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婚約指輪のつもりで
里見の父親は狂った娘の妄言に根気強く付き合い、自分なりに答えた。
それが里実の求める答えでなかったとしても、彼は責められるべきではない。
ただ、世故コウゾウという男だけが、里見の唯一の理解者となった。
ただ、それだけのことだった。
ペアリングを買いに行こうと言い出したのは、里実の方だった。
彼女は、それまでもそうしてきたのだ。
お洒落な元恋人にどこで選べばよいかを問いただし、里見と世故は、梅田の大丸にいた。
世故が選んだ指輪は、里見の数多い経験の中で最も高かった。
里見は驚いたが、世故がそれを気に入ったようだったので黙っていた。
里見に与えられたのは、二本の指輪の間に橋があって、その間に入れられる細い指輪が三種類あるという仕掛けのものだった。どうやら世故は手先の工作が好きらしい。
一方世故は、これを逃すと自分は結婚できないと思っていた。
また、行為の際にわからないと彼女が言ったことで、彼はそれが里見の初めてだったのだと思い込み、これは責任を取らなくてはならないと、
世故コウゾウは、実は焦っていた。