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翌朝
昨日の隊長さんの指示があったおかけで、7時前には全員ダイニングにそろっていた。
「全員そろったな。要望事項を言ってくれ。」
隊長さんの視線に促され、私は立ち上がる。
「皆さん、おはようございます。食事や生活面でのお願いがあります。」
1. 食事は7時、12時、18時 全員揃ってとること
2. いらない場合は事前に言うこと
3. 洗濯物がある時は、朝食後部屋の前のカゴに出すこと
「最後に、食事の挨拶は大切に!皆でおててを合わせていただきますです。」
私の力説に、皆が沈黙。
あれ?やっちゃった?
「いやいや、おててはいらないでしょ?」
ナイスフォローです。尊さん!
皆が笑ってくれました。
「…要は気持ちの問題ということです。ご協力おねがいします。」
私はみんなに頭を下げた。本来、雇われの身である世話係の要望なんて聞いてもらえない。それをこの人の達は聞いてくれる。
「よし、各自理解したな。そのくらいなら問題ない。では早速朝食にしよう。」
副隊長さんの言葉に、私が来てから初めて全員での食事が始まる。
給仕に徹している私も、全員で食べている姿みるのはとても嬉しい。
10人掛けのテーブルに隙間がないくらい置かれた料理は、どんどん減っていく。
朝からよく食べるなぁなんて、料理をみながらニマニマしていると、ふと視線を感じた。
視線の主は隊長さん。
鋭い視線に体温が2度下がった気がする。
私、なにか粗相をしましたでしょうか…
「何してるんだ。全員で食べるんだろう?
ここに座れ。」
引かれた椅子は隊長さんの隣。
特に席は決まってなく、みんな自由に座っているけど、隊長さんの隣は気が引けてしまう。
躊躇していると、渚さんが手を引いた。
「大丈夫ですよ。隊長は十六夜さんを取って食べたりしませんから。隊長もそんな目で女の子みたらダメですよ。怯えます。」
溜め息混じりに言う渚さんに、隊長さんは頷いた。
「わかった…善処しよう」
苦笑いする隊長さんの隣に座り、皆と朝食を食べる。
やっぱり皆で食べた方が絶対に美味しい。
和気あいあいと今日の予定の確認などをしていたら、あっという間に食事はお終い。
それぞれがご馳走様をして、食器まで下げてくれた。
「みなさん、食器まで下げて頂いてありがとうございました。」
「それは気にするな。ここで、こんなに美味い飯が食べらるとは思ってなかったしな。」
そう言ってくれたのは、短剣の手入れをしている副隊長さん。
訓練までの時間は自由にしていいのか、それぞれリビングで寛いでいる。
「副隊長はいいじゃないですか。
ミコトちゃんの手料理おいしいんでしょ?」
そう言った尊さんは食べた直後なのに、どこから持ってきたのかお菓子を頬張っている。
「それは勿論だが、毎日食べられる訳じゃないからな」
思い出しているのか、口元は緩んでいて、本当にミコトさんのことを大事に考えてるのがわかる。
いいな〜ミコトさん。
「ねー十六夜ひゃん…」
尊さんは、口の中のお菓子を飲み込んで続けた。
「今度、リクエストしてもいいなかな?作って欲しい物があるんだけど。あ、ありがと」
最後の一言は、私が出したコーヒーに対して。
「はい。私が作れるものであれば…口に合うか保証はできないけど…」
私の返答に、尊さんが無邪気に笑った。
尊さんは年下なんだと思う。
笑顔がとっても可愛くて、兄弟のいなかった私は、こんな弟が欲しかった。
「本当。やったー。じゃあ、今度ケーキ作ってよ。」
「ケーキ?」
「そうそう。警護とかやってると、下手に目立つじゃん。俺、そこそこのイケメンだしさー。町に出ると女の子に見つかっちゃって、ケーキ屋さんとか行けないんだよね~。ほら、男は甘い物食べないみたいなイメージあるでしょ?」
尊さんの親しみやすさに、私の口調も軽くなる。
「えーそうかな?私はそんなイメージないけど。女の子でも甘いの食べない子もいるしね。それなら、尊さんは今度からは付き合う女の子選んだ方がいいよ。」
「それはそうだな。」
そう、私に同意したのは八十さんで、
「お前は軽く付き合いすぎるんだよ。少しは慎重に選べ。」
そう言う八十さんが口にするのは、ブラックコーヒー。
「えーだって、可愛い子に言い寄られたらちょっと味見って思わない?」
対して、尊さんのコーヒーには、お砂糖とミルクが加えられていた。
「じゃあ、今度特大のケーキ作るね。えっと、皆さんもリクエストあったら言ってください。食材の業者さんとも相談してみますから。あ、副隊長さんは駄目ですよ。ミコトさんに怒られますから」
不満そうな副隊長さんを尻目に、真っ先に言ったのは八十さん。
「じゃあ、俺は肉。」
「ヤソさん…肉って、範囲が広すぎるんですけど?」
「牛肉。」
ステーキ確定。
味の好みは煩くなさそうでなによりです。
「私は、おでんが食べたいですね。」
渚さん…渋っ
と思ったけど顔には出さない。
これから寒くなるし、丁度いいのかも。
最後に、隊長さんと目が合った。
「考えておこう」
なぜか鳥肌がたった。
隊長さんは席を立ち訓練場へ向かっていく。
コーヒーカップを律儀に下げて行くところをみると、いい人なのだとは思うけど、第一印象はなかなか消えない。
「なにをそんなに怯えているんだ?」
「副隊長さん…」
鳥肌に気づかれてしまったようです。
「朔月は取っ付きにくいが、いい奴だ。そのうち分かるよ。」
副隊長さんは隊長さんの後を追うように、私の頭をぽんぽんした後に出て行った。
でも副隊長さん。頭ではわかっていても、体が勝手に反応してしまうんですよ。