003 女子大生のこわぁ~い話が聞こえてきたぁぁぁぁ!
先週の話――。
終電ちょい前の、乗客がまばらな電車に揺られていた。
一日の疲れがぐったりと染みついて、魂だけ先に家に帰っているような気分だ。
斜め前の席に座る、女子大生ふうの三人組。
顔を赤らめてキャッキャと楽しそうで、声がデカい。
飲み帰りなのが一目瞭然だ。
「わたし、お化けとか、ぜったいダメ」
「こないだ観た映画、マジで怖かったよ」
「やめて、言わないでよ。お風呂入れなくなっちゃうから」
そこまでは、まぁ分かる。
定番のやりとりに、どこか懐かしさを感じながらぼんやりと聞いていると――
次の一言で、俺の脳内は混乱した。
「それね。校庭とか出てくるんだけど……あっちでも、ぐちょ」
「いやぁーー!」
「こっちでも、ぐちょ……」
「ちょ、やめてってばぁ!」
「そして校舎の裏でも、ぐちょ……そんで向こうでも……」
「もぉーー無理! ひとりで帰れないよー!」
……。
いやいやいや。
怖いっていうか……「ぐちょ」って、どんなシーンよ???
そんなことを考えながら、横を見た――。
空いた席の向こう、同じ並びのサラリーマンが、じっと前を見ている。
あぁ、こいつもきっと頭の中が「ぐちょ」なんだな…w
――俺も、歳をとったもんだ。
女子大生がキャーキャー騒ぐホラー話を聞いても、
もう全然怖くなくなってしまった。
ほんとは『キャー!』って、一緒に叫びたいのに、
俺の頭の中は、ただただ――
「ぐちょって、何?」
……そう考え続ける、つまらないオッサンになりさがってしまった。
まあいい――落ち込むのは良そう。
帰り道、
コンビニで肉まんを買ってかじったら、肉汁がじゅわっと溢れてきた。
「……オイ、ここでも、ぐちょかよ!」
肉まんかじりながら、よく考えてみたら、
俺の人生も、だいたい「ぐちょ」だったのかもしれない。
今日の会議で上司に言われた、
よくわからない指示もホラーだったけど……
俺の給料明細が、一番『ぐちょ』じゃねーかw