13
「お?どーしたんだ?十六夜」
そう声をかけてきたのは八十さん。
はい。私、絶賛後悔中です。
朝のムカムカをぶつけるように仕事をこなして、夕食の準備まで終わったところでふと気づいちゃったんです。
「自分の馬鹿さ加減に呆れてるんです」
「何やったんだ?机に突っ伏すほど落ち込むような事なのか?」
椅子を引く音に、向かいに座ったのが分かる。
「今日給料日だったんです。」
「おお。俺たちと一緒だな。」
「暁様に嫌なことを言われたんです。」
「まあ、あいつは嫌味な奴だからな、まともに相手をしたら損するぞ。」
「…ついかっとなって、給料、全額返済にまわしちゃいました。」
少しの間の後、落ち込んで突っ伏した私の髪を豪快に笑いながら、八十さんがかき混ぜた。
「なんだ、そんなことか。」
「そんなことかって…一ヶ月無一文で過ごして…買いたいものとかもあったのに〜」
痛いくらいに髪をかき混ぜる腕を掴んで八十さんを睨みつける。
私が悪い。
悪いんだけどさ、ちょっと八つ当たりしたいんだよ。
「よし、そこは俺にまかせろ。夕食そろそろ準備したほうがいいぞ。訓練終わったからな。」
「ほんとだっ。急がないと。八十さんありがとう。」
私は慌てて、食事をテーブルに運ぶことに徹した。
「ごちそうさまでしたー。今日のご飯も美味しかったよ」
「尊さん、ありがとう。今日はいいものあるよ。」
私はキッチンから、食後にと用意しておいた物を持ってきた。
「えーなになに?」
「ジャーン。特大ショートケーキでーす。」
用意したのは、スタンダードなショートケーキ。
たっぷりのクリームの上に、イチゴも沢山のせた。
大きなオーブンが無いので、本館の物を借りて焼いておいたのだ。
卵やクリームを泡立てる時に、朝の怒りをぶつけたので、よく泡立った自信作だ。
おかげで、少し腕が痛けど…
「やったー。ありがとう十六夜ちゃん。」
尊さんに抱きつかれた。
「ちょっと放して…間違って刺しちゃう。」
長いケーキナイフを掴むと、慌てて放してくれた。
うん。尊さんの扱い方がちょっと分かった気がする。
「皆さんもよかったらどうぞ。甘さ控えめにしておきましたので。」
皆が席に着いたので、切り分ける。
尊さんの分だけは、皆の倍の大きさにした。
もちろん、コーヒーも準備万端。
「そういえば、このバカがヘコんでるから、皆んなで助けてやろうぜ」
テーブルについた所で、八十に指さされる。
「バカって、ひどいっ!そんな事言う人は、こういう目にあうんです。」
八十さんのケーキから、一番大きなイチゴを略奪した。
「ちょ、お前。俺のイチゴ!返せ!」
「もう、食べちゃいました〜。」
ありがとう八十さん。少し元気でた。
美味しい物を食べると、嫌なこと忘れられるって本当だね。
「ヘコんでるって何があったんですか?」
「もういいんです。渚さん。今のイチゴで忘れられましたから。自分でバカやった自覚もあるので…あ、皆さんどうぞ食べてください。」
ケーキをフォークで切って口に入れる。
自分で作ったけど、美味しくできた。
うん。いい感じ。
今日の事はもう気にしない。
また一月頑張れば、給料出るわけだし、ここにいる分にはお金は必要ない。
「お前、イチゴでいいのかよ…」
八十さんは呆れ顔だ。
「イチゴだけじゃないですよ。美味しい物が食べられればいいんです。」
「十六夜ちゃんのケーキ美味しいもんね。じゃあ、僕のケーキもあげようか?ほら、あーん。」
尊さんの為に作ったケーキなので、それは丁重にお断りする。
「八十は何か知ってるんですか?」
ケーキを食べながら、渚さんが聞いた。
「今日、給料日だろ?朝アカツキ様とやりあって、頭に血が上って全額借金返済に回しちまったんだと。む、い、ち、も、ん、なのに。」
「無一文を強調しないでください。また一月働くからいいんです。もう、忘れました。」
心から笑えたのに、尊さんはなぜか心配そうな顔をしている。
「確かに、あれは酷かったよ。僕が居たからよかったけど、一人だったら危なかった。」
その台詞に反応したのは、隊長さんだった。
「尊、何があった。説明しろ。」
隊長さんの言葉に、朝の出来事を尊さんが説明する。
「暁様に気に入られたのか…朔月、手を打たないと、何か問題が起こってからでは遅い。」
副隊長さんがため息混じりに呟いた。
「十六夜、不快な思いをさせて悪かったな。今度からは、俺が同行しよう。他ではあいつに対抗できない。」
隊長さんの深い海の色の瞳が、申し訳なさそうに細められる。
「そんな。隊長さんに同行してもらうなんて、申し訳ないです。私1人でも大丈夫ですから…」
たぶん…とは言わない。
言ってしまえば、余計な心配をかけてしまう。
「無理をするな。あの秘書がいるから、2対1だ。抵抗なんて無意味だぞ。もう、十六夜はここの隊員だからな…俺が守るのは当たり前だ。」
隊長さんは、私の不安を汲み取ってくれた。
「ありがとう…ございます。」
涙が滲んできた。
来たくて来た場所じゃなかったけど、いつの間にか私の居場所が出来ていた。
ここはとても居心地がいい。
「あー、隊長が十六夜ちゃん泣かせたー。」
椅子に座ったまま、尊さんに後ろから抱きしめられる。
「尊さん、今私はフォークを持ってるから、間違って刺しちゃうかも」
「あはは、それは困る。」
笑う尊につられて、私の涙もひっこんだ。
「じゃあ、本題にもどるぞ。」
そう切り出したのは八十さん。何の話をするのか、見当もつかない。
「無一文な十六夜にカンパするために、賭けポーカーやろうぜ。」
提案する八十さんは、なぜかとっても嬉しそう。
「久しぶりにいいですね。やりましょう。」
八十さんの提案に、真っ先に乗ったのは渚さんだ。
「よし、やるか。手持ちは1万でいいだろ。」
副隊長さんまでもが同意する。
「ちょっと皆さん待ってください。私は本当に大丈夫ですから…」
「ポーカーする口実が欲しいだけだから気にするな。尊、カード持って来い。」
隊長さんにまでそう言われて、私には返す言葉もない。
「はーい。持ってきたよー。リビングに行こう。あ、ケーキご馳走様。」
尊さんの言葉に、止める間も無く、皆がリビングに行ってしまう。
仕方なく片付けをしてから、私もリビングに行くことにした。




