02山麓風
うん。1話で終わることができませんでした。
「あしゅら男爵」になっちまった界隈のホラー。
もうちょい続きます。
山奥の廃村から左半身が男で右半身が女の生物が、歩いている。
山の麓の駐輪場には、乗ってきた原付二種のスーパーカブが停めてあり、それを目指して歩いている。
駐輪場までの道のりにおいて、少しばかりアスファルトで舗装された道は、滅多と車が通るものではないが、林業を行う軽トラックと、すれ違ってしまうと、
「ひぃぃ、バケモノッ」
という悲鳴が、軽トラの空いた窓から出てきた。
「ヤバイな身を隠そう」
右の脳味噌から同意と伝わっている。
アスファルトで舗装されているとはいえ、すぐ隣には木がそびえたっている。その木に手をかけて、足場の悪い斜面を歩く。トレッキングシューズでよかった、と、男は左半身の脳味噌で思った。
「よいしょ、こらしょ、、、、、よっよっよっ」
歩き慣れない山道の斜面にもかかわらず、右半身が素晴らしい動きをしている。
「向こうじゃ、一応、勇者やってたからね。山道も慣れてるわ」
右半身の異世界の勇者はこういう歩きにくい場所でもホイホイ移動できる。
それでもまぁ、左半身は現代人の男なので、バランスを時々くずしたりしながら、駐輪場手前までたどりついた。
「……人影は、ないな」
彼等は誰もいないのを確認し、スーパーカブの鍵をポケットから出し、リヤボックスから取り出したヘルメットをすばやく被った。
「フルフェイスでよかった」
右の脳味噌がナニコレ鎧?と疑問を発したので、防具ではあると、左の脳が返した。
彼等は、スーパーカブに跨り、キックペダルを踏みこんでエンジンをかける。
「どこに行くの?」
「とりあえず、家に帰るよ。シャワーも浴びたいし。防火水槽の水は、まぁ綺麗だったけどね」
右の脳味噌の問いに左の脳味噌が答えた。
一台のスーパーカブーが風を浴びながら山麓を下っていく。
体は服でかくれ、顔と頭はヘルメットであまりわからない。右腕と左腕の肌の色の違いなんて、そうそう気が付かれるものでもない。
「うーん。ホラー映画のゾンビが、人間のフリするのって大変なんだろうな」
「ゾンビ?動く死体のこと?」
「そうだよ。全身に包袋をまいて、人間のフリしたりするんだよ。最近じゃ、ゾンビになった女の子達が、全身特殊メイクして、アイドル活動するアニメもあったなぁ」
「アイドル?踊る死体」
左脳が右脳にイメージを伝えようとするが、上手くいかなかった。
カブは住宅街に入り、左半身の住んでいる家に到着した。
「オフクロは、まだ、夜勤から帰ってないか」
空きスペースにカブを停めて、玄関の鍵を開けて、彼等は家に入った。
「さて、風呂に入るかぁ〜」
いそいそと服を脱ぎ、彼等は一人入浴する。
「ほんとについて無いなぁ。なくなっちまった」
股間を確認した左脳が寂しそうに言ったのだった。
「右半身だけ、鏡に映すと、美少女なんだよな」
風呂の鏡に右半身を移すと、異世界の美少女勇者が映っている。
「……見てもムラムラもしないのな。もう、俺、女だし」
「なんだか、ごめんね」
右脳から左脳に謝罪が届く。
「いいんだよ。なんかもう嫌になってさ、神隠しでも何でもなってしまえぇ〜って、防火水槽に入ったの、俺だし」
「……私は、異世界人を転移させる供物になった後は、死のうって思ったりしていたわ」
「そうか、色々あるんだね」
「うん」
彼等一人は、体を洗いながら、今までのことを少し話し合った。
「ゾンビになった女の子達が、全身特殊メイクして、アイドル活動するアニメ」
佐賀、さが、サガ。あれですwwww
え?お前はSEGAだろって。そうですね。SAGAも好きです。