼は男子とよく話すが、女子とはあまり話さないからそんなこと思いもしなかった。
「水原君って意外と女子からの評価高いのよ?顔はそこそこだし、運動も勉強もそれなりにこなすし、顔も頭も性格も良しと三拍子揃えばね〜」
その話を聞いて私は焦る。
「葵は可愛いんだから自信を持って行きな!」
「うん!」
その場の勢いで頷いた。
写真部には恒例の夏の合宿がある。学校にある宿泊施設に泊まるのだ。
ちなみに、この宿泊施設は主に運動部の強化合宿に使われるが、それに被らない日程なら文化部でも使える。
「恒例の夏合宿の始まりだよ!」
テンションの高い部長の宣言で合宿が始まった。
この合宿は部長の特権で部員全員、強制参加である。
当然、部室にあまり来ない水原君も来る。
まずは水原君と会話できるくらいに仲良くなってみよう!
そんな小さな野望を抱きつつも、夏合宿に挑んだ。
水原君とは話せた。
写真部は元々、人数が少ない。当然、話す機会などたくさんあった。それに周りが協力してくれたおかげで、水原君と同じグループに入れたのもある。
テンパった姿を見られたが、水原君が笑う姿を見られたので満足した。
そして夜は当然、恋愛話だ。
「葵ちゃんは告白しないの?」
「えっ?告白!?無理無理無理!」
手と首を高速で横に振る。
「えぇ〜、今日いい感じだったじゃん」
「そうかな?」
「そうそう、ライバルは多いんだから積極的に行かないとね」
「頑張ります…」
「悠人〜、お前ってさ、まだ経験ないよな?」
「俺らの仲間だよな?」
「童貞ですよね?」
「急に何だよ?」
男子だけになった途端、この話題か。もっと違う話題にしろよ。
「だってさ、気になるよな?」
「あぁ」
男子共は頷く。
「ある」
答えなかったら面倒なことになりそうだと判断した俺は端的に答えた。
「はぁ!?この裏切り者!」
「そんな…仲間だと思っていたのに…」
「お前らはないのかよ?」
逆に尋ねる。
「ねぇよ」
「そもそも、彼女いねぇし」
「だよな〜。相手いないと無理だし」
「で、どんな感じ?」
興味津々な顔で聞いてくるが、答える義理はない。
「お前らに教える義理はない」
「えぇ〜!教えてくれよ!」
「今後のためにも!」
しつこく聞いてきたので仕方なく軽くレクチャーしてやった。
「じゃ、お休み」
これでいいだろう。後は知らん。
「うー、真紀ちゃんの薄情者!」
夜中にトイレに行きたくなった私は友達に付いて来てもらおうと起こしたが、
「小学生じゃないだからトイレぐらい一人で行きなさい」
と言ってすぐに寝てしまった。
ごもっともです。
その正論に何も言い返せなかった私は一人でトイレに向かった。
夜の学校を一人で歩くのは怖い。何か出そう。
トイレの帰り道、ある部屋に灯りが点いていた。
「ふぇ?幽霊!?」
よく見てみると、誰かが何かの映像を見ているようだ。女の子の声もする。
誰?幽霊じゃないよね?
びくびくしながら覗くと、水原君だった。
何だ、水原君か。ここで何を見てるんだろう?
そう思った私は声をかけようとした。
だけど、できなかった。
だって、その映像は女の子と水原君が写っていた。いや、正確には水原君が女の子を撮っているようだった。
その映像を見てる水原君は愛しげに彼女を見ており、その眼差しでわかってしまった。
水原君はあの子が好きなんだと。
そのまま、声をかけずに部屋に戻り、布団に入ると、私は声を殺して泣いた。
私の初恋が見事に砕け散り、失恋した瞬間だった。
翌日、私の様子がおかしいことに気づいた真紀ちゃんに問い詰められた。
真紀ちゃんは少し考え込むと、どこか行ってしまった。
「葵、告白して来なさい」
「えっ?」
何をどう思ってその結論に達したのか唐突に言い出した。
「水原君、好きな子も付き合ってる彼女もいないみたいよ。そんな噂も聞いてないし、男子にもさっき確認した」
いつの間に確認したんだろう。相変わらず行動が早いよ。
「でも…」
「付き合ってた彼女はいたみたいだけど、高校入学して自然消滅したそうよ」
「いきなり、告白なんて無理だよ…」
「……もう仕方ないわね。私達がバックアップしてあげるから仲を深めていきなさい」
次の話で高校生編は終わりです。