第一章 アキの憂鬱
「おああああああ!?」
少女から発せられたとは思えないような叫び声が、大講義室中に響き渡しました。
直後、ボンッという音とともに黒い煙が立ち、少女を飲み込みます。
煙がはれた後に残ったのは体中真っ黒になった少女と、黒焦げになりプスプスと音を立てている細長い何かでした。
「う、あ……失敗した……」
少女がガクッと肩を落とすと、それを見ていた周りの学徒たちが笑いはじめました。
少女のすぐそばにいた髪の長い一人の学徒が、少女の顔を拭きながら言います。
「アキったら、なんでそうなっちゃうのー!?」
「分かんないよマルカ~、ちゃんと魔術書通りにやったはずなのに……」
アキと呼ばれた少女は涙目になりながら答えました。
「呪文はあってるように思ったんだけど……力みすぎてたのかな?これ、結構簡単なんだけど……」
アキにマルカと呼ばれた学徒は、先ほどアキが失敗した魔法を自分でやって見せました。
目の前にある蕾に意識を集中させ、呪文を唱えます。透き通る、小鳥のような声でした。やがて蕾が淡く光ったと思うと、ゆっくりと開き始め、可憐な花を咲かせます。
「こんな感じ……かな?」
「わあ……マルカすごい……」
今度は周りの学徒から賞賛の声と拍手がわきました。
「素晴らしいですね、マルカ。合格です。」
講義室にトーンの低い女性の声が響きます。
声がした途端周りの学徒は静かになりました。
「あ!えっと、ありがとうございます、アイリアス先生……」
マルカはどぎまぎしながら頭を下げました。
そこに、ひとりの女性が近づいてきます。
アイリアスと呼ばれたのはこの授業を受け持つ先生でした。高い身長に細身の体、肩より上で切りそろえられた黒髪……と、見た目は美人そのものでした。ですが、声と眼光は鋭く、魔導士学校で一番怖い先生として名高い先生でもあります。
「あなたは優秀ですね、マルカ。それに比べて……アキ、あなたは何度道具を炭にしたら気が済むのかしら?」
「ご、ごめんなさいアイリアス先生……」
「あなたは今夜も”特別授業”ね。さあ、早くその焦げ臭い身体を洗ってらっしゃい」
「はい……」
アキが返事をすると、アイリアスはくるりと向きを変えて戻っていきました。
「アキ……大丈夫?」
「うん、まあ……毎回のことだからね」
アキは小さく肩をすくめた。