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猛虎奮迅-呂布伝-  作者: Hirotsugu Ko
第二部・曹操との死闘編
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第33話

 戦いの最中、夏侯惇は、猛将・典韋と許褚の二人がかりで、全く引けを取らない勝負を演じる一人の漢を見て、ふいに目を光らせた。そして、

「呂布だな…その首は、この俺がもらった」

 敵兵を蹴散らしながら、その舞台を目指して突進してきたのであった。すると、

「いかん…次々と曹操軍の猛者たちが、殿を狙ってくる」

 高順は、すぐさま携えていた弓を構え、

「くらえっ!」

 夏侯惇に目がけて矢を放ち、彼の左目を射抜いたのだった。

「ぐおっ!」

 その攻撃により、彼は激しく悶えたが、突き刺さった矢を左目ごと引っこ抜くと、

「これは、父母から頂いた大事なもの。なんともったいないことだ…」

 その目玉を食らって、高順を睨んだ。そして、

「下郎め…まずは、貴様から始末してやる」

 夏侯惇は左眼窩から血を吐き出しながら、鬼のような形相で、彼に討ちかかっていったのだった。

「いざ、勝負!」

 高順は怯むことなく、その憎しみのこもった彼の攻撃を受け止めて、ぐっと歯を食いしばると、

「どうりゃあ!」

「むん!」

 すかさず反撃した。しかし、その攻撃は難なく受け止められ、

「右目だけでも用は足りる」

 夏侯惇がニヤリと笑うと、

「あっぱれな将なり…そうこなくてはな」

 高順もそれに応えたのだった。こうして、彼らの一騎打ちが、次第に白熱していくと、そこから少し離れたところで、夏侯淵は、その顛末を見て、

「向こうが弓矢でくるなら、こちらもお見舞いしてやるまでだ」

 おもむろに弓を構えた。彼は、曹操軍の中でも、群を抜いて弓術に秀でる名手であった。

「死ねえ…呂布!」

 夏侯淵は、呂布に向けて矢を放ったが、

「むう…そうはさせるか」

 それを見た張遼が、すぐさま馬の腹を蹴って走らせ、その矢を大刀で斬り落としたのだった。そして、

「貴様の相手は、この張遼だ」

 そう大きく怒鳴ると、

「こしゃくな!」

 彼らの戦いの火蓋は切って落とされたのであった。と、そこへ、呂布の首級をあげて手柄を得ようと勇みだった李通と史渙が、その隙を狙って彼へ襲いかかろうとした。

「呂布の首は、この李通が頂く」

「いや、この史渙がもらったぜ」

 二人は、そう発して、武器を力強く握りしめて呂布へ接近していったが、それを察知した楊奉と韓暹が、彼らの前に立ちはだかって身構えたのだった。

「そうは、いくか」

「おいらが相手してやる」

 こうして、楊奉は李通と、韓暹は史渙とそれぞれが一騎打ちを始めたのであった。このプライドを賭けた華やかな演舞に励まされた両軍の兵卒たちは大いに奮い立ち、一進一退の凄まじい大接戦を繰り広げたのだった。


 その頃、義妹・呂香姫も、虎紳らと共に己の技量を駆使して奮戦していた。

「小娘の分際で、生意気な…戦場をなめるなよ」

 兵士たちは、容赦なく彼女に襲いかかった。だが、

「うふふ…そうは、問屋が卸さなくてよ」

 それに怯むことなく彼女が呟いた瞬間、思いもよらぬことが起こった…なんと、呂香姫が、その場に千人を超えるほどに増えたのである。

「ひい…一体、どうなっているんだ」

 あまりのことに、兵士たちはパニックを起こした。それを見て彼女は、

「分身の術よ…捕まえられるなら、捕まえてみなさい」

 不敵な笑みを見せたのであった。

「く、くそ!」

 彼女の術に負けまいと、兵士たちは己の武器で果敢に立ち向かったが、その数の多さに幻の彼女とばかり相手をすることになったため、彼らの攻撃は、ことごとく空振りするハメとなった。

「ええい、惑わされるな…本物は、必ずこの中にいるはずだ」

 部隊の隊長らしき男は、そう吠えて味方を奮い立たせようとしたが、彼女たちは、時間を追うごとに増え続けたため、その場は彼女だらけとなり、ついには大混乱をきたしたのだった。それを見て、

「敵が翻弄されている今が、絶好のチャンス…者ども、かかれ!」

 虎紳たちは、猛然と彼らに食ってかかり、バッサバッサとなぎ倒していったのであった。


 そして、激闘が始まってから数刻が過ぎた頃、呂布と典韋・許褚コンビの戦いでは、ある変化の兆候が見え始めていた。

「どりゃあ!」

 呂布が、典韋に対して鋭い突きを繰り出し、それを避けそこなった彼は、その攻撃を右肩に食らいながら落馬してしまったのであった。

「ぐあっ!」

「おお…典韋!」

 許褚は、とっさに大声をあげた。すると、典韋は、

「大丈夫だ。右肩を少し、やられただけだ」

 顔をゆがめながら、そう答えた。と、その瞬間、

「隙あり」

 呂布は、注意力の薄れた許褚に対して、すかさず突きを食らわし、

「うわっ…しまった!」

 その攻撃を避けようと、大きくのけ反った彼は、その拍子に大地へ叩きつけられたのだった。

「ぬう、万事休すか」

「いたた、ちきしょう」

 典韋と許褚が、顔を見合わせて、視線を馬上の猛者へ移すと、

「さあ、二人とも串刺しにしてやるぜ」

 呂布は、目を光らせながら彼らに刃を向けた。と、その時、急に何者かが大声を発しながら、その場に駆けこんできた。

「呂布どの…大変でござる」

 その声を放った主は、なんと要塞を守っているはずの臧覇であった。そして、彼に続いて、昌豨たちまでが姿を現したのである。

「なぜ、お前らがここにいる…まさか…」

「申し訳ございません。背後から曹操の本隊が現れ、山塞は陥落してしまいました」

「本隊だと…曹操は、最初から別行動で要塞を狙っていたのか」

 呂布は、山塞落城の報に、思わず天を仰いだ。

「どう致しましょう」

 臧覇の問いかけに、彼は、

「悔しいが…かくなる上は、戦場を離脱して、再起を図るしかない」

 と、言って、

「皆の者…力のある限り、逃げるぞ」

 戦場からの大脱走を決めた。そして、一騎打ちを演じている高順たちを逃がすため、順々に彼らのもとへ駆け寄っていったのであった。

「高順…逃げろ!」

 呂布は、そう声を張り上げて夏侯惇へ突進し、躊躇をすることなく横槍を入れた。すると、彼は、

「ぬおっ!」

 すかさずその突きを受け止めたが、その拍子に武器を落として落馬してしまったのだった。

「殿…かたじけない」

 高順は、呂布に礼を言うと、すぐに馬の腹を蹴って駆け出していった。それを見た彼は、夏侯惇にとどめを刺すことなく、その場を早々と立ち去り、急いで次のターゲットへと向かったのだった。

「次は、夏侯淵だ!」

 呂布は、ためらうことなく方天画戟を振りかざし、夏侯淵へそれを振り下ろした。

「うおっ!」

 その不意打ちによって、夏侯淵は武器を破壊され、そのまま落馬してしまったのであった。

「残るは、あと二人…」

 呂布は、そう呟きながら、一騎打ちを続ける仲間たちに接近し、

「楊奉、韓暹…逃げるぞ」

 間髪を入れることなく、李通と史渙に攻撃を食らわせたのだった。

「ぬわっ!」

「くおっ!」

 その鋭い攻撃に李通と史渙は、思わず怯んだ。と、その隙に、楊奉と韓暹は、さっさと逃げ去ったのであった。

「よし…俺も、このまま離脱させてもらうぜ」

 呂布も、そう言い残すと、脱兎のごとく去っていった。だが、

「待て…臆病者!」

「そう簡単に、逃がすか」

 李通と史渙は、体勢を整えると、逃げる呂布たちを追いかけ始め、

「李通と史渙に続け…絶対に逃がすな」

 落馬した夏侯淵は、大地に頭を強く打ちつけたせいで意識が朦朧としていたが、力を振り絞って、兵士たちにそう叱咤したのであった。すると、曹操軍の兵士たちは、たちまち目標物を確認して、二人の将に続いて走り始めたのだった。


 この脱走劇の最中、呂香姫と虎紳は味方とはぐれてしまい、たったの二騎で荒野を疾走していた…そして、しつこく迫ってくる敵兵たちをありとあらゆる幻術で弄びながら、その修羅場を斬り抜けていった。ある時は、天より龍を呼んで心を惑わせ、またある時は、おびただしい数の猛獣を呼び寄せて恐怖を煽り、ことごとく敵を退散させたのであった。

「次々と新手がやって来るわね…だけど、私の術の前では、全てが無力よ」

 と、その時、彼女の目の前に、馬に乗った白い髭を持つ老人と端正な顔立ちを持つ若者が、手勢を引き連れて立ち塞がったのだった。

「どうやら、妖術使いのようだな…だが、わしにも少しは、その心得があるぞ」

 程昱が白い髭を撫でながら、そう口にすると、

「その小娘は、呂布の義妹らしいから、丁重に生け捕ってくれよ…今後の駆け引きで、何かと使えそうだからな」

 荀攸は、その端正な顔立ちで、不気味に笑った。すると、

「ふん…そう簡単に、捕まってたまるか」

 彼女は、程昱へ杖を向けて術を放ち、凍えるほどの冷気と共におびただしい量の氷の礫を浴びせた。だが、

「かような小細工など、わしには利かぬわい」

 彼は、そう言い放ち、一瞬にして、その礫をただの紙切れに変えると、

「…縛!」

 瞬く間に、彼女の動きを奪い去ったのだった。

「し、しまった」

 彼女は、必死になって、金縛りの術を解こうとしたが、

「今だ…ひっ捕らえよ」

 荀攸の号令を受けた兵士たちによって、あえなく囚われの身となってしまった。だが、それを見て、

「おのれ!」

 虎紳が、彼女を取り返そうと迫ったが、

「邪魔をするな…小僧」

 この騒ぎを嗅ぎつけてきた典韋によって阻まれ、一刀両断のもと、儚く散っていったのであった。


 一方、高順たちを曹操軍の猛者たちから引き離すことに成功した呂布だったが、それが仇となって格好の標的となり、敵からの激しい追走を受けていた。

「ちい…しつこい奴らだ」

 呂布は、執念深い曹操軍に対して、思わず舌打ちした。そして、

「絶対に逃がさん…その首級、この李通がもらい受ける」

「いや…この史渙が頂く」

 彼は、懸命に赤兎馬を走らせたが、次第に追手との距離は狭まっていった。

「もはやこれまでか」

 呂布は、そう言い捨てると、

「ならば、斬り死にするまでだ」

 赤兎馬をひるがえした。と、その時、背後から、なんと楊奉と韓暹の二人の将とわずかな兵士たちが引き返して来たのだった。

「呂布どのは、こんなところで死んではなりませぬ…しんがりは、我らにお任せくだされ」

「おいらたちが、呂布どのの再興の礎となって果てましょう」

 楊奉と韓暹は、そう言って、迎撃態勢を取った。

「再興など、どうでもいい…お前らを見捨てるわけにはいかん。俺も、ここで一緒に死に花を咲かせようぞ」

 呂布は、そう大声を張り上げたが、

「それは、なりませぬ…今の世を変えられるのは、呂布どのしかござらん」

「さあ…早くお逃げください。呂布どの」

「お、お前ら」

 彼らの声に、思わず眉をひそめた。そして、

「躊躇をしている場合ではござらん」

「さあ、早く」

 そう二人に急かされると、彼は小さく頷き、

「お主たちの死は、決して無駄にはせんぞ」

 唇を血が滲み出るほど強く噛みしめながら、背を向けたのであった。

「あっ…呂布が逃げたぞ」

「ここまで来て、逃がしてたまるか」

 李通と史渙は、逃げようとする呂布に必死に食い下がろうとしたが、楊奉と韓暹によって遮られてしまったのだった。

「ここから先は、通させん」

「おいらたちが、相手だ」

 彼らに邪魔をされた李通と史渙は、大いにいきり立ち、

「生意気な!」

「下衆は、どけえ!」

 再び彼らと打ち合いを始めたのであった。

「今度こそ、けりをつけてやる」

「それは、こっちのセリフだ」

 韓暹と史渙の戦いは、熾烈を極め、再び膠着状態になると思われたが、

「せいや!」

 怒り狂う史渙が、そう大声を発して、連続で鋭い突きを繰り出すと、、

「うわわ!」

 その攻撃に、韓暹は思わず体勢を崩した。と、その隙を逃すことなく、史渙は、体勢を崩した彼に向かって、大きく一撃を放った。

「どりゃあ!」

「ぐわあ!」

 その一撃は、見事に韓暹の心臓を貫き、彼の命を奪い去ったのだった。そして、

「敵将・韓暹は、この史渙が討ち取った」

 史渙が、勝利の雄叫びをあげて、槍を高々と突き上げると、

「ああ…韓暹…」

 それを見た楊奉は、迂闊にも一瞬の隙を作ってしまった。そこを李通に襲われ、

「今だ…死ねえ!」

「がはあ!」

 彼の一撃を食らった楊奉は、全身を朱に染めながら大地に叩きつけられたのであった。

「よし…あとは、残りのザコどもを処理して、呂布を追うぞ」

 こうして、その場にいた残りの山賊たちは、次々と惨殺され、皆殺しにされたのだった。だが、楊奉と韓暹たちの時間稼ぎによって、呂布たちは執拗に追いかけて来る曹操軍から逃れることに成功したのである。

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