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猛虎奮迅-呂布伝-  作者: Hirotsugu Ko
第一部・献帝の用心棒編
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第5話

 一方、呂布は、高順と共に洛陽の街を出歩いていた。

「呂布様が、陛下の親衛隊長に抜擢されるなど夢にも思いませんでした。こんなに嬉しいことは、ございません」

 高順は、そう言って、笑顔を見せた。

「ははは…董卓の青ざめた顔は、ほんとに痛快だったぞ。お前にも見せたかったな」

 呂布は、そう答えてから、

「今日は、実に気分がいい。どこかで、酒でも飲もうか」

 と、続けた。すると、彼は、

「とことん、お付き合いさせて頂きます」

 快く頭を下げた。と、そんな他愛もないやり取りをしながら歩いていると、ふいに目の前に武芸者らしき一人の男が立ちはだかった。そして、

「お前が、呂布か」

 と、尋ねて、彼らに近づいてきた。

「何者だ」

 呂布は、その男に聞き返すと、

「それがしの名は、張遼…字は、文遠だ。ここで会ったのは、まさに千載一遇のチャンス。お主を倒して、俺の名を轟かせてやるぜ」

 張遼と名乗る男は、刀を静かに抜いた。史実の張遼は、曹操に仕えた文武両道の名将としてよく知られているが、この時点では自らの武芸を武器に諸国を渡り歩いては、名のある武芸者と勝負をし、その力量を天下に示して名声を高めようとする武勇一辺倒の漢であった。

「面白い。やれるものなら、やってみろ」

 呂布もそう言って刀を抜くと、張遼は、

「その首、もらった」

 躊躇することなく、彼に斬りかかった。しかし、彼は、張遼の太刀筋を俊敏に見極めて、その攻撃をさっとかわした。そして、

「ほう…なかなか、いい太刀筋だな」

 ニヤリと笑った。

「我が殿に単身で刃を向けるとは…なんと無謀な男だ」

 高順は、腕組みをして、その様を涼やかに見守った。彼も相当の手練れであったが、呂布の武には到底及ばないのだ。それが、名もなき無礼者に負けるはずがないと、彼は確信していたのである。

「その余裕…どこまで、続くかな」

 張遼は、目を光らせながら、再び刀を構え直した。こうして、呂布と張遼の剣劇は、次第に激しくなっていった。しかし、勝負はなかなかつかず、斬り合うことすでに百合を越えたのであった。そして、

「はあ、はあ…」

 張遼が、息を切らし始めると、

「どうした。もうおしまいか」

 呂布は、不敵な笑みを浮かべた。すると、

「まだ、終わってはいないわい」

 力を振り絞って斬りかかった。しかし、その疲労を帯びた剣は、いとも簡単に払いのけられ、それと同時に、組み伏せられたのであった。

「くっ…こ、殺せ」

 張遼は、もがきながらそう叫んだ。すると、呂布は小さく笑い、

「俺の剣に対して、ここまで耐えられた奴は他にはいない。張遼とやら、俺の家来になる気はないか」

 と、彼を誘った。その思いがけない言葉に、張遼は大きく見開いて動きを止めると、

「わはははは!」

 急に大きな声を上げて笑い出したのだった。そして、

「俺を家来にしてくれるのか。面白いことを抜かす奴だな」

 そう言って、さらに続けた。

「よかろう。お前に敗れた以上、俺は死んだも同然だ。好きなように使え」

 その言葉に、

「言われなくても、そうさせてもらうぞ」

 呂布が小さく笑い、

「まずは、うまい酒を出す店探しから始めてもらう…俺の出世祝いとお前の歓迎会をしないといけないからな」

 と、続けると、

「お安い御用だ」

 張遼は、親指を立てて白い歯を見せたのだった。こうして、呂布は新たに張遼という猛者を家来に加えたのであった。


 それから数日後のこと…

 献帝は、呂布を呼び出し、ある相談をもちかけたのだった。

「宮廷内では、儒教が普及しておるが、第二代皇帝・明帝は、夢の中で金色に輝く“金人”を見て西方に仏がいることを悟り、そこの聖人の教えを受けるため、使者を遣わして“四十二章経”を写させて仏教の存在を明らかにし、さらに白馬寺を建てたそうじゃ。そして、第十代皇帝の桓帝や当時の王侯貴族たちは、仏堂を建て、その“金人”といわれる仏像を祀り、仏教の儀式を行なっていたそうじゃ」

 彼の話を聞いていた呂布は、目を虚ろにさせながら、

「は、はあ…仏教ですか」

 口を半分開けた状態で小さく頷き、

「拙者は、儒教すら良くわからぬゆえ…何のことだか、全く理解が追いつきませぬ」

 苦笑いした。すると、献帝は、

「むむ、それはいかんのう…国家に仕える身であれば、武芸だけでなく学識も大切にせねばならんぞ」

 彼をたしなめた。そして、

「で、話を戻すが、その明帝が建てた白馬寺が、洛陽城の城西、西陽門外から3里ところにあるそうなのじゃが、朕は一度も行ったことがない。後学のため、その寺を見学したいわけじゃが、道中の同行をお主にしてもらいたいと思っておるのじゃ」

 彼にボディーガードの依頼したのだった。白馬寺は、現在においても存在する寺で、文献によると、中国最古の仏教寺院となっている。その名の由来は、天竺から2人の高僧が経典と仏画を白馬に積んで来たことからとなっているが、諸説はあるらしい。

「陛下は、その仏教とやらを信じられておられますのか」

「いや、信じる信じないの問題ではない…儒教であれ、仏教であれ、それぞれにおいて、その真理は優れたものじゃ。ゆえに、一つのことに縛られて視野を狭くさせるのではなく、あらゆる物を己に取り入れることが大事じゃと思っておる」

 それを聞いた呂布は、

「さすが、国の頂点に立つお人だ」

 と、いたく関心し、

「是が非でも親衛隊長として、拙者もお供させて頂きます」

 頭を下げたのだった。


 こうして、献帝は、呂布が率いる親衛隊に守られながら、白馬寺に向かったのであった。

「陛下…たまには、こうして街を出て旅をするのも良いものですな」

「うむ。そうじゃのう」

 献帝と呂布は、互いに笑いながら、そう話した。都を出て、郊外に広がる田畑を抜ければ、見渡す限りの大平原である。そのダイナミックな自然環境に、幼い献帝が、立場を忘れて心を躍らせるのも無理はなかった。

「殿…最近、この辺りには、黒山賊と言う野党どもがうろついていると聞いております。あまり、のんびりしておられますと、奴らにつけ入られる隙を作ることになりますぞ」

 高順は、悠長に旅を楽しむ二人を促したが、

「わかっておる…だが、このような機会は、なかなか無いのだから、そんなせっかちなことを言うな」

 と、呂布に返され、さらに、

「それに、襲って来たなら来たで、この俺が蹴散らしてやるぜ」

 タンカをきられた。

「うむ。頼もしい限りじゃ」

 それを聞いて献帝は、笑顔で頷くと、

「やれ、やれ…どうなることやら」

 高順は、深くため息をついたのだった。こうして、和やかな雰囲気の中、旅は順調に続けられたのだが、運の悪いことに高順のよみは当たり、彼らの様子を黒山賊の斥候によって、木陰から目撃されてしまったのであった。

「高貴な小僧が手勢を率いている…きっと、どこかのお偉いさんの坊ちゃんに違いあるまい」

「誘拐して、身代金を要求すれば、いい金になりそうだな」

 二人組の斥候は、ニヤリと笑い合うと、すぐさまその場から消え去ったのだった。

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