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三題噺もどき4

バレンタイン

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくにじゅうろく。

 



 秒針の進む音が部屋に響く。

 今日の仕事はほとんど最終確認だけのもので、キーボードを叩くことはそんなにない。

 おかげで、机の上に置かれているキャンディの消費量も少ない。

「……」

 そして、割と早めに集中が切れる。

 こういう作業は少々苦手だ……動かせるのなら手を動かしたいところだ。何かをしていないとそわそわしてしまう。

 決して仕事人間というわけでもないはずなのだが。

「……」

 そろそろどこかの木に梅が咲く頃だろうかとか、今日は何かの日だったようなとか、明日は久しぶりに公園にでも行ってみようかとか、いつになったら温かくなるんだろうかとか。

 他愛もないことを考えながら着手している時点で、集中していないのは明らかだ。

「……」

 スクロールをして、たまにキーボードを触って。

 抜けがないか、ミスがないか、最終確認を終わらせて。

 とりあえずは、特に問題はなかったので。

「……ふぅ」

 溜息をつき、丸まっていた背中を、背もたれに預ける。

 姿勢に気を付けたいところではあるが、どうにも、無意識のうちにこうなってしまっているから、どうしようもない。色々と考えると正した方がいいんだろうけど。

「ん―……」

 ついでに、軽く腕を伸ばしながら、時計を見やる。

 もうそろそろ休憩の時間にしてもいいかもしれない。

 そのあとはまぁ、散歩に行くなり読書をするなりするとしよう。今日の仕事は終わってしまった。

「……」

 そう頭の中で決定し、椅子に預けていた背中を起す。

 そして、机の上に置かれていたマグカップを手に取り、中身がまだ少し入っていたことに気づく。

 それを飲み干してから、リビングに行こうと、口に近づけたところで。

「ご主人」

「……」

 いつまでたってもノックを覚えない。

 光の漏れる廊下から姿を現したのは、見慣れた私の従者である。今日は、なんだか可愛らしいエプロンをつけている。浮かれ気味かこれは。

 心なし、聞き慣れた私を呼ぶ声も上ずっているような気がした。何かが上手くいったのか?

「そろそろ休憩しませんか」

「……あぁ、そうする」

 コップの中身を一気に飲み干し、椅子から立ち上がる。

 私の返事を聞いた時点で、アイツはすでにこちらに背を向け、リビングに向かっている。

 続いて廊下に出て、後ろを歩いていると、後ろ手に結ばれたリボンが尻尾のように揺れている。……このタイプをつけている時は、良いことがある時なんだろう。

「……」

 リビングへの扉を開けた瞬間。

 ふわ―と、甘ったるい香りが鼻腔を刺した。

 そんな可愛らしいものでもないな……暴力的なまでのぶわ―という感じだ。この匂いだけで胸焼けを起してもおかしくない。

「……なにつくったんだ」

 その答えは、アイツの声を聞くまでもなく机の上に置かれていた。

 これまたいつの間に買ったのか、チョコレートの滝が流れているものが机の上に置かれていた。周りに置かれていた皿の上には、フルーツとスポンジが、串に刺されて置いてあった。

「チョコレートフォンデュです」

「あぁ、そのようだな」

 あと、これもありますよ。

 そう言ってキッチンから持ってきたのは、丸い形をしたケーキだった。フォンダンショコラだったか?よく見ればまだ、数種類程キッチンの上にスイーツが並んでいた。チョコレートケーキにブラウニー、タルトっぽいもの、チョコを冷やし固めたようなシンプルなモノ……。

 どれも、茶色で甘ったるい匂いがしていた。これ全部チョコレート菓子か?

「バレンタインですからね」

「……あぁ、そうだな」

 そういえばそうだった。今日は、バレンタインというやつだった。

 人々が、友達や恋人にチョコレートをあげると言うやつだ。そこで告白というのをする人も居るらしい。ホントかどうかは知らない。……生憎、運命の相手というのが、一体全体どんなものなのか分かりはしないのだが、そういうモノに近づくための手段と言ったところか。

 少なくとも、こんなに大量にチョコレート菓子を作っていいと言う日ではない。

「……コーヒーを淹れよう」

「お湯は沸かしてありますよ」

 胸焼けがすることはないだろうが。

 仕事を終わらせておいて正解だった。

 ……これは、豪華な休憩時間になりそうだ。






「しかしよくもまぁ、こんなに作ったな」

「興が乗ってしまって」

「……いくらかかった?」

「これも食べてみてください」

「話を聞け」

「これとかうまくいったんですよ」











 お題:キャンディ・梅・運命


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