6
チュンチュン
小窓から差し込む光に、私は目をさました。
見慣れない天井。
体に合わないベット。
「夢じゃなかったんだ…」
嫌でも現実が突きつけられる。
「よしっ!今日も頑張ろう。」
パシッと両手で自分の頬を叩くと、身支度をしてキッチンに向かった。
「おはようございます。」
またバラバラの朝食が始まった。
一瀬さんと尊さんは姿も見せない。
「いらないならそう言ってくれればいいのに。」
残った朝食を前に、うなだれる。
でも私に落ち込んでる時間はない。
朝食を片付けた私の次の仕事は、各部屋のシーツの交換。
コンコン
八十さんの部屋をノックする。
「開けていいぞ。」
と言われ中に入ると、下着姿の八十さんが現れた。
「ちょっと!裸なら開けていいなんて言わないで下さい!」
私は慌てて部屋を飛び出した。
「どうしたんだ、お前?今更男の裸なんて見慣れてるだろうが?」
「見慣れてなんていません!シーツの交換に来たので、シーツを外して出してください!」
ドア越しに言うと、八十さんが笑いながらシーツを渡して来た。
「そんなうぶな振りなんかするなよ、めんどくせぇ」
そう言う八十さんはやっぱり下着姿で、私はシーツを受け取ると逃げる様に其処を後にする。
その後各部屋のシーツを回収し、最後は隊長室。
コンコン
ノックをするが、返事がない。
「どうしよう。入るなって言われているし…」
部屋の前で悩んでいると、後ろから声をかけられた。
「要件は?」
相変わらず、視線が鋭い。
「あの…シーツの交換に来ました。」
すくんだ私に、待っていろと言い残すと、部屋に入ってシーツを取って来てくれる。
「頼むぞ」
そう言うと私には見向きもせず、練習場に向かって行く隊長さんの背中を見て、思わず呟いた。
「あーやっぱり、隊長さんちょっと苦手かも。」
ふぅーと息を吐き出し気を取り直すと、私は沢山のシーツを抱え洗濯場に向かう。
自分のを含め、6枚のシーツを洗い終わる頃にはすっかり日が高くなっていた。
慌てて、弓の練習場の脇にある物干し場に移動する。
「これでよしっ!」
最後の一枚を干し終わった時だった。
「おい、お前、避けろ!」
「えっ?」
その意味を理解する間もなく、私の体は誰かに抱え込まれ、押し倒された。
「あぶねーな!こんな所でなにやってんだよ!」
「八十さん…?」
私の足元には矢が深々と刺さっていた。
もし八十さんが私を押し倒してくれなければ、怪我をしていたかもしれない。
「あ、ごめんなさい。でも他に干す場所がなくて…」
そう言いながらも、私の背筋は凍りついた。
声も少し震えていたかもしれない。
「お前もだ、尊!どこ狙ってんだよ。」
そう言うと、八十さんは私を起こし、突き刺さった矢を引き抜いた。
「ごめんね。十六夜ちゃん。怪我しなかった?」
尊さんが駆け寄ってきて、八十さんから矢を受け取る。
「私は大丈夫です。八十さんありがとうございました。」
少し落ち着いてきた私は、深々と八十さんに頭を下げた。口は悪いけれど、助けてもらった事に変わりはない。
「ぼさっとしてんなよ」
そう言い残すと、八十さんは足早に立ち去ってしまう。
「八十さん、照れてるんだね。」
尊さんがその後ろ姿を見送りながらボソッと呟く。
「本当ごめんね。怪我が無くてよかったよ。
ごめんまだ練習あるから。あと、ここ危ないから気をつけて。」
そう言い残し、尊さんは練習に戻って行った。
「いけないっ。私もお昼の準備しなくちゃ。」
ぼさっとしている場合じゃない。後で干場はミコトさんに相談してみよう。
私は気を取り直し、キッチンへと足を向けた。