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こんな夢を観た

こんな夢を観た「久しぶりに恩師を訪ねる」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/09/13

 中学の時にお世話になった先生から、残暑見舞いが届いた。日曜日にでも遊びに来なさい、とあったので、挨拶がてら伺うことにした。

 手土産に、ちょっと奮発して、でんすけスイカをぶら下げていく。


 先生のお宅は、駒込の閑静な住宅街にあった。

 わたしは、立派な構えの和風家屋の前に立ち、「松平」と彫られた御影石の表札のすぐ下にあるインターフォンを鳴らす。

「はい、どちらさまでしょうか?」少しくぐもってはいるけれど、久しぶりに聞く松平先生の声だった。

「ご無沙汰しております。むぅにぃです」

「おお、よく来てくれたね。今出ていくから、待っていておくれ」

 10数え終わるかどうかのタイミングで、松平先生が玄関から出てくる。中庭を小走りでやって来ると、門を開けてくれた。


「やあ、むぅにぃ君。君、ぜんぜん変わってないなあ。ほんと、まるで昔のまんまだな」松平先生は懐かしそうに、わたしの肩をばんばんと叩く。

 話をする際、しきりに相手の肩を叩くのだが、何せ、背が足りないものだから、いつもこちらで身をかがめなくてはならないのだった。

「先生もお変わりないようで、安心しました。これ、商店街の青果店で見つくろってきたものですが」そう言ってスイカを手渡す。

「おっ、なんだい、でんすけじゃないか。気を使わせちまったなあ。高かったろ、これ? せっかくだからいただくが、次からは手ぶらで来いよな。じゃないと、こっちもおいそれと呼べないじゃないか」

 言葉ではそう言いながらも、まんざらではなさそうだ。


 松平先生の書斎は、壁をも埋めつくす勢いで本が溢れている。

「前に伺ったときよりも、さらに書物が増えてますね」部屋を見回しながらわたしは言う。

 3年前、最愛の奥さんが亡くなられた時以来の入室だ。お通夜の後、わたしと数人の仲間が書斎に呼ばれ、朝まで過ごしたのだった。

 その頃の倍近くにはなっているだろうか。

「細君が逝ってしまってから、ますます時間の潰し方が下手になってね。近頃じゃ君、ラノベとかいうものにも手を広げ始めたんだよ。いやあ、ありゃあ面白い。例えるなら、絵のないマンガとでも言ったらいいかな」


 内心、意外に思う。わたし達を教えていた時代の松平先生と言えば、大和言葉こそ日本人の心だ、現代人の言葉の乱れは嘆かわしい、などが口癖だった。

 それが、よりにもよってラノベとは。

「むぅにぃ君。君は読んだことがあるかね、ラノベ」松平先生が尋ねる。

「そうですねえ、『ズラララッ!!』とかなら」

「ああ、あれねっ。うん、あれも面白かった。ぼくなど、DVDを全巻揃えてしまったほどだよ」得意満面に言う。かつてのカチカチ頭しか知らないわたしからすれば、驚嘆にも値する。

「ずいぶんとご趣味が変わられましたね」半ば、感心しながら言った。「先生のことですから、他にもまだ開拓してらっしゃるんじゃありませんか?」


「ははは、さすがむぅにぃ君。よくわかったね。実はね、ブログ小説にもはまっちゃっててね」

「はやってますよね、ブログ小説。『ずっこけ、おとぼけ先生』とか読んでますけど、あの文章の崩れっぷり、凄まじいというか、何というか」

「ああ、それぼく」と松平先生。

「え?」

「あのブログ、ぼくが運営してるんだ。君、読んでてくれてたのか。照れちゃうな」

「ええっ?!」今度こそびっくり仰天してしまった。

 エキセントリックな物理学教授が、毎度毎度、とんでもない失敗をしでかしては、周囲の者を巻き込んでドタバタと大騒ぎになる、そんな話だ。「ドヒャヒャーンッ!!」「ズバババァーンッ!!」 といった文字がページに踊り、もはや小説と呼べるのかも怪しい。


 呆然としているわたしをよそに、松平先生は、どっこいしょと立ち上がった。

「どれ、君からいただいたでんすけでも切ってくるとしようか。年寄り独りじゃ、どうせ食べきれないしな」

 そう言って、台所に消えていった。

 松平先生の机には、どっさりと本が積み上げられている。純文学雑誌、ジャンルも様々な新書、文庫、それこそ山のようだ。

 そんな中に紛れて、1冊だけプリントアウトしてホッチキスでまとめた冊子を見つけた。

「先生は、すぐに戻ってこないよね」ドアの外から顔をのぞかせて、確かめる。「なんの本か、ちょっと見ちゃえ」

 本の山を崩さないよう慎重に、そっと「薄い本」だけ引き抜いた。


 表紙にはただ、「こんな夢を観た」と明朝体で印刷されていた。

「どこかで聞いたようなタイトルだなぁ」ぱらぱらとめくってみる。

 どうも見覚えがあると思ったら、わたしのネット投稿作品だ。それらをすっかり印刷してあるのだ。

 しかも、赤ペンでいちいち、添削までしてあった。

〔なってない、ぜんっぜん、ダメ。接続詞、ここは『は』じゃなく、『も』とすべき。ここもっ! ……うーん、そもそもなんだってこんなせこい夢ばかり観てるかな。どうせなら、ドドーンと豪華な夢を観なさいよ〕


 先生、文章の添削はありがたいのですが、夢ばかりはどうにもなりません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 素敵な先生ですね!ジャンルの幅が広い人、実際にもいますけど、本当に尊敬します。子どもでも、詩集や名作童話からゾ○リまで読んでる子を見るとすごいなあと思います。 自分の作品にダメ出しされる夢は…
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