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十七

 深夜になり、和彦たちを乗せた偽装トラックは夜の街を静かに走り出した。

 ゲリラのアジトは警察によって二重三重に取り囲まれていた。その中心部に向かってトラックは進んだ。


「準備完了です」と丸子が言った。

「お嬢ちゃんたちのうち、一人は裏から突入し、二人は玄関を破壊して、挟み撃ちにさせてください。前回と同じですな」……馬絹はドールをお嬢ちゃんと言った。

「よし、三人とも行こう」と和彦が三体のドールに命じた。


 暗闇の中に異変を感じ、山田孝太郎は目を覚ました。研ぎ澄まされた感覚を持つこの男は、アジア解放同盟の中でも急進派で、ここに潜伏するゲリラたちのリーダーである。

 街灯に照らされてほのかに明るい窓の外に、人影が動いたのがカーテン越しに見えた。

「まずい、ガサ入れに違いない」

 山田は雑魚寝しているゲリラのメンバーたちを静かに起しはじめた。しかし、彼らが正気になるまでには時間がかかりすぎた。

 人影が大きく動いた。

 山田は間に合わないと思い、一人、押入れの中へ飛び込んだ。


 窓が破られ、暗闇の中、子供みたいなやつが侵入してきたのをゲリラは見た。窓際で寝ていたゲリラは恐怖に叫び声をあげた。

 かろうじて先に目覚めていたゲリラの一人が拳銃を発砲したが、弾はゆらりと動いたハナエの脇をそれて壁にめり込んだ。

 モニター越しに見ていた和彦たちにはハナエが優雅な動きで弾をかわしたように見えたが、実際は撃たれた場合の弾道を予測してその場から移動し、撃つ寸前には既にその場にいなかったのである。

「すごいね、このお嬢ちゃんたちは……」と馬絹が呟いた。

 ハナエはゲリラたちに自動小銃でゴム弾を撃ち込んだ。

 同時にショットガンで玄関扉の蝶番が破壊され、ノゾミとヒカルが突入した。

 二体は逃げようとするメンバーと鉢合わせになったが、一瞬のうちにそれを殲滅した。


 アジトの中でゲリラが全員伸びているのをモニター越しに確認した馬絹は、無線で警官に突入を命じた。

 雪崩れ込む警官と入れ替わるように、三体のドールは静かに引き揚げる。


「いやあ……あっさり片付いちゃったねえ」と和彦は言った。

マユミはどうにも、この捕り物の光景に慣れず、動悸が治まらない。


 天井裏で山田は身を潜めていた。押入れから天井裏に抜けるために外しておいた天井板は、銃撃の喧騒の中、用意しておいた釘を金槌で打ってふさいだ。

 山田は以前から、いざというときのためのこの脱出路を、他のメンバーに知らせずに用意していたのだった。

 それにしても、と山田は思った。

 あれは一体何だったのだろう。

 突入してきたのが一瞬見えたが、大きさは大人と子供の中間のようであり、どこか違和感を感じる体の動きだった。

 洗脳された子供か。

 もしかしたら人間ではないのかもしれない……ロボットか何かか?

 それにしても、ここまで手間隙かけて用意してきたのに、計画は台無しだ。

 山田の憎悪はあの「子供みたいなやつ」に向かう。絶対に借りは返す。


 山田は屋根裏伝いに二件隣りの部屋の上に行き、天井板を外して、押入れから部屋に忍び込んだ。この部屋の住人は新聞配達員なので、早朝は留守にしているのを知っている。山田は何食わぬ顔をして共用廊下の窓を少し開け、当たり前のように朝食の支度をしだした。

 そして五時頃、その部屋の住人のお金を失敬して、悠然と外へ出た。職務質問されたが、用意してあった偽装免許を見せて、警察の包囲網を抜けて朝もやの中に消えた。


 こんなにあっさり山田が警察から逃れることができたのは、山田の素顔がまだ警察に知られていなかったのと、襲撃前のアジトに何人いたのかが把握できていなかったからだった。

 しかも、ゲリラのメンバーは、逮捕されたときに誰か一人が山田孝太郎を名乗るように決められていたのである。



「ほら、こういうことになった」

 トランクの応接室に、国防省の中澤と谷口、公安の馬絹がいる。伊藤に呼びつけられたのである。

 作戦が終わったその日の昼前、逮捕したゲリラのメンバーの中にリーダーの山田孝太郎が含まれていないことが分かった。

 同じアパートに住む新聞配達員が、自分の部屋が物色された形跡があると、アジトを捜索していた警察官に訴えでたのである。と、同時に、アジトの押入れの天井から、抜け道があるのを捜査員が発見した。捕まえたゲリラのメンバーを問い詰めると、山田だと名乗った男は別人だと白状した。

「この山田というやつが逆恨みして、我々を個人的に襲撃してくるかもしれない。僕はどうでもいいけど、うちの中村や寺田が危険に晒される可能性がある。警察官や兵隊と違って、彼らはそういう覚悟を持ってトランクに入ったわけではない。こういう捕り物の手伝いをやらされると聞いたときから、こんな事態を懸念していたんだ」

 伊藤はまくし立てた。

 和彦とマユミは少し離れた給湯室で、このやり取りを耳を澄ませて聞いていた。

「どうしよう、そんなこと想像してなかったよ」とマユミが言った。

「でも、そういう、逮捕したお巡りさんを逆恨みして復讐したなんて話は聞いたことがないからなあ。可能性としては低いんじゃないの?」と和彦は暢気である。

「でも、伊藤さんが心配になるくらい、特別やばいやつだったんだよ、きっと」

 マユミは胃が痛くなってきた。


「しかしですね」

 中澤が言った。

「先に交わした契約書では、こういう事態は想定しているし、理解した上で記名捺印してもらっているはずですが」と言いながら、中澤は契約書を取り出し、条文の一文を指で示した。

 拡大解釈すれば、そういうこともありうるというようなことが書いてある。

「こんなの、まるで詐欺商法じゃないか」と伊藤は笑ってるのか怒ってるのか分からないような声を上げた。実際は怒っている。

「いずれにせよ、トランクのメンバーの身は警察などが守りますから、ご安心ください」と馬絹が言った。

 それを聞いても伊藤はまだ不満げだった。

「……寺田さん、引っ越さない方が良かったかもなあ。女の子の一人暮らしじゃ危ないんじゃない? 寝るときには、ちゃんと戸締りした方がいいよ。田舎だと鍵をかける習慣がないっていうじゃない?」

「馬鹿じゃないの? うちはそんな田舎じゃないよ!」

 マユミは和彦の足を軽く蹴った。


 警察でも軍人でもないトランクの職員を危険にさらしたくないという伊藤の思いは、次の任務で簡単に打ち破られる。

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