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戦国バタフライ・エフェクト ~帰蝶(わたし)のマネジメントが強すぎて、ロジハラ魔王織田信長が「ホワイト天下人」になってしまった件~  作者: 六坂


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13/30

幕間:書き換えられぬ歴史

皆様本当にありがとうございます! まさかまさか日間と週間ランキングの末席に加わることができました!

あなたの温かい評価やブックマークが、執筆の大きな原動力になっています。


今回は記念に幕間を投稿します。

第10話の最中、歴史との符号に帰蝶が初めて背筋を凍らせる一幕です。

 鼻を突く線香の煙と、それ以上に重く立ち込める鮮血の匂い。

 萬松寺の本堂に満ちていたはずの厳かな空気は、今や見る影もなく、参列者たちの悲鳴と、誰かの口から漏れ出た得体の知れない嗚咽によって塗り潰されていた。


 私は、震える足を踏みしめて、倒れ伏した平手政秀様と、彼を抱きかかえる信長様の背中を凝視していた。  脳内では、現代のマネージャーとして培ってきた分析能力が、この凄惨な光景を、一つの「異常な現象」として分解し始めている。


(……おかしい。こんなはずじゃなかった)


 私は、自分の介入でこの歴史を書き換えてきた自負があった。

 信長様は今や礼法にも隙はなく、組織の軋轢を少なくし、歴史を速めたことで信秀様ご存命の内に稲生の戦いに勝利し、次期当主としての立場を完全に固めている。

 結果、史実にある「抹香投げ」という不祥事は起こらないと思っていた。

 信長様のうつけ振りを嘆いて死ぬはずだった政秀様にも新たな希望を与え、彼の自害という破滅を回避させた。

 私の知識で歴史は書き換えられる。そう信じていた。


 だというのに、現実はどうだ。


 信長様が投げなかった抹香は、形を変えて信行様の手で放たれ、父の位牌を汚した。

 そして、自らの腹を裂くはずだった政秀様は、今、信行様の刃に倒れ、命を落とそうとしている。


 背筋を、見たこともない巨大な影に撫でられたような寒気が走った。


 信長様の代わりに、信行様が不祥事を肩代わりした。

 自害の代わりに、殺害という形を借りて政秀様が命を落とした。

 演じる役者や、そこに至る理由がどれほど入れ替わろうとも、「抹香投げが発生し、政秀様がこの時期に死ぬ」という結果は、微塵も揺らいでいない。


(……まさか、歴史上の大事件や、人の生き死には変えられないのとでもいうの?)


 喉の奥に、苦い塊がせり上がってくる。

 原因を変え、過程を整え、万全を期したはずなのに、物語は強引に元の道筋へと合流しようとしている。

 これが、歴史という名の巨大な力なのだろうか。  修正力、あるいは強制力。


 確証はない。

 もし、この推測が正しかったら。  もし、この世界に「絶対に動かせない死」という期限が定められているのだとしたら。


 私がどれほど懸命に組織を整え、信長様という商品を磨き上げ、ホワイトな未来を提示したとしても。  一五八二年、本能寺。

 あの場所に信長様が立ち、その生涯を終えるという結果だけは、書き換えられないのではないか。


 私は彼を救いたいと願い、そして自分自身も生き残るため、全力を尽くしている。

 けれど、私が彼の首に掛かった死の縄を解くたびに、世界はもっと残酷で、逃げ道のない別の死を用意して彼を待ち構えるのではないか。


「あ……」


 叫びそうになる口を、掌で強く押さえた。

 信長様はまだ、政秀様の亡骸を抱きしめたまま動かない。


 彼がこの悲劇をどう利益に変えるかを見抜いている一方で、私は彼が背負わされた「見えない枷」の重さに、ただ独り戦慄していた。


 これは、まだ推測に過ぎない。単なる不吉な偶然が重なっただけかもしれない。 けれど、私の魂に刻まれたこのうっすらとした恐怖は、もはや消えることはなかった。


 歴史という名の冷酷な巨大な意思の前では、私が現代で培った知見も、組み上げた戦略も、無力だとするなら。


(……まるで、羽をもがれた蝶じゃない)


 巨大な力に摘ままれ、その命脈を弄ばれ、自慢の羽を毟り取られたまま、ただ予定された結末へと墜落していく。

 帰蝶(きちょう)という名を与えられ、この時代を優雅に舞おうとした私の自惚れは、今、冷たい白砂の上で無残に打ち砕かれていた。


 本堂を抜けていく秋の風が、死の匂いを運んでいく。

 私は、自分が戦っている相手が、目の前の信行様や周辺の諸大名などではなく、もっと捉えどころのない、底知れない「筋書き」そのものである可能性に、初めて気づかされていた。

お読みいただきありがとうございます!


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