曖昧模糊-フヘン-
彼とはよく食事に行くんです。
パスタにもんじゃ、お寿司に焼肉。
昨日はラーメンを食べましたし、その前はタイ料理に舌鼓を打ちました。
もちろん映画館や遊園地、動物園に水族館など、とにかく沢山の場所も回りました。
お買い物なんてきっと、それ以上に行きました。
衣類から小物まで、これがいいあれがいいと言い合うのは楽しいです。
この前は彼がフライパンを新しくしたいと言ったので、一緒にホームセンターに行きました。
その方がこれ以上、この話題に触れなくていいですから。
店員さんには、よく彼氏さんと彼女さんと呼ばれます。
二人とも、否定はしません。
でも、肯定もしません。
ただ返事が面倒臭くて、流してるだけです。私も彼も一人暮らしですが、話に聞くだけで、家の前まで送って貰うだけで、お互い中でどんな生活をしているのかは知らないんです。
あ、そぅそ。
一つ言い忘れてたことがありました。
私達二人とも、同じ癖があるんです。
椅子に座る時に足を組むとか、髪によく触るとか、よくあるでしょう?あれです。
私達、必ずポケットに両手を入れているんです。
理由なんてありません。
気づいたらいつもそのポーズなんです。
服を見てる時も街を歩いてる時も、自分のポケットに手を入れて話をします。
手を握ったり冗談を言い合ったりはしませんし、冗談でも好きだ嫌いだの問答はしたくありません。
そんな話をしたことも、それ関係の話が上がったことも、一度もありません。
何故だか、嫌なんです。
それに彼が好きかと聞かれても、私は好きか嫌いか分かりません。
嫌いではないのだけど、好きと言えるほど好きなのでしょうか。
私の気持ちが曖昧だから、そして多分彼もそうだから、きっと嫌なんだと思います。
ルルルルル
あ、電話です。
この時間ですから、多分彼です。
これから夕飯を食べに行くのかもしれません。
もっと遅い時間の電話の時は、大体が明日出掛けないかの話です。
「もしもし」
あぁ、やっぱりそうでした。
今日の夕飯は中華です。
いつものように1時間後に待ち合わせをして、外出用に服装をちょっと小綺麗に整えて。
仕事に行く時と同じようにお化粧をして、お出掛け用のバックを持ったら、家を出るのに調度いい時間です。
待ち合わせ場所に着くと、彼はいつもと同じ街灯の下で、背中からより掛かっていました。
「待ってた?」
「いや、時間通りだから待ってない」
このやり取りもいつもと一緒です。
立ち上がった彼の隣に並びますが、彼はやっぱりポケットに手を入れていました。
この場所は私の家からさほど離れていない距離にありますが、視線を下ろすと私の両手も、いつの間にかポケットに入っていました。
話は変わりますが、そういえば家で食器を洗ってる時、滑ってお皿を割ってしまったんでした。
彼に言ったら、今日行く中華料理店の近くに、新しい雑貨屋が出来たらしいです。
早速行くことになりました。
ケガしなかったか?と聞かれたので、してないよと答えたら、手を切らないように気をつけろよ、と言われました。
雑貨屋では新しいお皿の他に、ゴム手袋も買うことになりそうです。
じゃあ彼には古くなって捨てたらしい、新しい鍋掴みでも見繕いましょうか。
「ほら、ゴムテあるじゃん」
「この鍋掴み、どう?」
その後二人揃って、お会計です。
お買い物の後の中華料理も、とても美味しかったです。
次は何料理を食べましょうか。
じゃあまた今度。
そう言って私の家の前で別れるのも、いつもの流れです。