４３話 使命
僕は、何度も【風神魔法・ウィンドストーム】でフーリンへと攻撃を仕掛けたのだが……。
「遅い！ 遅いよ、異郷者！ アハハハハ！」
全く当たる気配がない……。
なんとか、雷の神守護神 ブルーノさんの風魔法の支援があり、綱渡りのような戦いをしているが、攻撃が当たらないんじゃどんな魔法を仕向けても意味がない。
それに、フーリンは速度だけではなかった。
「岩魔法・ゴーレムダン！！」
僕の攻撃を交わしながら、別の人たちに向けて攻撃をする余裕すら見せている。
「いや〜、僕の風魔法、防御が主体だったから、岩魔法が攻撃魔法で助かったよ〜！」
そして、腹からゴーレムの腕のような物を飛ばして、破壊力抜群な岩魔法を繰り出していた。水防御魔法を駆使するバルトスさんも徐々に息切れが始まり、苦い顔を浮かべていた。
早々になんとかしなきゃいけないのに……！
「ヤマトくん！ 挟み撃ちだ！ 僕も風魔法ならなんとか彼に追い付けるはずだ！ 岩魔法を使わせる隙さえ与えなければ次第に魔力消費するはずだ！ 数では圧倒的にこちらが優勢なんだ！ 行こう！」
そうして、ブルーノさんはフーリンの後方に回る。
「さあ、行くぞ！！」
僕はブルーノさんの合図に合わせ、ウィンドストームでフーリンの眼前に迫った。
「なん……だと……！？」
フーリンに前後からの攻撃。しかし、フーリンの身体には暴風が張り巡らされ、僕たちの攻撃が届くことはなかった。
「風の鎧……？ こんなに分厚いなんて……！」
「言っただろ？ 僕の風魔法は防御魔法だ。風龍の力もその身に宿してるから、君たちの攻撃なんざ屁でもない」
「魔法なら、ラグマゴアで蒸発させるだけだ！！」
――――！？
なんでだ……？ ラグマゴアは魔法を全部蒸発させる魔法なのに……。
フーリンの暴風壁は掻き消せなかった。考えてみれば、雷の神 守護神の雷神魔法が、ホクトやフーリンに効かないのもおかしい。
なんだ……何が条件なんだ……。
「困惑しているみたいだね。こんなに神と守護神がいるってのに、僕一人にも勝てないなんてさ」
フーリンは余裕そうな顔で僕を見遣った。
「君はまだ覚醒の途中なんだ。共鳴だってほとんどの神と出来ていない。僕は龍族の血を引く者。特別な人間なんだ。特別な人間にちゃちな攻撃は効かない」
ちゃちな攻撃って……神の加護を受けた魔法だぞ！？ これより上位の魔法なんて……七神の魔法くらいしか想像付かない……。
「たかが神の力のほんの一部を与えられたに過ぎない君たちは、龍そのものと化している僕に、束になったところで敵わないんだよ！」
バゴォ！！
そう言いながら、ブルーノさんの腕を折った。
「ぐあああ！！」
「ブルーノさん！！ ヒーラさん！ すぐに治癒を！」
しかし、風の神 ヒーラさんは何も出来なかった。
「ダメなんです……。力が……与えられません……」
「ど、どうして……！？」
ブルーノさんは、そのままバルトスさんの水球の中に閉じ込められ、戦闘から離脱した。
「彼は自身の国を出てしまっています。七神や、その加護を受けた守護神が国の外へ出てしまうと、力が弱まるどころか、他の神からの力も与えられないのです……」
前にアゲルが話してた、禁忌ってやつか……。ラーチは普通に外に出て、強い力をむき出しにしてたから全然頭に入ってなかった……。国外に出るってそんなに制限が掛かるのか……。
「バルトスの水球の中であれば、私の加護を受けているので、少しずつでも回復が望めます……」
それじゃあこの戦いで、もうブルーノさんの復帰は望めない……。二属性二龍加護を受けた……いや、フーリンの場合は風龍そのものを取り込んでいた。こんなにも成す術がなくなってしまうのか……！
「ま、七神以外は殺すなって言われてるし、そろそろ痛ぶるのも止めて、風神でも殺しちゃおうか」
そう言うと、フーリンはヒーラさんを睨んだ。
そして、勢い良くヒーラさんに突撃する。
「風の神……終わりだ……！」
バコン！！
フーリンの拳は、岩によって封じられた。
「あの魔法は……！！」
そして、バルトスさんもニヤッと笑った。
「ナメて貰っちゃ困るぜ、龍族……。こっちには、守護神に並ぶ荒野を守る番人がいるもんでね……」
「ランガンさん！！」
そこに現れたのは、荒野地帯を守る、ランガンさんを先頭にした自然の国の兵士たちだった。緑の隊服と茶色の隊服が混ざり、列を作っていた。
「お前たち！ 我らの神に指一本触れさせないぞ！」
オー！！ と、大歓声が荒野に轟く。フーリンは露骨に怪訝そうな顔を浮かべさせた。
「チッ……ナメてんのはどっちだよ……。小さい蟻がいくら群がったところで何も変わんないんだよ！！」
そして、ランガンさんの岩魔法を破壊すると、再びヒーラさんに牙を向けた。
「バルトス！！」
「分かってるよ！！ 水魔法・スプラッシュ！！」
バルトスさんの水の防壁は、ヒーラさんの全身を上空まで覆った。
あの魔法は、内乱が起きた際に、森林街へ行かせないようにした巨大な防壁の魔法か！
ランガンさんたちは、その隙に全員でフーリンに向かって武器を構えて突撃した。しかし当然の如く、ただの時間稼ぎに過ぎず、フーリンは一人、また一人と気絶させ、バルトスさんも一人、また一人と水球の安置内へと送って行った。
そして、ランガンさんも……。
「クソっ……！ バケモンがぁ！！」
フーリンは憤りを隠そうともせず、ランガンさんを気絶させ、全ての兵士を鎮圧した。
「こっちはさぁ……！ 七神以外殺すなって制限でストレスなんだからさぁ……！ 大人しくしてろよ……！」
そう言うと、ガシガシと頭を掻き毟った。そして、怒りに任せてバルトスさんの水の防壁も難なくぶち破ってしまった。
「もう、邪魔しないでよ……。ムカつくなァ！！」
そして、ヒーラさんの前で右手を大きく振り上げる。
ヒーラさんは【疾風】の加護を受けているから逃げられるはずだが……時間稼ぎにしかならないことが目に見えて分かっているのだろう……。そして、グレイスの因縁もあり、自分の国民を置き去りに逃げ出すことなんて出来ないんだ……。
「死ね……」
ドスっ！
「カハッ……！」
「ッ……！！」
「は……？」
フーリンが切り裂いたのは、ヒーラさんではなく、その場に咄嗟に現れた、守護神 バルトスさんの胸部だった。
「バルトス……どうして……？」
「何言ってるんですか……ヒーラ様……。神を護るのは守護神の使命……貴女が生きていれば、次の守護神だって生み出して、また自然の国の再興が叶う……」
ヒーラさんは必死に治癒魔法を使うが、フーリンの手刀を受けたバルトスさんの胸部からは血が溢れ出す。
「この国は一度、森林街と荒野地帯で二分割され、内乱にまで発展してしまった……。それが今こうして、ようやく一つの国になろうとしている……。絶やしたらいけないんです……。貴女が自然の国を作りたかったのは、草木の生えない荒野地帯も、木々に満ちた自然街も、どちらも同じ自然であると愛していたからでしょう……！」
そして、そのままバタリと倒れ込んだ。ヒーラさんは、顔を覆って泣きじゃくってしまった。
「また邪魔かよ……時間稼ぎにしか過ぎないのに……」
そう溢し、抵抗もないヒーラーさんに手を向ける。
「だから神ってのは嫌いなんだよ……！！」
「仙術魔法・神威！！」
「は！？」
僕はヒーラさんに触れ、神威で楽園の国に飛んだ。バルトスさんが命懸けで時間稼ぎをしてくれていなければ、きっと間に合わなかっただろう。
フーリンは『神以外殺すな』と制限が掛けられている。ヒーラさんだけでも逃がせられれば、ひとまず勝利だ。
そして、僕はヒーラさんを楽園の国へ送った。
◆VS 衛兵 フーリン：風・岩（風龍の力も体内に入っている）
ヤマト：風・炎・水・岩・雷・神威／光剣・グローブ
ヒーラ（風神）：風 （楽園の国へ逃亡）
バルトス（風の守護神）：水 （戦闘不能）
ブルーノ（雷の守護神）：風 （戦闘不能）
ガドラ：フーリンにより殺された岩の龍族の一味。 （フーリンにより死亡）
ホクト：ヤマトの頼みにより楽園の国へ向かう。
リューダ：風龍。フーリン曰く、フーリンと友達。
