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「それで?なんでお前、まだ処女なんだ?」

いきなりですよ。いきなり面と向かってこれですよ。さすが暁様です。

私だけでなく、隊長さんも居るのに…


暁様のお母様とばったり会ってしまったあの日から、既に1週間。

何かあるかもと気負っていたけれど、今の所何も起こらない。


あの日、私が気絶するように眠ってしまって、隊長さんにしがみついたまま離れなくて、ドレスが皺にならないようにと隊長さんが気を遣って脱がせてくれて、寝台に運んでくれて、そのまま朝まで一緒に寝ていたって事くらい。そのくらいの事しか起こってない!


今、思い出しても顔から火が出そうです。


朝、起きたら隊長さんの笑顔が目の前にあって、驚いて飛び起きたらあられもない姿の自分に気がついた。私が身につけていたのは、ドレスを着るために、いつも以上に面積の少なかった下着だけ。

あわててシーツを引き寄せて隊長さんを見れば、昨日の服装のまま。しかもしわくちゃ。自己嫌悪もいいところです。


隊長さんには、俺の忍耐力に感謝しろなんて言われるし…そりゃ、もう大人ですから、経験はないけれど、男女が寝台で何をするかは知ってますよ。男性の方が欲が強いことも。

隊長さんと、そういう仲になることを意識してないと言えば嘘になるし、私も隊長さんがいい。でも意識の無い時にされなくてよかったとは思った。隊長さんがそんな酷い事をする人ではないと知っているけれど、凄く我慢してくれたんだと思う。それは自惚れ?


「俺としては直ぐにでも抱きたいが、十六夜に無理をさせるつもりもない。」

隊長さんに面と向かってそんな事を言われたら、顔が赤くなるのも仕方ないでしょう?大好きな人が、自分の事を大切に考えてくれるなんて、これ以上の幸せはないと思う。恥ずかしくて俯いていたら、暁様の盛大な舌打ちが聞こえた。


「お前らうざい。給料受け取ったらさっさと行け。」

追い出すように、しっしと手を振られた。秘書の人から受け取ったそれは、いつもよりかなり厚い。


「暁様?いつもより多くないですか?」

数えたわけではないけれど、手触りで解るくらい厚いのだから、かなり多いはず。


「あー、それは迷惑料だ。」

言いづらそうに、右手で頭をかいている。いつにない子供の様な仕草に驚いた。


「迷惑料?何かありました?」

思い当たる事が無くて、首を傾げる。


「…母が迷惑をかけた。申し訳ない。」

暁様が頭を下げた。あの暁様が、私に頭を下げた。あまりの予想外の事に、一瞬理解が追いつかない。


「暁様、頭を上げてください。迷惑と言っても勘違いされただけですし、直ぐに誤解も解けましたから…」

私の言葉に暁様は頭を振った。


「金で済むことではないとは理解している。ただ、お前の身を守るのは朔月の役目だし、俺にはこの方法でしか償えない。それに…」

いつに無い気弱な態度の暁様に面食らった。普段の高圧的な態度は、なりを潜めている。


「嫌な予感がする。母のあの目は納得していない目だった。この先、何が起こるか分からない。気をつけろ。」

半ば強引に押し付けられ、隊長さんを伺えば受け取っておけと頷かれたので、ありがたく頂戴した。

普段より多めに手元に残し、あとは返済に回す。


「お前は、出来るだけ外に出ない方がいい。常に黒の隊の誰かの目に付くところに居ろ。わかったな?」

部屋を辞す時まで、念を押されてこくこくと頷く。いつもはあんな態度の暁様だけど、本当は心配性で、優しいのかなって少しだけ、ほんの少しだけ思った。


そういえば、今日は俺の女になれって言われなかったなと思ったら、人の物になった私には興味がなくなったそうです。たとえ、処女でもね。

死ぬ気で働けと言われた…そもそも最初からそのつもりだから問題ないけど、変わり身のはやさにびっくり。


「隊長さん、暁様、大袈裟じゃないですか?そもそもお母様と私に接点はないですし…」

訓練場に戻る道すがら、隣を歩く隊長さんに聞いてみた。


「まあな、でも用心するに越したことは無い。あの人の執着は凄まじいからな。」

隊長さんの浮かない顔を見て、1番の被害者だった事を思い出した。いくら似ているからって、義理の息子を旦那と間違えるものだろうか…


「それで、十六夜。」


「はい、何ですか?隊長さん。」

突然顔を覗き込まれて、驚いたけれど、なんとか平静を装う。


「そろそろ、名で呼んでくれてもいいだろう?」

突如、甘さを含んだその声に心臓が止まるかと思った。本館の廊下でそんな事を急に言わないで欲しい。


「そんなの無理なの知ってるじゃないですか…」

逃げるように先を急いだら、隊長さんに後ろから抱きとめられた。


「隊長さん!なに…」

抗議しようと振り返れば、隊長さんの視線は私の先を見ていて、鋭い視線に言葉を失う。


「そこの、出て来い。」

誰何するその声は、肌が切れそうな程の冷気を含んでいて、私にも危険を知らせた。

隊長さんは、私を守るように一歩前に出る。


「出てこないならば、切り捨てる。」

その言葉に、柱の陰から金色のふわふわしたものが出てきた。


「も、申し訳ございません…お許しください。」

隊長さんの前に跪いたそれは、メイド服を着た可愛らしい女の子だった。カールした髪をツインテールにしたその姿は、金色のふわふわ。その姿を見てホッとする。


「見ない顔だな。」

その姿を見ても、隊長さんは態度を崩さない。


「ほ、本日からこちらで働かせて頂く事になりました…」

緊張か、はたまた恐怖の為か、声が震えてしまっている。見ていられなくて、隊長さんに声をかけた。


「こちらの方なら、身元は保証されているのでしょう?そろそろ行きましょう。」

隊長さんの腕を引く。はたからみたら隊長さんが可愛らしい女の子を苛めているみたいで嫌だった。


「今度、同じような事があれば、切り捨てる。」

その子の側を通りすぎる時に、隊長さんが言い放った。

見れば、しゃがみ込んで震えてしまっている。可哀想になって、手を差し伸べようとしたら、隊長さんはそれを許してくれなかった。

無言のまま腰を引かれ、半ば引きずられるようにその場を後にする。後ろを伺えば、あの女の子はずーっと俯いたままで、表情を見ることはできない。


結局私は、訓練場に着くまで解放されることは無かった。

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