026 ネコと東京ミッドタウンと、さようなら(上)
(これはまだ、ブラックな会社が普通に“普通”だった頃の話だ)
どーも。
――久しぶりのドントコイ 上田です。
今回はまた、しょうもなさ控えめのリアル仕事ネタ。
笑いは少なめ。
でも、たぶん俺の中では忘れられない話。
――◇――
■ 出社報告メールの違和感
先々週のこと。
俺は社内で、いくつかのITプロジェクトをPM(管理)している。
朝イチで届く各現場の「出社報告メール」を流し見していたとき、
一つの名前で手が止まった。
(あれ、昨日も……)
他部署から最近異動してきた、
30歳手前の英語ペラペラの女性。
たぶん一人暮らし。
(“たぶん”の意味は、あとで分かる)
月曜――午後半休。
火曜、水曜――欠勤。
少し、心配になったので。
現場リーダーに電話を入れた。
「xxさん、大丈夫か?」
「あ、レイジさん。実は……」
話を聞くと、
飼っているネコが急変して手術。
看病していた本人が、今度は胃をやられて体調不良。
今日(水曜)は休み。
明日からはたぶん来られる、と本人は言っているらしい。。
ネコか。
正直に言えば、その瞬間、
頭のどこかでこう思った。
(原因、ネコかよ……)
けど、その言葉が出る前に、リーダーが続けた。
「本人、かなり落ち込んでて……」
■ お客様のひと言
翌朝(木曜)も休み。
また電話が鳴った。
「レイジさん、
今日も休みますとお客様に相談しました」
嫌な予感がした。
その子の業務が止まれば、当然、影響は出る。
だが返ってきた言葉は、予想外だった。
「今週いっぱい休ませてあげてください、って」
……まじか。
ブラック全盛期のこの業界で、
そんな判断をするお客様は、まずいない。
だが続きがあった。
「その分、
今月の支払いは減額になるので、
上司確認をお願いします、と……」
(派遣業務なので当然だ――)
ここで、俺の中の“黒い俺”が目を覚ます。
少しだけ間を置いて聞いた。
「お前は、リーダーとして、
売り上げが落ちることはどう思う?」
「……」
「困るよねぇ。
――会社として、困るよねぇ!」
沈黙。
「……お前、笑ってる?」
受話器の向こうで、完全に吹き出している。
「“会社として困るよねぇ”って言い方が……(笑)」
こいつ、付き合い長いから、ビビる気ゼロだな。
俺はため息をついて言った。
「一番目は、お客様。
二番目は、社員。
三番目が自分で。
そして、最後が会社だ。
――これ、上には言うなよ」
少し真面目な声で続ける。
「来週いきなり戻ってきて、
一週間分の遅延を全部背負わせたら潰れるぞ。
フォローが必要なら一人か二人回すから。
必要スキル洗い出して連絡くれ」
売上は落ちる。
工数表示は赤く光る。
それは説明が必要になる。
「また、月初にスリル満点だな」
だが。
リーダーが続けた。
「応援は大丈夫です。
現場でフォローします。
お客様にもスケジュール調整してもらいました」
「了解」
電話を切った。
■ ネコと俺
俺はネコを飼ったことがない。
むしろ、
洗車したばかりのピッカピカの愛車の屋根に、
どこかのネコが足跡を残していくたび、
(コノヤロウ……)
と本気で思っていた側の人間だ。
黒いボディに、泥の足跡と、白い毛。
あれは本当に泣ける。
でも。
でも。
ネコを「家族」って呼ぶ奴は多い。
ネコパンチが幸せだと言う奴もいる。
たぶん、俺が知らないだけで、
そこにはちゃんと“家族の時間”があるんだろうな。
■ 月曜日の電話
翌週の月曜日。
彼女は出社できたらしい。
夕方、スマホが鳴る。
「すみません……ご迷惑おかけしました」
少しかすれた声。
「大丈夫なのか?」
「はい。
現場の皆さんとお客様にフォローしていただいて……」
「違う」
「……?」
「家族の方だよ」
言った瞬間、自分でもちょっと驚いた。
一瞬、沈黙。
それから、少し明るい声。
「元気になりました。
毎日、前みたいにネコパンチもらってます」
「ネコパンチ。
みんな言うんだな、それ」
「はい?」
「いや」
思わず笑った。
彼女の声にも、少しだけ力が戻った気がした。
それで十分だった。
■ ブラックな会社の中で
うちの会社は、
上場していてデカいが、
労基署の指導も入ったし、
世間的に胸を張れる会社じゃない。
「夏休み10連休取っていいよ」
そんな夢みたいな会社の話は、
うちでは都市伝説レベル。
でも。
ネコのために一週間休める現場。
それを許してくれたお客様。
売上は少し落ちたけど、
クレームはゼロ。
彼女も現場に戻ってきたし。
ネコも元気になった。
それだけで――
まあ、いいよな。
……あ。
課長には、全部は報告してないけど。
どうせ課長は、ネコより数字の方が好きだし。
ま、いっか。
いいよな……(笑)
――◇――
これも最後まで読んでくれた人、いるのかなぁ……?
(誰か読んでくれてたら、続く、……かも?)




