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十一

 案の定、国防省からお達しがきて、和彦たちはドールに関われなくなってしまった。

 ドールの能力開発は一時国防省の預かりとなり、トランクは締め出されてしまったのである。

 和彦とマユミに、また退屈な日々が帰ってきた。

 メモ用紙を切っているマユミの傍らに立っている和彦は、一応、叔父さんの顔を立てて一度は就職したわけだし、ここを辞めて再びニートを極める修行へと戻ろうかと思っているなどと言っている。

 何度かトランクをやめようと思っていたマユミだったが、ドールの訓練に立ち会うようになってからは、和彦が口頭で言う訓練の計画書を書き起こしたり、ときにはマユミも何か提案したりして、それなりに充実していた。

 もしドールが完全に国防省に戻ってしまい、トランクが解体されるとなると、マユミも路頭に放り出されて、また就職活動をしなければならなくなる。

 マユミは過去の悪夢の就職活動の日々を思い出すと、それはごめんだと思った。


 かつてのマユミの就職活動は連戦連敗だった。

 なぜなら、会社の人事担当が採用を見送りたくなるような理由が、マユミにはあったからである。


「退職届ってさあ、どうやって書くの?」

 和彦のくだらない質問が、マユミを現実に引き戻した。

「馬鹿じゃないの? 自分でネットででも調べたら?」

「すまんが、退職届はちょっと思いとどまってくれ」と言いながら、伊藤が二人のもとへ来た。

「国防省がね、すぐ来いっていうんだ」



 十数分後、和彦たちはドールを訓練させていた、いつもの地下室へ来た。

 伊藤は二人から離れ、丸子と何か立ち話を始めた。

 マユミは、トランクからこの地下訓練場へ、あまりに早く到着したことを訝しく思っていた。今まではカモフラージュのため、余計な遠回りをしていたのに違いなかった。マユミはこの地下訓練施設は一体どこにあるのだろうと思った。

「ねえ中村くん、今更だけど、ここってどこなんだろう」とマユミが小声で聞いた。

「地下室」

「馬鹿。そうじゃなくて、東京のどの辺なのかって」

「国立競技場の下だろうね」と和彦は当たり前のように答えた。

「……なんで分かるの?」

「前に、ここで出前の弁当を食べたときに、袋にレシートが入ってたんだよ。で、お店の住所が千駄ヶ谷だったわけ。千駄ヶ谷の近くでこんな広い地下室を確保できて、ハードルとか砲丸が簡単に調達できるような所は、国立競技場しかないと思ってたんだよ」

 マユミは驚いた。マユミもそのレシートは見ていた。ただし、マユミは値段のところばかり見ていたのである。


 やがてこの前の三人、つまり国防省の職員が現れた。

 二人の男と一人の女。その男のうち偉そうなやつが和彦に名刺を渡しながら、

「国防省の中澤です」と自己紹介した。

 和彦は名刺を片手で受け取ると、

「僕はトランクスの中村です。ああ、僕まだ名刺を作ってもらってなくて」と言った。

 中澤は嫌な顔をした。それを見てマユミはひやひやした。

「中村さんはトランクの研究員だと伊藤さんから聞いていますが」

 冒頭に「とても信じられないのですけど」と付け足したかったことだろう。

 それを聞いて和彦もマユミも何か言いそうになったが、それを伊藤が目で制した。

「我々がドールを引き取ってからの経緯は、伊藤さんからざっと伺ってると思いますが……」

「え? いや、まだ聞いてないです」と和彦は言った。

 中澤は不機嫌そうに、

「ここでまた同じことを説明するのは時間のロスだと思うんですけどね、伊藤さん」と露骨に言った。伊藤は「悪いね」と軽く言った。ここへくる車中で話そうと思ったのだが、和彦は早々に寝てしまったのである。

「まあ、いいでしょう」と中澤は言った。


「あの後、我々がドールを引き取り、軍事教官……もちろん人間を教える教官だが、その教官にドールを訓練させようと試みた。だが、この前、ここで中村さんがドールにやらせていたようなことが、教官の指導ではできなくなってしまっていた。二三日もすると、以前の忠実に愚鈍を再現する動きに戻ってしまったのですよ」

 一体どういうことなのだろうとマユミは思った。

 和彦は丸子に連れてこられた軍服姿の二体のドール……「ハナエ」と「ノゾミ」の方を見た。

「ちょっと僕があいつらに指示してみせてもいいですか?」と和彦は言った。

「いいでしょう」と中澤が許可した。

「よーし、これは今まで誰にも見せてなかったやつだ。二人とも頑張れよ。ハナエ、ノゾミ、逆立ちしてごらん」

 二体のドールは最初は動かなかったが、何かを思い出したように、逆立ちしてみせた。

 国防省の二人の男は息をのんだ。女の方は表情ひとつ変えない。マユミはこの国防省の女が気になった。

 和彦は「よし!」と嬉しそうに言った。

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