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二十三

 トラックの荷室の扉が開いて、四体のドールが飛び出した。谷口が渋々和彦の要求を呑んだのである。

 二手に分かれてKMC-1000のもとへ向かっていくドールを見ながら、

「日本政府がシナリオを書いてるんなら……ドールの一体が破壊されたくらいで、手打ちにしてくれると助かるなあ」と和彦がぼやくように言った。

「そんなあ」と丸子が泣きそうな声を出した。


 「い、いいか、二人でひきつけておいて、ほ、他の二人が後ろからグレネードランチャーで仕留めろ」と森が言った。先ほどの突然の和彦の「条件」に対して、明らかに動揺している。

 ヒカルとサキコが倉庫の陰から飛び出し、アサルトライフルでKMC-1000を射撃した。撃たれたことに気がついたように、KMC-1000が二体のドールの方へ方向転換し、ガトリング砲を放った。

 発砲音のバリバリと、砲身の回転するブブブとが混ざった音がし、大量の薬きょうが排出される。

 発射された砲身から着弾した地面や倉庫の壁まで、弾丸が一直線の光のラインを描いた。ヒカルとサキコは左右に分かれて走って逃げた。ヒカルのすぐ後ろを、弾道である光のラインが追いかけ、倉庫の壁や地面に当って火花を散らし、煙を巻き上げた。

 ヒカルは建物の陰に姿を消した。ヒカルを見失ったKMC-1000は、後ろから撃ってくるサキコに応戦するため、胴体だけを急旋回させてガトリング砲を放った。

「早い!」と丸子が叫んだ。

 すんでの所で、サキコはよけた。そのかわりに、ほんの一瞬前までサキコがいた場所にあったフォークリフトが蜂の巣になって炎上した。

 そのときKMC-1000の後ろから、ハナエがグレネードランチャーを撃った。KMC-1000の胴体に着弾し、爆発が起こった。

「やったぞ」と森が叫んだ。

「いやあ、ダメですねえ」と和彦がモニターを覗き込んで言った。

「だ、だめだったの? 中村くん」

「ちょっと、へこんだ程度だな」と伊藤がかすれた声で言った。

 KMC-1000の胴体後方に大きなへこみができたが、破壊には至っていない。

 続いて、ノゾミが放ったグレネードが、こんどはKMC-1000の胴体側面に命中した。

 KMC-1000は爆発の衝撃に大きく揺らいだが、これも装甲をへこますだけにとどまった。

「火力が足らん。谷口さん、対戦車ロケット砲はないのか?」と森が言った。

「ありません」

 答えた谷口の表情に、いつもの余裕がなかった。マユミは谷口にとって想定外のことが起きているのではないかと思った。


 ドールたちは先ほど行った攻撃をもう一度繰り返した。

「この攻撃の繰り返しでは、行動パターンが読まれて、いつかやられてしまう」と森が呻いた。

 モニターごしにKMC-1000を見ていた和彦は

「丸子さん、ダチョウにもフタとかあるんですか?」と聞いた。

「フタ!?」

「中の機械とかを整備するときに開けるフタです」

「パネルか。そりゃ、あるだろうけど……」

「わかりました。よし、ヒカルとサキコは今までと同じようにダチョウの注意を引け。ノゾミも引き続きグレネードランチャーで攻撃」

「何をする気だ?」と森が丸子に言った。

「グレネードを受けたあと、ダチョウは一瞬動きが止まる。そのタイミングで、ハナエはダチョウに飛びついて、てっぺんまでよじ上れ」

「!」

「パネルがあったら、こじ開けて、手榴弾をねじ込め!」


 ヒカルとサキコはライフルで、KMC-1000を撃ちまくった。カカカカという、着弾音がしたが、その音の上から被せるように、KMC-1000のガトリング砲の発射音が鳴り渡った。さらに、その上からノゾミの撃ったグレネードがKMC-1000の横っ腹に着弾して爆発した音が響いた。

 KMC-1000がぐらりと揺らいで、一瞬動きを止めた。

「ハナエ、今だ、いけ!」と和彦が命じた。

 倉庫の陰からハナエが飛び出し、全速力でKMC-1000に向かって走った。

「いけいけいけ!」と森が叫んだ。

 ハナエはKMC-1000のすぐ背後まできた。

 そのとき、信じがたいことが起こった。KMC-1000の周囲に大量に転がっていたガトリング砲の空き薬莢にハナエは足を滑らせて転び、尻餅をついたのである。

「あ」

「え?」

 トラックの中で、和彦ら全員が凍りついた。

 ドールに仕込まれたドジ機能が発動したわけではない。純粋に想定外な事故が起こったのである。

「や、やばい」と伊藤が叫んだ。

 KMC-1000の胴体が急旋回し、ガトリング砲がハナエの鼻先に突きつけられた。

 モニターに、ハナエが見ているガトリング砲の砲口がアップで映し出された。

「うわあああ」と丸子が絶叫した。

 その瞬間、KMC-1000の胴体にグレネードが着弾し、爆発した。ノゾミが撃ったのである。ハナエを助けるためにノゾミが状況判断して勝手に行動したのは、誰の目から見ても明らかだった。

 KMC-1000が動きを止めた隙に、ハナエは正面からガトリング砲の砲身を伝ってKMC-1000によじ登った。モニターにパネルとノブが映った。

「そいつをこじ開けて、手榴弾をありったけ突っ込め!」

 和彦の命令を受けて、ハナエはパネルをこじ開け、次々に手榴弾のピンを外して押し込んだ。

「よし、ハナエ、そいつから急いで離れろ」

「え、どうやって。無理だよ中村くん」と丸子は叫んだ。

 KMC-1000は立ち上がった状態で高さ四メートルある。そこから飛び降りれば、ハナエは損傷を免れない。

 しかしハナエはKMC-1000から跳躍すると、水泳のように両手をまっすぐ突き出す姿勢で地面に向かって飛び込み、両手から着地すると、そのまま体を丸めて地面をゴロゴロと転がって衝撃を殺すと同時に、KMC-1000から離れていった。。

 その瞬間、KMC-1000が爆発した。

「……やった、やったぞ!」伊藤が叫んだ。

「え? やっつけたの?」

 マユミは途中から怖くてモニターを見ていなかった。

「よおおおおし!」

「お、俺は……こんなことは教えていない」

 ハナエが見事に飛び降りたことについて森が呆然としながらつぶやいた。

「それにしても……勝った。信じられん。本当に勝った……」

「あいつらは、やればできる子ですよ」と和彦は得意げに言った。

 マユミは谷口の方を見た。安堵したような疲れたような表情だった。

 

 爆発を起したKMC-1000ではあったが、中枢を破壊されただけであったのか、まだ、その場に立っていた。足などは無傷だった。

 それが突然、再び爆発を起し、木っ端微塵になった。

「なんだ?」と伊藤が言った。

「自爆したんでしょう。残った部分すら日本政府に拾われちゃ困るんでしょう」


 警察に保護された。キム・ミョンジュンは残りの予定を切り上げて帰国した。この事件については、韓国政府も日本政府も口をつぐんだ。何らかの裏取引があったのか、キム・ミョンジュン自身も騒ぎ立てなかった。



「手違いはあったが、まずはご苦労だった」

 男が一人の日本人工作員を労った。

「KCIAの連中に持ち出させるのは旧式の小型ロボットという話だったのに、あいつら騙しやがって。韓国人というのは本当に嫌な連中だ」

 KCIA工作員の数名が独断でキム・ミョンジュン拉致を企てているのを察知した日本政府は、韓国政府に彼らの独走を黙認するように要請した。

 韓国政府のあずかり知れない事件や事故でキム・ミョンジュンが死ぬようなことがあるとしたら、それは現韓国政権にとっては好都合だったので、彼らは日本の要請に応じた。

 同時に日本は、そのKCIA工作員が戦闘用ロボットを持ち出すことも黙認するよう要請した。目的はキム・ミョンジュン拉致の過程で、ドールと戦わせるためである。彼らは比較的旧型の小型戦闘ロボットを持ち出すはずだった。しかし韓国政府は彼らが強力なKMC-1000を持ち出すようにお膳立てしたのである。

「しかしドール相手に手加減なしでKMC-1000を操作しましたが、見事に負けました。我々を担いだつもりで得意になっていたであろう韓国の連中はどういう気持ちでしょうね。それにしても、あのドールはすごい。今後、いろいろなことに使えそうだ」

「うむ」

「で、拉致に失敗したKCIAの工作員は予定通り『行方不明』ということで……」

「ふん。どこへやったんだ?」

「今頃、竜宮城にでもいるのでしょう」



「すごいね、あの埠頭での出来事が、テレビじゃ花火の爆発ってことになってるよ」

 いつもの甘味処でマユミと和彦はあんみつを食べている。

 新大井埠での戦闘が、政府の発表では事故による花火の爆発ということになっていた。

「あれと同じように、俺達一般人には知らされてない事件が、沢山あるんだろうなあ」と和彦は言った。

 そういう事実を知っていた方が良いのか、知らないでいた方が良いのか、マユミには分からなかった。

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