01水面月
さぁ真面目にホラーするぞ。(←作者の意気込み)
執筆、執筆……どうして、こうなった。(お察し、ください)
それでは、はじまりです。
満月が南からやわらかい光を注ぐ真夜中に、山奥の廃村で一人の男は、とある場所を探して歩いていた。
それは、池に映る満月に向かって飛び込むと、その者が神隠しにあうという古い古い伝説の場所だった。
「……おそらくココだろうな。別に死んでも、いい身分だし、俺は」
男は立ち止まり、探していた場所であることを確信した。昭和の中頃に、池から防火水槽として工事されたのだろう、水面の淵は人工的な直線を描いている。
「神隠し……異世界転移か?やってみてもいいかな。少しだけ確かめてみるか」
防火水槽の水は湧き水を貯め込んでいるのか清らかで、その表面は波打つことなく平らで明鏡止水という言葉が言い得て妙である。この鏡に映り、水面の満月に入ると人が消えるという伝承。
「そうだな。全身ってのもアレだし。こうしよう」
男は、何を思ったのか、自分の右半身だけを防火水槽の水面に沈めた。
夏なので全裸で水に入った為、股間のイチモツは、水面に浸かっている。
すると、水面に映る月の光が眩しくなったと思いきや、水に浸かっている右半身にとんでもない違和感を覚えた。
「ぐぉ、なんだ。こりゃ……やべぇ」
防火水槽から地面に転がり出た男は、気を失ってしまった。
しかし、気を失ったにもかかわらず、男の体は起き上がる。
「わたし?儀式が成功したの」
高い声と低い声が入り混じったような独り言を言い放つと。
「さすがに、この格好はないわね。まさか、半身だけとは思わなかったけど。大事な部分は……ちゃんと転移できたみたいで。よかった」
全身を確認したあと、体に付着した水を払い終え、防火水槽の水渕の隣にあった服を身に着ける。それは、先程、男が脱いだ服だった。
「うん。一体感がでるまで時間がかかるようね」
ぎこちなく体を動かして、男の体は、休めそうな古いベンチで横たえた。
「それじゃぁ、わたしの役割は、もういいかな」
そうして、男の体は、ベンチの上で動かなくなった。
満月は西に移動し、夜明けが近づいた。
-------------------------------
「うぅ、朝か?えと、昨日の俺は、防火水槽から出てきて、どうしたんだっけ?」
太陽はまだ出ていないが、東の空の明かりの中、男が目を覚ます。
「……なんじゃこりゃぁあああああ」
そうして、自分の体の異変に気が付いた。そして、体中を触ってみる。
右の胸に女性の乳房がある。そして、右半身全部が女性的だ。いや、女の体そのものだった。
そして、おそるおそる股間を確認すると……
「ないぞ、タマタマもサオも」
毎朝、下着を窮屈にする暴れん棒は、そこになかった。
わさわさと股間をまさぐると、毛の中に柔らかな割れ目と、敏感な突起がある。
「俺、女の子になっちまったのか?」
いそいで、防火水槽の水面に、自分の顔と体を映すと……
「左半身だけ、俺じゃねーか。右半身、誰だよ、この健康的美少女」
すると、頭の中に声がする。
「おはようございます。目覚めたんですね」
「ああ、何が起こってるんだ」
「見ての通りですよ。右半身は私です。左半身は貴方です。ああ、言葉が出にくい。脳が半分だけなので」
男も映像のイメージが困難だった。
「くっ、言葉は出るが、これは……。左脳だけだとこうなるのか。そして君は右脳だけってことか」
「右脳?左脳?ですか」
「あぁ、知らないのか」
「知りません。魔人討伐の知識ならあるのですけれども」
「魔人?討伐?異世界?」
「私からすれば、こちらが異世界です。私達は限界でしたので、異世界からの強力な人材と入れ替わる儀式を行ったところ……半身だけ入れ替わりましたね」
「……半身。ってか、俺の股間の男の象徴は?」
「あちら側ですね。よかったよかった。代わりに私の股間の女の象徴がやってきましたね」
「まぁ、いいけどよ。使う相手もいなかったしよ」
「そうですか。童貞?」
「そうだよ」
「いえ、、、いや、、、その通りなんですけれども。もう無いですし、こちらの世界のことを考えましょう」
おちょくっている訳ではなく、安堵したように、男の右半身の女は答えた。
ホラースポットの水場に行ったら、あしゅら男爵が爆誕するというホラー?
うん、ホラーだよね。タマタマ&サオも無くなっちまうし。
いや、女性化したんだから別にいいのか?
水に浸かって、異世界へ転移しちゃった右半身の話もどうぞ。
「異世界半身転移〜女勇者の右半分になっちまったよ〜」
↑よろしくお願いします↑