45話 業炎
ヒーラさんからの治癒が終わり、僕は立ち上がる。
「大丈夫です。僕も行ってきます」
きっと、ゴーエンには余計な世話だと怒られるだろうけど、僕もヒーラさんと約束したんだ。
あれから三十分くらい経ってしまった。
神の力と光魔法の移動なら、既に島に着いて戦闘が始まっている頃だろうか……。ゴーエンが強いとしても、ルークさんの光魔法はやはり特殊だし、きっと苦戦を強いられるはず。
急がないとな……。
-仙術魔法・神威-
喧嘩祭りの記憶はよく覚えている。僕は、観客席まで神威で空間移動をした。
どんな激しい戦闘が行われているんだろう……。
「なっ……!」
しかし、僕の目に映し出されたのは、予想を遥かに超えた光景が広がっていた。
「 ゴーエン!! 」
ゴーエンは既に膝を着き、ルークさんは無傷でゴーエンに手を翳し、既に王手を掛けていた。
-風神魔法・ウィンドストーム-
僕は両手を広げ、ゴーエンの前に立った。
「やあ、ヤマトくん。炎の神とはタイマンの約束をしたんだけど、邪魔盾は無粋じゃないかな?」
「なんとでも言ってください。僕も約束したんです……」
ルークさんは、翳していた手をそっと下ろした。
「前に言ったね。俺たちが次に会う時は、戦う時だと……」
そう……。雷龍島のアジトで、この戦いがあることを教えてくれたのはルークさんだった。
そして、次こそ本当に、戦う時なのだと……。
「覚悟の上です……!」
いつもの、お調子者の笑みは消えていた。
そして、ルークさんは徐に手を上げる。
「水龍 アーク。出撃だ……」
そう言うと、ルークさんの背後の海水から、飛び魚と蛇を足したような長い龍が現れた。
龍の力を使わずにゴーエンを圧倒してたのか……。
「ヤマトくん相手だと流石に骨が折れそうだからね。水龍の力も使わせてもらう。遊びじゃないからね」
そこに、ブルブルとゴーエンは立ち上がる。
「気に食わないが、奴の言う通りだぜ……ヤマト……。私のことはいいから、他の奴を助けに行け……」
「でも、ゴーエン……こんなボロボロになって……」
「炎神……魔法……シャイニング……ブロウ!!」
フラフラな中で炎魔力のエネルギーを溜め込み、僕の横を走って熱拳を繰り出した。
威力は本当に凄い……島が震えている……のに……。
「だから、無駄なんだって……」
そんな破壊力抜群の炎の拳を、ルークさんは片手で受け止めた。
「そんな……今の攻撃を片手で……?」
「これが俺の【光龍魔法・アゲート】だ。全ての魔法を光で掻き消すことができる。そして、同時にヴォルフの使用していた【水魔法・シースルー】も発動し、常時炎の神から魔力を吸い上げている。それに炎の神は、守護神ともう一人、君の仲間に自分の魔法を付与しているせいで、既に弱体化している。それで俺と真っ向勝負して勝つなんて、土台無理だったんだよ」
「どうしてそんな……無茶なこと……」
ゴーエンは相手の力量が分かっているはずだ。
勝てないことだって……。
「フハハ……いいのさ。私は、所詮喧嘩しか脳のない形ばかりの神だったからね……。最後くらいは、アイツらの役に立ちたいって思っちまったのさ……」
そうだ……。七神と会ってきてヒシヒシと感じる願い。
" 自分の膨大な魔法では民を守れない "
ゴーエンは自分一人ででも、光魔法を扱うルークさんを足止めさせることで、負担を減らしたかったんだ。
「そう言うことだよ、ヤマトくん。俺は争いは好きじゃないんだ。他の戦地へ行ってくれ。ここは炎の神の気合いに免じて、足止めされたことにしておくよ」
それでも僕は、ゴーエンの前に出た。
「それじゃあ、ダメなんです……!」
「私のことはいいんだ! さっさと……!」
僕は、倒れ込むゴーエンの頭をそっと撫でた。
「それじゃダメなんだ……! ゴーエン……!」
今の僕なら、きっとゴーエンとも共鳴もできるはずだ。意識をそっと、ゴーエンの魔力へと向ける。
*
「おいおい……。日本みたいに地形は作ってみたけど、やっぱ太陽が出てないと南西も寒いな……」
この光景は……。バベルは夜空の下、荒野で震えていた。
「ミカエル! 燃える物を集めよう! 炎魔法だ!」
「仕方ないですね……」
アゲルは、バベルの指示通りに燃えそうな物を集め始め、一箇所に集めた。
「よし! 炎魔法・灼羅!」
バベルの右手から放たれた火種は、一瞬にしてボワっと燃え上がった。
「焚き火みたいでいいな〜。日本を思い出すよ」
「そんなことはいいですから、早く進めましょう。南西にはどんな神を創るんですか?」
暫く「う〜ん……」と考え込むバベル。
「あ、炎があるじゃん! やっぱ南の大陸はあったかくないとだよな! 炎の神を創ろう!」
「炎から創るんですか!? 神の性格は物の性質に反映されます。炎から創れば……どんな性格の神になるか……」
「いいじゃんか! そう言う神がいたって!」
-光魔法・魂投廻生-
そして、燃え盛る炎に向けて魔法を放った。炎は消え、徐々に人の形を帯び、ゴーエンの姿へと変貌していった。
「おお〜! 炎から女神だ! かっこいい!」
「あっと……ここは……」
困惑気味に目を輝かせるバベルを見遣るゴーエン。
「僕が君を生み出したんだ。【業炎】の加護を付与しているから、君には炎魔法が使えるはずだ!」
そして、ヒーラさんの時と同じ話をする。
ゴーエンの作りたいと願った国は、『国民が愉快に楽しめる国』と答えていた。ゴーエンは名前はに興味がなく、付与された【業炎】の加護をそのまま名前にしていた。二人は、ニッシッシ、と笑い合っていた。
やっぱりそうだ……。喧嘩だけが取り柄なんかじゃない……。強さだけが取り柄なんかじゃないんだよ……。
*
「ピギャアアアアアアア!!」
水龍の咆哮が、僕を現実世界へと巻き戻す。
「どうしてもそこを退く気はないんだね。ヤマトくん、俺ももう覚悟を決めるよ」
そして、ルークさんは手を広げた。
「水龍 アーク。強制発動【水魔法・ドリュースト】」
水龍の目は赤く光り、口から膨大な水のエネルギーが溜まっていく。そして、大砲のような水撃が放たれる。
-炎神魔法・ラグマゴア-
僕はそれを、
「炎神魔法……。魔法を蒸発させるんだったね。でも、俺のシースルーでヤマトくんの魔力もかなり吸っている。水龍の攻撃が防げても、追撃までは防げないよな!!」
そして、水龍の水撃の奥から更に、手を伸ばす。
「水龍魔法・アークルイン!」
ルークさんの手からは、見えない水撃が放たれる。
「共鳴をすると、神の加護の魔法は進化するらしいです」
僕は水龍の水撃を、跳ね返した。
「蒸発じゃない……カウンター!?」
そして、ルークさんの水撃も掻き消した。その勢いのまま、僕はルークさんの眼前に迫る。
「だから……魔法攻撃は俺には通じないんだよ!!」
そして、僕の振り上げた拳を防御する姿勢を取る。
「光龍魔法・アゲート!!」
-炎神魔法・ラグマゴア × 岩神魔法・ヒルブレイク-
「なん……だっ……て……」
僕はルークさんの掻き消す光を、溶かした。
「この業炎は蒸発じゃない。溶解させているんです。光だろうと、手を溶解させれば魔法も消える」
そして、即座にヒルブレイクでルークさんの腕を回復した。
「次は、回復はさせないですよ。ルークさん」
すると、ルークさんはふわっと倒れ込んだ。
「フハハっ! 俺の負けだ!」
ルークさんは、悔しい顔よりも、清々しい顔を浮かべていた。
「ゴーエン」
「ヤマト……すまなかった……」
僕は、同時にゴーエンも回復をさせた。
「一つだけ間違っています。あなたが犠牲になってしまったら、楽園の国は誰も楽しめないんですよ」
そう言うと、ゴーエンは微笑みながら涙を溢した。
◆VS 商売人 ルーク:光・水(手を溶かされ、瞬時に回復。魔法を封じられて敗北)
ヤマト:風・炎・水・岩・雷・神威/光剣・グローブ
ゴーエン(炎神):炎
アーク:水龍




