にゃー
最初の出会いまで入れようと思ったけれど、断念しました。
ものすごく短いですけど、どうぞ。
「さて。今日は今後についての話し合いを始めようかの」
そう言っておばあさんがテーブルの上に一枚の紙を広げた。
「これは何ですか?」
そう問いかけたのは、本日は見目麗しい人型を取る狼だ。
神を名乗る者達は皆、獣の姿と人型を取ることが出来るのである。
仮とかヘタレとか色々と言われている狼だが、神の一匹としての能力はしっかり備えている。
「手順書?え?こんな物をわざわざ用意したんですかい?ってか、こんなのが必要ってどんだけダメダメなんだよ」
そう言って呆れた表情を浮かべる猟師。
狼は、この猟師の声は聞かなかった振りをした。
昨日、最後の最後で齎された狼への止めの一言。
「家の孫娘はお主の存在をそれほど知らぬ。なぜか理解しておろうの」
「ええと……」
言いよどんだ狼に、おばあさんは呆れたようにため息を一つ吐きヤレヤレと頭を振る。
「他にも問題はある」
「どこに問題が?」
本気で何も理解していない狼に、おばあさんは頭痛がすると言わんばかりに頭を抱えた。
「とりあえず考えてもみろ」
「はて?」
首を傾げ、なにがいけないのか未だ理解したようには見えない狼の姿に、青筋一つ浮かべながら、おばあさんはたとえ話を持ち出した。
「(この鈍感無自覚犯罪者がっっ!)たとえばの話じゃ。まったく見知らぬ女性がお主に声を掛けてきたとする」
「ふむふむ」
「一度も見た事も会った事も無い女性じゃ。その女性がこう言うんじゃ。狼さん、あなたの事を全て知っています、と」
「…………」
「あなたの趣味も好みも全て把握しております。そうした上であなたに相応しい女性になりました。だから私をあなたの花嫁にしてください。そう言われてどう思う?」
「正直怖いです」
「そっくりそのまま孫娘に当てはめてみろ」
「そんな事をいわれたら、即OKします!」
目を輝かせて嬉しそうに語る狼を、おばあさんは即座にハリセンで殴った。
「ど阿呆!逆じゃ。お主のこれまでの行動を鑑みれば、確実にその女性と同じ不審者扱いじゃぞ」
「何故ですか。そんな事を……」
「お主、家の孫娘と面と向かって会話をした事は?」
「は?」
「じゃから、孫娘の顔を正面から見つめて会話をした事はあるのか、と聞いて居るんじゃ」
しばしの沈黙の後、狼はおばあさんが何を言いたいのかようやく理解した。
「…………い、一度もございません」
「一度も面と向かって会話もした事の無い相手から突然、『あなたの趣味嗜好全てを把握しておりますので、ぜひともお付き合いください』と言い出されたら?」
「あ、えと……」
言葉を詰まらせた狼は、みるみる顔色を青ざめさせた。
「ようやく理解したか、このバカ者め。通報されないだけでも感謝してほしいものじゃよ」
注)この世界には断罪機関というものがありまして。
まあ簡単に言うと、神狩りを主な仕事とする機関。
神にも一応守るべきルールがあり、それに違反した神は通報されたり発見されたりした場合、一応は言い訳を聞いてはもらえるものの黒と判断された場合容赦なく裁かれる、というもの。
狼は通報された場合即アウト状態だった、というだけの話(笑)
「とまあ昨日言った孫娘のあの台詞の原因はただ一つ。お主が家の孫娘を影からこっそり眺めるというストーカー行為をしておったからじゃ」
「返す言葉もございません」
深々と土下座の姿勢を返す狼に、猟師はニヤニヤ笑いながら二人のやり取りをただ眺めていた。
「とにかくじゃ。それらを踏まえた上でのこの手順書じゃ」
紙の一番上には、ひとまず知り合うこと、と書かれていた。
「……なんか、一番上にこの文字が書かれている時点で色々終わっている気がするなぁ」
猟師の言葉におばあさんは何も返事をせず、また狼は「うぐぅ」と呻くにとどまった。
「まあともかくここで机上の空論をいくら行っても何も話は進まんわい。という訳で行って来い」
おばあさんは再び狼をハリセンで殴ると、そのままとっとと出て行けと言わんばかりにハリセンを扉に向けた。
「それと猟師、お主にはこのヘタレの見張りを頼む」
「へいへい。お受けいたしましょう♪それにしても、作戦も何もあったもんじゃないなぁ」
おばあさんに追いたてられるようにして狼は追い出され、その後を猟師が笑いながらついて出て行った。
次こそは、初めての出会い編(笑)です。