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気まぐれしょうもナイト【更新不定期】  作者: すっとぼけん太
8/9

008 課長にまだ了承もらってなかった件

どーも! ――ドントコイ 上田です!


今回は、いつもの『しょうもない話』とはちょっと違う。

とある現場で俺が経験した――忘れられない『信じがたい現場の話』だ。

※これは、昔書いていたブログからのチョイシリアスな仕事ネタです。


「レイジ、ネタないんだろー!」って思ってるべ?

……いや、違うんだって。昔は仕事がハードだっただけなんだわ。


■青ざめリーダーとの出会い


うちの会社はけっこうデカい。

トラブっている他部所の大型プロジェクトの PM支援 に呼ばれたレイジは、現場の全員と初対面だった。


――そんな現場で、2週間が過ぎた。


その中に、ひときわ 蒼い顔をしたリーダー がいた。

いまにも倒れそうだったので、声をかけて話を聞いてみた。


「今年の春に結婚したんですけど……

 特休を1日ももらえていないし、夏期休暇もまったく消化してないんです(涙)」


――もう、充分秋だよな。


「じゃ、今週末から休め。

 7連休(内特休5日間)でもして、カミさん連れて新婚旅行に行ってこい。


 ただし――帰ってきたら、ベストを尽くせよ!」


「……(無言)」


「旅館の予約とか今からじゃできないか?

 心配するな。このプロジェクト100人近くいるんだから、そっちの作業は調整しとく。

 課長さんにも話を入れておくから」


「いいんですか? レイジさん、まぢで言ってますか……?」


「ああ」


「すいません、仕事以外の個人的なことまで……」


「チームメンバの休みを考えてやるのもPMの仕事だよ。

 どう見ても、君の顔は疲れすぎてるw


 数日休んで、カミさんの都合がついたら旅行でも行ってこい」


「……何度か課長にも相談はしたんですが……ありがとうございます」


レイジより年上――40を超えていそうなそのリーダーの目が、わずかに潤んだ。

……けど、あえて気づかないふりをした。


「感謝はいいよ。これもおれの責務だから。

 ――ただし今日中に、休暇の伝票だけは出してから帰れよ。

 うちは事前申請しか認められないからな」


「本当にありがとうございます!」


リーダーは、自席に戻るとすぐに伝票を書き始めた。



レイジのやり方を――。

自部所の身近な連中は分かってくれている。

だが、面識のない他部所に来ると、最初は信じてもらえないことが多い。


……ただ、実際は単なる即断の合理主義なだけなんだけどね。


その後、課長に電話をしたが、外出直帰で不在。


――あらら。

明日もまた、スリル満点だわw




■手作りストラップとシングルマザー


二十一時を過ぎ――。

そろそろ帰ろうかと顔をあげると、広いプロジェクトルームの隅の席で、

いつも遅くまで頑張っている、パートナー会社の若い女性 が目に入った。

……大丈夫かな、と前から気にはなっていた。


トイレの帰りに、自販機で缶コーヒーを1本買い、そっと彼女の机に置いた。


「いつもごくろうさん」


不意に隣へ腰を下ろした俺に、彼女はハッとしたように身体をそらす。


(いやいや、なにもしませんからw)


「これ、どーぞ」


「……あ、コーヒーは飲まないので」

そう言って、彼女は自分のマグボトルを見せた。


「いつも遅くまでがんばっているけど――身体は、大丈夫なの?」


「はい」


笑顔で答えたけれど、化粧っ気のないその顔には、やっぱり疲れがにじんでいる。


「そっかw 直接話すのは、これがはじめてだよね」


「はい」


彼女は「どうして私のところに?」とでも言いたげに、少し不思議そうな目を向けてきた。


「ちょっと、聞きたいことがあってね」


「はぁ……」


(パートナー会社のリーダは私じゃないのに)――とでも言いたげに、彼女の頭の上には「???」がいくつも浮かんでいるように見えた。


「あっ! それ、かわいいね」


場を和ませようと、俺はマグボトルについているストラップに目を留めて指をさした。


「あっ、これ――息子の手作りなんです」


その瞬間、彼女の表情がパッと明るくなった。

嬉しそうに笑顔で答えてくれた。


そこから少し話をしてみると――

あとは黙って聞いているだけで、彼女の言葉はどんどん溢れてきた。


(疲れすぎて、言葉のブレーキが壊れてしまったのかもしれない)


ストラップは、彼女の一人息子――年長さんが、同居している祖母と一緒に作ってくれたものらしい。


どうやら彼女はまだ20代。

両親に子どもを預けて夜遅くまで働いているそうだ。


――彼女ははっきり言わなかったけれど、もしかするとシングルマザーなのかもしれない。


話を聞きながら、ふと思った。


(……そこらの男よりも、ずっと重いものを背負っているんだな)


言葉が途切れたタイミングで、俺は聞きたかったことを切り出した。


「いま、現場でなにか困っていることはない?」


彼女は少し考えて――


「あの……ちょっとフロアが乾燥していて」


「ほかには?」


視線の先、彼女は壁の張り紙を指さした。


「自社から一緒に来ている中国人に、意味を聞かれたことがあって……。

 コロナがまた流行り出しているから“うがいと手洗いを徹底してください”って書いてあることを説明したんですけど……他の会社からも外国の人がいるので、きっと分からない人も多いんじゃないかと」


俺はうなずきながら、壁の張り紙を眺めた。

たしかに、言われてみればそうだ。


「ありがとう」


そう言って席を立ち、缶コーヒーを手に取ったそのとき――


「やっぱり……そのコーヒー、もらってもいいですか。父が……」


机の上に戻すと、彼女は軽く会釈して「ありがとうございます」とつぶやいた。


「遅いから、帰り道は気を付けて」





翌日――。


いつもレイジの無茶を受け止めてくれる、事務局の 鬼事務局(睨み担当の女性) に声をかけた。


「空気清浄機のリース手配と、――あと、張り紙に英語と中国語を添えてほしい」


……案の定、睨まれたw



偏見かもしれないけど――。

どこの現場でも、男性より女性の方が、ずっと細やかに気づいてくれる。

そういう意味で、やっぱり俺は、どこの現場でも助けられてばかりだ。



これは今日だけの特別な出来事じゃない。

毎日、なにかしらが起きる。


今回は、そんな“なにげない現場のひとコマ”。

……とはいえ、うちの会社は、ほんと仕事以外でも課題が多すぎるわ。


毎日お客様や上司に怒鳴られながらも――

レイジはまだやりたい放題やって、少しは笑っている。

……と、そこでふと、いやなことを思い出した。


「うわっ、忘れてた! 青ざめリーダーの課長に、長期休暇の了承をもらわなければ……(汗)」



……今回は、いつもと色合いの違う長編仕事ネタ。

最後まで読んでくれた人、いるのかなぁ……?

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