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「お?どーしたんだ?十六夜」

そう声をかけてきたのは八十さん。


はい。私、絶賛後悔中です。

朝のムカムカをぶつけるように仕事をこなして、夕食の準備まで終わったところでふと気づいちゃったんです。


「自分の馬鹿さ加減に呆れてるんです」


「何やったんだ?机に突っ伏すほど落ち込むような事なのか?」

椅子を引く音に、向かいに座ったのが分かる。


「今日給料日だったんです。」


「おお。俺たちと一緒だな。」


「暁様に嫌なことを言われたんです。」


「まあ、あいつは嫌味な奴だからな、まともに相手をしたら損するぞ。」


「…ついかっとなって、給料、全額返済にまわしちゃいました。」

少しの間の後、落ち込んで突っ伏した私の髪を豪快に笑いながら、八十さんがかき混ぜた。


「なんだ、そんなことか。」


「そんなことかって…一ヶ月無一文で過ごして…買いたいものとかもあったのに〜」

痛いくらいに髪をかき混ぜる腕を掴んで八十さんを睨みつける。


私が悪い。

悪いんだけどさ、ちょっと八つ当たりしたいんだよ。


「よし、そこは俺にまかせろ。夕食そろそろ準備したほうがいいぞ。訓練終わったからな。」


「ほんとだっ。急がないと。八十さんありがとう。」

私は慌てて、食事をテーブルに運ぶことに徹した。



「ごちそうさまでしたー。今日のご飯も美味しかったよ」


「尊さん、ありがとう。今日はいいものあるよ。」

私はキッチンから、食後にと用意しておいた物を持ってきた。


「えーなになに?」


「ジャーン。特大ショートケーキでーす。」

用意したのは、スタンダードなショートケーキ。

たっぷりのクリームの上に、イチゴも沢山のせた。

大きなオーブンが無いので、本館の物を借りて焼いておいたのだ。

卵やクリームを泡立てる時に、朝の怒りをぶつけたので、よく泡立った自信作だ。


おかげで、少し腕が痛けど…


「やったー。ありがとう十六夜ちゃん。」

尊さんに抱きつかれた。


「ちょっと放して…間違って刺しちゃう。」

長いケーキナイフを掴むと、慌てて放してくれた。

うん。尊さんの扱い方がちょっと分かった気がする。


「皆さんもよかったらどうぞ。甘さ控えめにしておきましたので。」

皆が席に着いたので、切り分ける。

尊さんの分だけは、皆の倍の大きさにした。

もちろん、コーヒーも準備万端。


「そういえば、このバカがヘコんでるから、皆んなで助けてやろうぜ」

テーブルについた所で、八十に指さされる。


「バカって、ひどいっ!そんな事言う人は、こういう目にあうんです。」

八十さんのケーキから、一番大きなイチゴを略奪した。


「ちょ、お前。俺のイチゴ!返せ!」


「もう、食べちゃいました〜。」

ありがとう八十さん。少し元気でた。

美味しい物を食べると、嫌なこと忘れられるって本当だね。


「ヘコんでるって何があったんですか?」


「もういいんです。渚さん。今のイチゴで忘れられましたから。自分でバカやった自覚もあるので…あ、皆さんどうぞ食べてください。」

ケーキをフォークで切って口に入れる。

自分で作ったけど、美味しくできた。

うん。いい感じ。


今日の事はもう気にしない。

また一月頑張れば、給料出るわけだし、ここにいる分にはお金は必要ない。


「お前、イチゴでいいのかよ…」

八十さんは呆れ顔だ。


「イチゴだけじゃないですよ。美味しい物が食べられればいいんです。」


「十六夜ちゃんのケーキ美味しいもんね。じゃあ、僕のケーキもあげようか?ほら、あーん。」

尊さんの為に作ったケーキなので、それは丁重にお断りする。


「八十は何か知ってるんですか?」

ケーキを食べながら、渚さんが聞いた。


「今日、給料日だろ?朝アカツキ様とやりあって、頭に血が上って全額借金返済に回しちまったんだと。む、い、ち、も、ん、なのに。」


「無一文を強調しないでください。また一月働くからいいんです。もう、忘れました。」

心から笑えたのに、尊さんはなぜか心配そうな顔をしている。


「確かに、あれは酷かったよ。僕が居たからよかったけど、一人だったら危なかった。」


その台詞に反応したのは、隊長さんだった。


「尊、何があった。説明しろ。」

隊長さんの言葉に、朝の出来事を尊さんが説明する。


「暁様に気に入られたのか…朔月、手を打たないと、何か問題が起こってからでは遅い。」

副隊長さんがため息混じりに呟いた。


「十六夜、不快な思いをさせて悪かったな。今度からは、俺が同行しよう。他ではあいつに対抗できない。」

隊長さんの深い海の色の瞳が、申し訳なさそうに細められる。


「そんな。隊長さんに同行してもらうなんて、申し訳ないです。私1人でも大丈夫ですから…」

たぶん…とは言わない。

言ってしまえば、余計な心配をかけてしまう。


「無理をするな。あの秘書がいるから、2対1だ。抵抗なんて無意味だぞ。もう、十六夜はここの隊員だからな…俺が守るのは当たり前だ。」

隊長さんは、私の不安を汲み取ってくれた。


「ありがとう…ございます。」

涙が滲んできた。

来たくて来た場所じゃなかったけど、いつの間にか私の居場所が出来ていた。

ここはとても居心地がいい。


「あー、隊長が十六夜ちゃん泣かせたー。」

椅子に座ったまま、尊さんに後ろから抱きしめられる。


「尊さん、今私はフォークを持ってるから、間違って刺しちゃうかも」


「あはは、それは困る。」

笑う尊につられて、私の涙もひっこんだ。


「じゃあ、本題にもどるぞ。」

そう切り出したのは八十さん。何の話をするのか、見当もつかない。


「無一文な十六夜にカンパするために、賭けポーカーやろうぜ。」

提案する八十さんは、なぜかとっても嬉しそう。


「久しぶりにいいですね。やりましょう。」

八十さんの提案に、真っ先に乗ったのは渚さんだ。


「よし、やるか。手持ちは1万でいいだろ。」

副隊長さんまでもが同意する。


「ちょっと皆さん待ってください。私は本当に大丈夫ですから…」


「ポーカーする口実が欲しいだけだから気にするな。尊、カード持って来い。」

隊長さんにまでそう言われて、私には返す言葉もない。


「はーい。持ってきたよー。リビングに行こう。あ、ケーキご馳走様。」

尊さんの言葉に、止める間も無く、皆がリビングに行ってしまう。


仕方なく片付けをしてから、私もリビングに行くことにした。


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