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十九

 護送車のすぐ後ろを走っていた警察車両からは警官は出てこない。それを見て、吹田会の八人の男たちは余裕たっぷりにバスに近づく。襲撃があったときにはむやみに手を出さず、ドールに任せるよう言われてるのだと伊藤は思った。

 突然、護送車のドアが開き、一つの塊がゴロゴロと転がり落ちた。

「なんだ?」と男達が思った瞬間、バリバリという銃声が響き渡り、二人の男がもんどりうって倒れた。

「!」

 撃ってきたその塊が起き上がったのを見て、吹田会の男たちは驚いた。子供のようなやつだったからである。すぐさま反撃するが、相手は走りだしたので、なかなか当らない。

「畜生、おまえらは中だ!」とリーダー格の男が命じ、二人が護送車のドアに走りこんだ。

 車内には、やはり子供みたいな人影がいた。その後ろに機動隊が使う盾で身を守っている集団がいる。おそらく標的の鈴木爆輝亜夢だと吹田会の男は目星をつけた。

 しかし観察できたのは、ほんの束の間だった。

 その子供みたいなやつは容赦なく自動小銃を撃ってきた。身を隠しながら二人も応戦したが、そいつは全く動じずに仁王立ちで撃ち続けてくるので、全く近寄れない。バスの中を銃弾が飛び交う。立て続けにガラスの割れる音、盾や車内の天井、壁、シートに着弾する音が響き渡る。爆輝亜夢があまりの恐怖に、女のような細い悲鳴をあげた。


 外では円を描くように、ノゾミが走りながら円の中心にいる男たちを撃ち続けた。車を盾に男たちは防戦一方になっていた。男の一人が手榴弾を投げる。爆発し、辺りに轟音が鳴り響いた。

「このままだとドールが危険だ。グレネードを使え」と森が言った。和彦がそうするように、ノゾミに命じた。

 ノゾミは自動小銃からグレネードランチャーが装着されたアサルトライフルに持ちかえると、ランチャーから擲弾を発射した。弾が車に命中し爆発した。その直前に車から逃れていた男達をノゾミは一人残らずライフルのゴム弾で打ち倒した。護送車でも、ハナエが二人の男を仕留めていた。


 偽装トラックの中、この戦闘の様子をモニターごしに見ながら、全員、口のなかが乾いてカラカラになった。

 今までは、相手の虚をついた先制攻撃だったので一瞬で片付いていたが、今回はこちらが受けにまわった分、相手からも撃たれて壮絶な撃ちあいになってしまった。

 現場はさながら戦場のような有様だった。襲撃した吹田会の男たちは、路上に倒れ、気絶したりのたうちまわっている。そこに護送車から距離をとっていた警察の車両数台が現場にやってきて、車を降りた警官が、男達に手錠をかけて別の護送車に収容した。


 爆輝亜夢を乗せた方の護送車では、爆輝亜夢が大騒ぎをしていた。

「ちくしょう、痛ぇよ!」

 軽い怪我を負ったらしい。その傍らでは盾になった警官が重症を負って倒れていた。彼らの前で敵に立ちふさがっていたハナエは、多数の銃弾を受けて穴だらけになっていた。

 護送車も蜂の巣状態になった挙句、手榴弾でタイヤをやられて、とても走れる状態にはなかった。



 いったんドールたちを偽装トラックに収容した。

「あああ、こりゃ酷い。馬絹さん、あんまりじゃないですか」と丸子が悲鳴を上げた。特に爆輝亜夢の盾になっていたハナエの損傷は、表面上だけなのではあろうが、見た目はとてもひどい。

「と、とととにかく、日頃のく、訓練の成果はでで出た。思ったより実戦では、で、できた」

 森は上気してどもり気味になっている。見た目こそ何人もの兵士を屠ってきたように見える森だが、この男はあくまで教官であって、実戦の経験はないし、なにより肝もそれほど大きくない。

 マユミは言葉を失っている。和彦をほうを見るとモニターをじっと見つめて動かない。

「中村くん……」

「ショッキングではあるけど……そのうち慣れちゃうのかもね、俺たち」

 和彦はモニターを見続けたままポツリと言った。


「確かに人間だけで護送していたら、大変なことになっていたのには違いないが……」と伊藤はうめいた。

「馬絹さん、最初、あんたは襲撃はあるのかないのかみたいなことを言ってたが、出発直前には絶対にあることが分かっていたような感じだった。それに吹田会の連中の本気度が半端じゃない。あんたは知ってたんだろ? 襲撃が絶対にあること……そして吹田組は強力な火器をもって爆輝亜夢を消しにくることを」

「すみません、知っていました」

「だいたい、あんたは本当に公安の人間なのか? 公安二課は左翼ゲリラ担当だったはずだ。今回の事件はあんたの領域じゃないだろ?」

「馬絹さんが公安二課に所属するかどうかはおいといて、ちゃんとした身元の人だということは私が保証します」と谷口が言った。

「谷口ちゃん、君も知ってたんだろ? 詳しい内容を聞いたうえで、ドールに実戦経験を積ますのに最適だと思って引き受けたんだろ?」

「それは上が決めていることですので」

 谷口は顔色一つ変えない。伊藤は谷口に聞いても無駄だと思い、

「馬絹さん、一つ教えてくれ。連中は武闘派とはいえ、爆輝亜夢を消すために何故ここまでやる?」

「それは……吹田会の麻薬取引にね、某国が国家ぐるみで関係しているという証拠を爆輝亜夢が握っているからですよ」

「…………」

 おそらく、これが露呈すると、その某国は全力で吹田会を潰しにかかるため、吹田会は必死なのだ。

 損傷で走れなくなった護送車のかわりに、予備で用意してあったマイクロバスで爆輝亜夢を護送するということになった。到着したマイクロバスに、爆輝亜夢と警官二人、そしてノゾミとヒカルが乗った。銃弾で穴だらけにされたハナエは偽装トラックに収容した。

「第二波はあるのかね。いや、それは愚問か」と伊藤がボヤいた。

「申しわけありませんが、引き続きお嬢ちゃんたちに護衛をしてもらいます」と馬絹が言った。

 マイクロバスが発車し、遅れてトランクの偽装トラックも走り出した。

 先ほど戦闘があった場所をトラックが通りかかった瞬間、爆発音がし、トラックが大きく弾んだ。荷室の中の和彦らは床に投げ出され、機材も倒れた。

「な、なんだ!?」森が叫んだ。

 運転手が降りて、外で目撃していた警官らに話を聞いて戻ってくると、トラックが何かの爆発物を踏んだのか、たまたま爆発したのか、トラックの下で小さな爆発が起こったらしいと報告した。走れるのかと伊藤が聞くと、とても無理だと運転手は答えた。

 馬絹は先を走るマイクロバスを止めるよう無線で連絡した。

「トラックをここに止めたままで、ここからドールたちに指示を送るか」と伊藤が言うと、

「いや駄目そうです。機材が倒れた拍子でお釈迦になってます」と丸子が答えた。

「どういうことですか」と状況がつかめず馬絹が聞いた。

「ドールに指示を送るための機材が壊れたんですよ。つまり、マイクロバスにドールを乗せていっても、我々が指示を送れない以上、ドールは戦えない」

「じゃあ、どうすればいいんですか」

「うーん、あとは警察でなんとか」

「そんなの困りますよ。死人の山ができちまう」

 伊藤と馬絹は言い合いになった。

「マイクロバスに……」

 谷口が口を開いた。皆が谷口の方を見た。

「マイクロバスに、唯一ドールに命令のできる中村さんが同乗すればいいのでは?」

「君、何を言ってるのか自分で分かってるのか!」伊藤が声を荒げた。

 仮に和彦が同乗して、第二波が襲ってきた場合は、和彦も弾丸の雨あられにさらされることになる。

「無理無理無理無理!」

 マユミが自分のことのように言った。和彦はそれを見て失笑した。

「馬鹿! 中村くんの命の問題でしょ! なんで笑ってるの!」

「ごめんごめん」

 笑いながら和彦は伊藤の方を見ると、

「伊藤さん、俺はドールと一緒に行ってもいいですよ」と言った。

 誰もが耳を疑った。

「何を言ってるんだ、考えなおせ!」

「絶対死んじゃうよ、中村くん」

 森と丸子が和彦を必死で止めようとした。

「そのかわり条件があります」と和彦は馬絹に言った。

「な、何だい?」

「行くかわりに、馬絹さんには、この約束を命にかえても守ってもらいますよ」

「い、命!?」

「いいですね。では条件を言いましょう」

 全員が、和彦がどんな条件を出すのか、固唾を呑んで見守った。

「条件は……」

「条件は?」

「……谷口さんと丸子さんをデートさせることです」

 全員が唖然としてその場に固まった。


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