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十五

 秋になった。

 三体のドールは基礎訓練を終え、銃の扱いを覚え、一人前の兵士のような動きを見せるようになった。

 しかし、それは和彦やマユミのような素人目にはそう見えるだけの話だった。

「いやいや」と森が首を横に振った。

「これくらいなら、人間の中学生でもできる。ただ、手順を間違えたり、メンタルのブレによるミスなどは、ロボットだからやらかさないが……。戦闘用ロボットとしては、とりたてて能力が高いわけではない」

「そうなんですか? こいつら、こんなに頑張ってるのに」と和彦が言った。

「一般的な戦闘用ロボットというと、キャタピラ型や四足歩行のものになる。戦闘に特化したロボットを人間型にしないのは、それではいろいろ効率が悪いからだ。通常の戦闘用ロボットは、重火器はボディと一体化していて、発射の命令は装備された武器へ回路を伝わって伝達される。だがドールは、人間のように銃を持ち、わざわざ引き金を引いて弾丸を発射させる。これは無駄なことだ」

「でもいざとなったら、ドールはフライパンでも武器にして戦えませんか?」とマユミが聞くと、皆、どっと笑ったので、マユミは顔を真っ赤にした。

「いや寺田さんは正しいよ。つまりドールは人間用のありとあらゆる武器は使える。これはメリットではある。普通の戦闘用ロボットにアタッチする武器は汎用性の高いものではないから、いろんな種類の武器をとっかえひっかえ装備させるのは難しいからね。ドールだったら、はい、と手渡すだけで済む。場合によっては、寺田さんが言うようにフライパンを手にして戦える」

「なんだ、あながち間違ってなかったんだ。よかった」

「でもドールは機動力が無さすぎて、普通の戦闘用ロボットと正攻法で戦えば簡単に負けるだろうな。強い火力を持った訓練された人間の兵士にも負けると思う」

 森は自分の分野について語る上では饒舌である。

「一体、国防省としては、ドールをどう運用するつもりなんですか?」と丸子は谷口に聞いた。谷口は「私には分かりませんね。上が何か考えるでしょう」と言った。

「谷口ちゃん、ドールの様子を上に報告したとき、彼らの反応はどうだったい?」と伊藤が聞いた。

「そうか、わかった、ご苦労、と言った感じですね。いつも」と谷口はつまらなそうに言った。

 しかしこれは谷口の嘘だった。国防省ではある計画が進行していたのである。



 ある日、いつものようにドールの訓練をしていると、谷口の携帯電話が鳴った。

谷口は話しながら休憩室へと歩いていった。

マユミは谷口を目で追っていた。何か、緊迫感のようなものを感じたからである。

「なんだろう?電話しながらテレビつけたね」と伊藤が言った。

伊藤も谷口を見続けていたのである。

 谷口が戻ってくると「森三尉、今日の訓練は中断します」と言った。

 森は「わかりました」と応じ「中村くん、ストップさせてくれ」と和彦に言った。


 谷口は全員を休憩室に集めた。

 テレビでは、ヘリコプターによる住宅街の空撮映像が流れており「世田谷で男が立てこもり」とテロップが表示されている。

 警察がある事件の容疑者を逮捕すべく早朝に自宅を強襲したところ、ライフル銃を手に立てこもった……なお人質はいない模様……と、アナウンサーが伝えている。

「なんか、嫌な予感がするなあ、谷口ちゃん」と伊藤がねちっこく言った。

「詳しい話は後ほどしますが、この容疑者確保にドールを出動させます」と谷口があっさりと言った。



 地下駐車場に「おしどり引越しセンター」と書かれたトラックが止まっていた。谷口が全員をトラックの荷室へ案内した。荷室の中にはドールを格納できる場所があり、コンピューターやモニターなどが置かれ、移動式の小さな司令室のようになっていた。

「すげえ」と和彦は暢気に言った。

「やっぱりね。いつのまにか、こういうの用意してるんだもんなあ」

 伊藤は谷口に対しぶつぶつ不平を言っている。

「ドールの目を通して送られてくる映像をモニタリングできる距離、こちらからの指令を送れる距離というのに限界はありませんが、ドールは国会機密なので、人目に晒したくありません。ドールを作戦現場の近くで下ろし、終了後は速やかに回収するため、我々も現場に向かいます」と谷口は言った。

 

 丸子がドールを引き連れてやってきた。警察の特殊部隊のようなスーツを着せられている。丸子はドールにトラックに乗るように促し、三体のドールは荷室の格納スペースに収容された。

 森、谷口、そして伊藤と和彦とマユミも荷室に乗り込んだ。まもなくトラックは走り出した。


 谷口は「これは極秘の任務になります。ドールの軍事的運用を検討するにあたってのデータ収集と実地訓練を兼ねたものだと思ってください。ドールには、武装している容疑者を殺さずに取り押さえさせます」と言った。

「でもさ」と伊藤が言った。

「これは警察の仕事じゃないの? 軍が出てくるのはお門違いでしょ」

「ドール自体は書類上、トランクの保有となっています。容疑者確保を安全に解決したい警察が政府に要請して、政府がトランクに極秘で協力を依頼した形になります」

「つまり国防省としては、いざとなったら無関係って顔をするが、喉から手が出るほどほしいドールの実戦でのデータを収集したり、どのくらい戦えるのか見極めたりできるってことか」

「ご明察です」と谷口は表情一つ変えずに言った。

 マユミは自分がとんでもなく場違いな場所にいるような気がした。

 こんな大それた話の中に、自分がいることに実感が湧かなかった。立場的には和彦も同じはずであるが、和彦はこの状況を楽しんでいるように見えた。

「犯人はライフル銃を持ってるんですよね。ということはドールが撃たれる可能性はありますよね」と丸子が心配そうに谷口に言った。

「そのための今回のドールの出動要請です。人間の警官が撃たれたら怪我をしたり死んだりしますが、民間人が持つライフル程度で破壊されてしまうほどドールの装甲は薄くありません。多少被弾しつつも強引に容疑者を確保することを期待しているわけです」と谷口はさらりと言った。

「ハナエ達が表面上だけとはいえ傷ついちゃうのは、嫌だなあ」と丸子は言った。

「表皮を張り替える程度の修理で済むでしょう。修理の予算は別途出ます」

 谷口には丸子のドール愛が全くわかっていない。

「ドールには何か武器を持たすの? フライパン?」と和彦が聞いた。

 谷口は和彦の冗談には乗らず「殺傷能力の低いゴム弾が装填されたサブマシンガンを装備させます。武器はそのケースに入っていますので、後ほどドールに持たせてください」

 丸子が谷口の示したケースを開けてみると、自動小銃が入っていた。

「用意周到なことで」と伊藤が言った。


 トラックが現場についた。

 容疑者の自宅の周りを幾重にも警官が取り囲み、辺りには緊迫した空気が漂っていたが、窓のないトラックの荷室の中にいる和彦たちには知りようもない。

 現場の指揮官なる者が乗り込んできて、状況の報告を受けた。それをもとに作戦を確認し、夜を待つ。

 

 訓練してきたとはいえ、ドールにこんな大それた仕事ができるのだろうかと皆が不安に思った。

 和彦は一人、皆に背を向けてモニターの前に座り、物思いに耽っているように見えた。

 マユミが声をかけると返事がない。見ると昼寝をしている。


 夜になり、報道管制が引かれ、テレビ放送はシャットアウトされた。

 闇の中、三人の小柄な特殊部隊の隊員のような人影が、犯人の自宅の玄関と裏に、それぞれ歩いていったのを、現場の警官や記者たちは見た。

 ドールの目の中のカメラがとらえた映像が転送されて、トラックの中のモニターに映し出されている。その他、別のカメラによる俯瞰の映像なども映し出されている。それらの映像から、現場へ進んでいくドールたちを、警官たちが意図的に気にしないようにしている様が見て取れた。詮索無用と達せられているのだろう。


 ヒカルとノゾミが玄関前に、ハナエが裏の庭に立った。警察の男が時計を見ながら「二十二時三十分、突入させてください」と言った。

「よし、ハナエ、閃光弾。ヒカルとノゾミはドアを壊して突入」と和彦がマイクを通して命令した。

 轟音が鳴り渡り、発砲音がした。続いてバリバリという機関銃の乾いた音がした。

 ドールの視界をモニター越しに見た一同は、容疑者の恐怖に引きつった顔まで、はっきり見ることができた。

 やみくもに何発か発砲した容疑者に臆せずドールは悠々と近づき、自動小銃から連射したゴム弾を叩き込んだ。

 その場に崩れ落ちる犯人の様子を見て、見入ってしまった和彦は次の指示が出せずに固まった。

「中村くん、犯人の銃を拾わせるんだ」と森が言ったので、和彦は我に返ってドールに指示をした。

 警察の男は「成功ですな」と言い、無線で部下に現場に乗り込むよう指示した。

 何人もの警官が容疑者確保のために、現場に雪崩れ込んだ。

 一方、三体のドールは裏口から粛々と引き上げてきた。


 ドールを回収すると、トラックは現場を離れた。

 丸子は大慌てでドールが被弾していないか調べた。

「ああ、よかった。一発も当ってなかった」

「よかった、よかった。本当にやればできる子たちだ、おまえたちは」と和彦もドールを労った。

 マユミは緊張が去らず、未だ動悸が治まらなかった。

 伊藤は安堵しつつも、このような「実地訓練」が、どんどん難易度の高いものにエスカレートするのを危惧した。

 引越し業者を装ったトラックは、誰にも気にされずに町の中に消えていった。


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