合縁奇縁
白妙は俺を喰わなかった。
喰えなかったのだ。
地震が起こり刹那にして寺は土砂崩れに襲われた。
寺にも山にも押し潰された白妙は事切れたのだ。
四つの風鐸に封じられていた俺は怪我ひとつ負わなかった。
和尚も事切れたが、寺を離れていた弟子がまた寺を建て直した。
俺をどうにかしようともせずそのままにして。
一度、和尚にも和尚の弟子にも尋ねた事がある
四つの風鐸を破壊する事はできないのか。
鬼である俺は封じられたままの方が和尚や和尚の弟子にとっては都合がいいはず。
破壊できたとて、破壊はしないだろうと、俺を解き放つ気はないだろうと思いながら、ただ尋ねた。
不思議と、自由になりたいと思わなかった。
少なくとも、この四つの風鐸を無理矢理にでも破壊して、出て行こうとは。
破壊する事はできる。
ただ、破壊はしない。
鬼であるおまえを解き放つ事がよくないと思ったからではない。
四つの風鐸の呪具としての力が途切れる刻を待っているのだ。
よほど、
よほど、その風鐸を作った子どもは、己を赦せなかったのだろう。
子どもが己を赦せた刻こそ、その四つの風鐸の呪具としての力が途切れるはず。
それまでおまえはその四つの風鐸と共に居なさい。
合縁奇縁。
これも縁だと思い子どもを見守ってあげなさい。
寺の外回廊の天井から吊るされた無数の風鈴が熱風によって一斉に音が鳴り響く。
どこぞで大火事が起こっているらしい。
和尚の弟子が火消しに行くと息巻いていた。
ばかな人間だ。
火消しは火消しに任せればいいものの。
リンリンリンリン。
リリンリリン。
リンリリリンリーン。
不思議とけたたましさがある。
焦燥を含んだけたたましさ。
はやくはやくはやくと追い立てる。
全ての音を喰い尽くさんと無暗矢鱈に鳴り響く不揃いで不快な音色。
まるで聞いていられないと耳を手で塞ぐも、そんなものは無意味だと鼓膜を激しく揺り動かす。
こんな、
こんな音ではなかったはず。
これではまるで、
まるで。
「貴様にこのような音色を聞かせたくはないなあ」
二本角の鬼は立ち上がり、和尚の弟子の帰りを待った。
欲しいものができたのだ。
和尚の弟子ならば、この結界に物を入れる事ぐらいはできるだろう。
「俺が、」
和尚も和尚の弟子も童が童自身を赦せた刻に、四つの風鐸の呪具としての力は途切れると言ったが、二本角の鬼は違うと思った。
四つの風鐸の呪具としての力が途切れる時。
それは、
「貴様が俺を喰らった刻よ」
(2026.10.1)




