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馬車に揺られる事、約1時間。

目的地に着いた。


高い塀に囲まれた中に、今まで見たこともない豪邸が広がる。


通されたその一室は、見事な刺繍の絨毯に、革張りのソファ。

ここにくる事がなければ、一生お目にかかる事はないであろう品ばかり。


アカツキと言う名は、隣街に居ながらも聞く機会は何度かあった。

やり手の商人だとか、凄くお金持ちだとか、お店に来るおばさん達の噂話くらいしか知らないけれど…


「そんな人がお母さんに何の用なのよ?」


疑問は増すばかりだけど、答えてくれる人は居ない。


見事な調度品に目を奪われていると、背の高い、若い男性が入ってきた。

年は私とそう変わらなそうに見える。

彼の後ろには2人の着飾った女性が控えているが、服装は大胆で、こぼれそうな胸は同性の私が見ても目のやり場に困る。


女性達を後ろに下がらせ、彼は私の前に立った。

上から下まで、舐めるような視線に鳥肌がたつ。


「おまえが、あの男の娘か?」


彼は言うなり、私の顎に手をかけると上向かせた。

覗き込む瞳はアイスブルー。

冷たい海の色。


「見た目は悪くないな…」


発せられた言葉にカチンときた。


「ちょっと何するんですか!」


咄嗟に手を払いのけた私に、彼は不敵な笑みを浮かべると乱暴にソファに座った。


「俺の手を払いのけた事を後悔するなよ。

コウ、説明しろ」

彼の視線の先には、さっき秘書と名乗った男性がいる。


「改めまして、私は暁様の秘書、江と申します。どうぞ、お座りください。」

江に促され、嫌だったけれど彼の向かいのソファに座った。


「まずは、お嬢様のお名前を頂戴できますでしょうか?」

相手が名乗っている以上、私が名乗らないわけにもいかない。


「十六夜と申します…私をここまで連れてきた事の説明をお願いできますでしょうか?」

努めて冷静にと自分に言い聞かせる。


「ではイザヨイ様、早速本題に入りたいと思います。」

江はソファに座る彼の横に立った。


「こちらにいらっしゃるのが、暁様です。あなたのお父様が、暁様に借金を申し込まれました。返済期日は昨日でしたが、お父様はお見えになりませんでした。」

江の言葉にやはり彼がと実感する。あの傲慢な態度に、連れ立った女性の煌びやかさ。

偏見をもってはいけないと思っても、やっぱり金持ちは…なんて思ってしまう。


「それと母と何の関係があるんですか?父とはもう5年も会ってません。出て行ってから何の連絡もなくて生死も不明です。生きていたとしても、母の葬儀にも来なかったあの人は、父親でも何でもないです。」

苛立った私の目の前に、一枚の書類が差し出される。


「お母様はそうではなかった様ですよ。連帯保証人にサインしています。」



私は言葉を失った。



目の前の書類には確かに母の筆跡で、母の名前が書かれていて…

何よりも私に衝撃を与えたのはその日付。

それは母が亡くなる半年前のものだった。




ワタシハ………シラナイ




突きつけられたのは、5年前に行方不明になったと思っていた父親と、母は私に内緒で会っていたという現実。


「どうして…」


決して楽な暮らしではなかったけど、お金を借りなければいけないほどでもなかった。



なぜ、お金を借りたの…



なぜ、私に秘密にしたの…



なんで…



なんで……?



頭の中をぐるぐる回るのは疑問ばかり。



「それで、どーする?」

からかうような暁様の声が私を現実に引き戻した。


「どうするって…」


「それにも書いてあるだろ?」

私が手にした書類を顎でさす。


「500万セタだ」


お前に払えるのか?

暁様の視線は、私にそう問いかける。


「今日中に払えば利子含め、525万セタにまけてやろう。」


「525万セタ…」

私は呆然とするしかなかった。


細々貯めていたお金をかき集めても、100万セタになるかならないか…


勿論今すぐなんて、払えるわけがない。


「必ず働いて返しますから、もう少し待ってもらえ…」

「却下」

私の言葉はアイスブルーに遮られた。


「こっちは慈善事業じゃないんだ。薬屋の儲けで完済に何年かかると思う?」


言葉を失った私に暁様は続ける。


「そこで提案だ。」

暁様の舐め回す様な視線。


「俺の女になれば、チャラにしてやる。ああ…勘違いするなよ。結婚はしない。」


俺が飽きるまでの愛人契約だ…


暁様がニヤリと笑った。


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