京都
里見は、叔母に会いに行くことにした。
何日か過ごした畳の家を、里見は後にした。
光が、おかしく見える。
色が変だ。
父親にそう上申しても、父親は理解ができなかった。
里見は、重症だった。
駅に向かうタクシーで、小銭の見分けがつかなかった里見に、タクシーの運転手が50円おまけしてくれたことを、彼女は察知した。
京都は、いい町ですね。皆様が気遣ってくださる。
彼女は、タクシーの中でそう言った。
里見は駅でも表示が見えなくて、新幹線を乗り間違えて、実家のある新神戸に着いた。
里見は東京に行こうとして間違えた事を駅員に伝えようと努力したが、駅員に訝しげに
「日本の方ですか?」
と聞かれた。それは自分の日本語力を信じていた彼女に非情なショックを与えた。
彼女の言葉は、もう誰にも伝わらないレベルまで来ていた。
里見は実家に帰った。玄関先で里見を立たせたまま、母は電話機へと走り、夫に
「里見ちゃんが狂った」
と叫んだ。
里見は、それを呆然と聞いていた。まだ、彼女の脳は生きていた。
母に話をしても通じない。コウゾウは新幹線から断片的で支離滅裂な質問を送っても答えてくれたのに。
それは、
「プラズマって何?」
に彼が答え、彼女が
「天才ね」
と答える程度のやりとりだったのだが、根気よくまた彼女を納得させれらるだけ話を聞いて話が弾む相手はコウゾウのみとなった。
つまりコウゾウだけが、里見の言いたい事が解る唯一の人となった。