怪奇事変 ホテル
私は所謂その道の通とされるホテルマニアと呼ばれる者だ。
色々なホテルを周って感想をブログに書き記す、そんな趣味を持っている。
そんな私が体験した良くある怪談話と類似した体験を書き記そうと思っている、あの日を境に私の背後に居る“何か”についても分かることが少しでも多くあるかもしれないと言う期待を込めて……。
至って普通の社会人だが他の者とは変わって私にはホテルに泊まると言う趣味がある。
仕事場からは決して離れた距離に住んで居る訳ではないが、趣味で使うお金は生活費を圧迫していると言っても過言ではない。
そう言う意味では今の物件を手放しても良いのかもしれないと思っていることが度々頭を過る。
だが必要な日用品などを置いて行く場所もないため、仕方なく物件を借りていると言ったところだ。
個人的にはホテルでのはしごをできるのであればそうしたいと思っているのだが、それは叶わない夢のようだ。
私は基本的にどんなホテルにも泊まって記事を書くが、最近では低評価、高評価のホテルを泊まることを優先している。
なんでも界隈ではそう言ったものの方が記事を書く者としても参考基準になりやすいだとか。
逆に評価が半端なところなどはあまり興味を持たれていないようで、基本的には最低か最高かのどちからに割り振られるらしい。
知っているとは思うが評価制度ではなく記事のアクセス履歴などを事細かく見れることができるので、どれが興味を持たれているのか分かりやすい。
と言うことで、今回は高評価のホテルに泊まることとなった。
仕事の疲労も溜まっていたので個人的には高評価のホテルに泊まれることは嬉しい限りだ。
だが前もって調べて行くと不思議な体験談が書かれた記事を見つけた。
そこに書かれている内容は、夜な夜な人の声ではない呻き声が聞こえる、知らない誰かが居る夢を見た、真夜中なのにルームサービスに来たのだろうか?物音が多かったなどと言った内容だ。
「……」
矛盾している評価と感想コメントを照らし合わせて興味を惹かれてしまった私は結局、そのホテルに泊まることにした。
値段は割かし安い方で、従業員も丁寧な対応で安心できる空間を提供している。
従業員——業界ではホテリエと呼ぶが、彼等の丁寧さは確かに高評価を付けたいと思うシステムになっている。
案内された部屋の空間は綺麗に整えられており、人を受け入れる準備が整っており、部屋や服や鞄入れの、浴室から洗面所、一か所一か所をペンに書き記すが如く周って行く。
さっきも言ったが整った環境だ、文句の付けどころがない。
変な場所にドライヤーが設置されていたり、電気が違う場所などと言ったこともないため、問題なく一夜を生活できそうだ。
私の泊まったホテルは所謂ビジネスホテルと言うビジネスマンが泊まるようなホテルで、基本的にはホテルにより朝食や夕食が付いていないのが特徴とも言える。
その分、低価格で泊まれると言う利点があるのだが、今回は朝食も夕食もついて6000円と比較的に安価である。
運ばれた夕食は洋食物でどれも美味しかった。
これで6000円はとても安い方だが、予め聞いた噂話がまだ残っている。
本命はこっちの方だと思っても良い、それは夜間に始まると言う噂で、決まった番室がある訳でもない。
怪談の類ではあるが、こういう経験をしたことのない私からすれば興味を非常に惹かれる。
案外6000円と言う値段もこの怪談話が付いているからと言う値打ち価格的なものなのかもしれないと思っているところもある。
全ては睡眠の時間に分かることだと思いながら、先ほどまでの経緯を簡単にノートPCにまとめて書いておく。
——夜間——
時間帯は0時になり静まり返る……と言いたいところだが、元々静かなホテル故、物音などは一切しない。
あくまで今生活をしている部屋のみ、自分が発した音だけである。
本当にこんな良い場所で噂通りの現象が起きるのだろうか?と言う心配もあるが、睡魔の方からやってきて、安心できるだけの材料が集まったところで就寝することにした。
滑らかなシーツも心地よく直ぐに夢の世界に足を踏み入れることができた私はそこで奇妙な体験をすることとなった。
そこは私が借りてる部屋、そこに私が存在している。
部屋の様子が変わったことはなく、私は順番に扉を開いていく、先に開いたのは洗面所のある部屋だった。
洗面所は綺麗に整っており、いつもと変わらない、元々整理整頓は嫌いではなかったため、あまり乱雑になっていない。
そして続いて浴槽の扉を開けて行く。
基本的にホテルでシャワーや浴槽を使うため、此処は借りた当初と変わることなく未使用のままだったりする。
置かれたシャンプーやボディーソープなどもあるが、いわばインテリアと化している。
続いては台所周り、此処も綺麗なものだ。
ほぼ無使用、新品と変わり映えしない、お陰で光熱費はほとんど1万を超えたことがないほどだ。
いちよミニ冷蔵庫もあるが……中は空っぽとなっている、いちよ水は飲むので水道水ではない水と、製氷機が作られる程度のレベルではあるが。
そこから敷居がある扉を開けるとリビングになっており、部屋には関連資料……と言っても大部分がホテルに関する物が大半埋まっており、ベットや家電製品、インテリアに観葉植物のレプリカが飾られている程度だ。
カーテンを開ければ外が一望できるのだが……真っ暗な闇に侵食されて、外の様子を伺うことができない。
ふと気になった窓ガラス、そこに反射するように後ろに靄が掛かったように“何かが居る”。
振り返るとそこには靄状になった人型の姿があった、それはゆっくりと近づき——私の首を絞める。
グッと圧迫される感覚が伝わり苦しさにその手?である物体を剥がそうとするも、するりと抜けてしまい掴むことができない。
息苦しさが続く中、仰向け状態で、顔を仰け反らせるしかできない自分の姿が鏡に映ると、そこには私が私の首を掴み絞めている光景が映し出されていた。
私が私自身を——絞殺しようとしていたのだ。
「ッ!?」
とんでもない息苦しさに咄嗟に身体を起こすとそこはベットの上だった。
私は家に居たのでは?と言う錯覚を覚えていたが、良く考えればホテルに泊まっていたのではないかと思い出す。
コンコン。
すると思考する私の頭を遮りノック音が響く。
とても控えめなノックの音だが、時間を見ると深夜2時を回っている。
こんな真夜中に誰だと思い、ドアスコープから外の様子を伺うも、そこには誰も居なかった。
踵を返してベットに戻ろうとする私の背後からまたノックの音が聞こえてくる。
まるで私の睡眠を妨げるかのように。
「なんだ」
再度ドアスコープを除くも誰もそこには居ない。
子供の悪戯か?いや、ここはそもそもビジネスホテルだ、ビジネスマンが利用するホテルに子供が居るだろうか??
再び戻ろうとする私を引き留める様に、またドアノックが聞こえ、勢いで今度はドアを開ける。
「誰だ!!」
声を荒げてドアを開けるも、そこには誰も居なかった。
「……?」
そういえば、此処に止る前に噂話で思い出したことがある。
確か怪談の類だったが、真夜中なのにルームサービス……これが噂の話と言うやつだろうか?
不気味な感覚に追われながらも施錠だけはしっかりとしてシーツに入ろうとしたところで、閉まっていないカーテンが気になり近づく。
窓ガラスに反射して後方から白い靄のようなものが一瞬だけ見れ、即座に振り返るも、そこには誰も居なかった。
再度見るも、白い靄は、もう何処にもなかった。
そんな奇妙な体験した私は翌日、睡眠不足で起床することになり、朝食を取り記事をまとめていた。
その後、出社しまだ頭が覚束ない状態のまま仕事をしたため、その日は些細なミスをし上司に心配されてしまった。
今日は特にホテルに泊まる予定などがないため帰路につくだけのはずだが、足取りは重かった。
何故ならホテルで見た夢が正夢になるんではないだろうか?と言う不安があったからだ。
確かに奇妙な体験をしたため、まだ気持ち悪さが残っている状態と言ったところだ、不気味な意味で。
そうして部屋の前に着くと、深く深呼吸をして家に入る。
夢の時と同じように1つ1つ確かめるか?と思ったが、不気味だったのでやめた。
カーテンを開けるとそこには——ただ自分の姿と後ろにある部屋の室内が映し出され、外の世界は暗闇ではなく鮮明に映し出されていた。
ホッと安堵する私は冷蔵庫に入った水を取りに窓ガラスから踵を返すが、そこには白い靄が映し出されたことをまだ私は知らなかった。
その日を境に、私はつねに背後に何か居る様な感覚を受ける様になった。
あの噂が本当だったのかは分からないが、常に後ろからピッタリと付いているナニカが居る様な感覚は、今も続いている。
第四十六怪 背後の存在
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