007 暇なときにやっている、ちょっといい話。
――少し昔の話。
PM(管理)をしているプロジェクトの現場でのこと。
定例ミーティングを終え、3人で居酒屋へ繰り出した。
ジョッキを傾けながら、常駐リーダーのマサが聞いてきた。
「暇なときにしてることって、なにかある?」
すると、スマホの中の愛犬写真を見せだすと、自慢話がなかなか終わらない――ゴトーが、得意げに胸を張った。
「あるよ!」
まぁ、こいつのことは誰もアテにしてなくて、みんな半分スルーモードで呑んでいると……
「これ、チョットいい話なんだけど――」
と、突然、ゴトーが体を前に乗り出してきた。
「夜中に家のトイレの便座に座ってさ。
少し前かがみになると、自分の頭の影が、足元の床にできるじゃん」
(いや、知らんがな)
「その頭の影を、両手を前に出して、頭(影)を挟むよう両側から手で挟んでさ」
(どうでもいいけど……)
「で、その影を、両手で挟むようにして……左右にゆすってみるんだ」
マサがエイヒレをほおばりながら、ぽかんと口を開けた。
「両手で……頭の影をつかむ?」
「そうそう。それで、両手を左右にゆすったときに、うまく真ん中の頭の影も、両手で掴まれているように、左右にゆすられてるように、頭を動かせれば、OK!」
マサ「OKって、……それやってんの?」
「ハマるから!絶対ハマるから!
マサさんも帰ったらやってみて!で、成功したら、最後に足元に、“ウイッシュポーズ”の影を作るんだ!」
ゴトーは拳を握り、人差し指と小指を立てて見せる。
マサ「……はぁ」
「そんで最後は――全日本プロレスの武藤社長ポーズで、こうよ!!」
呑み屋でしゃがんで、しっかり最後は、こいつの得意な『武藤ポーズ』を決めてやがった。
「……けどさ。
トイレじゃパンツ履いてないだろ。履いてから、武藤すんのか?」
いやいや、なんで俺まで真剣に聞いてんだ。
◇
翌日、会社でマサに会うと、彼はニヤニヤしながらこう言ってきた。
『レイジさんも、やりました?』
――勘弁してくれ。
……とはいったが、俺も帰って試したのはここだけの話にしておく。(笑)
そして、俺は思った。
――しょうもないものとは、人から人へと受け継がれていく『無償の希望』なのだと。