甘い甘い骨
火葬された伯母の骨の味は、皆を狂わせた。
火葬で焼かれた伯母の骨は、まるで上質なチョコレートのように甘かった。
火葬場に集まった私を合わせ八人ほどしかいない親戚たちは、骨をつまみ食いした私を勿論叱った。
しかし6歳の私には何がいけないのか分からなかった。
こんなに美味しそうな香りがするのに。
だが私を叱りながらも、その香りに我慢できなくなった母や他の親戚たちは「一口だけ」と自分に言い聞かせ伯母の骨を摘み、口の中に頬張った。
そこから皆止まらなくなった。
伯母の骨はあまりにも甘く、美味し過ぎた。
私も皆も、両手で伯母の骨を掴み、次々と口の中に放り込んでいく。
美味しい、もっと食べたい、もっと欲しい、一つでも多く、誰にも渡したくない。
たちまち伯母の骨は無くなった。
骨壷に入れるものは何も無かった。
***
それから10年後、伯母の骨を食べた親戚の一人が病気で亡くなった。
焼かれたその親戚の叔父の骨もまた、伯母と同じ上質で甘い香りがした。
皆は内心喜んでいた。
あの味が忘れられなかった、またあの味を味わうことができる、と。
叔父の骨も瞬く間に食べ尽くされ、やはり骨壷は空のままだった。
その数年後、立て続けに亡くなった母や親戚も同じように食べ尽くされた。
私は恐ろしくなった。
伯母の骨を食べた人間は皆、伯母と同じように骨が甘くなるのではないのだろうか。
あの場にいなかった親戚が亡くなり焼かれた時は、そんな香りはしなかった。
じゃあ、私も。
ゾクリと寒気がした。
私も死んだら食べられてしまうのか。
あの香り、あの味は私も皆も狂わせた。
常識や理性が排除され、親であろうと、兄妹であろうと、一心不乱に食べた。
食べる人間が増えたら、骨が甘くなる人間も増えるという事だ。
そうしたらこの狂気は何処まで広がるのだろう?
抑えなければ。
終わらせなければ。
私は決意した。
伯母の骨を食べた残りの親戚たちを、殺すのだ。
焼かれないように、見つからないように。
海に沈め、山に埋める。
***
何年もかかった。
どの親戚も最期は悲壮な表情で涙を流し、私に縋りながら訴えた。
「またあの骨が食べたい、殺さないでくれ。」と。
「お前の骨を食わせろ!」と逆に私を殺そうとした人もいた。
恐ろしかった。
甘い骨の存在が広まれば、いつか骨を食べるために殺し合いが始まるだろう。
私も、あの骨の味が忘れられない。
食べたくて仕方がない。
だがその恐怖も今日で終わる。
甘い骨を持つ最後の一人の命が此処で終わる。
私は足に重りを着けて、
崖から海へ飛び込んだ。
***
しかし私は知らなかった。
伯母の骨を食べたあの日、伯母の骨を焼いた火葬場の職員の一人が骨を一欠片くすねたのだ。
甘い香りの誘惑に負け、職員はこっそり伯母の骨を食べていた。
この職員が亡くなるのは、あと五十年後。
狂気は静かに嗤っていた。
甘い甘い、骨の中で。
〈終〉




