42話 衛兵
僕とブルーノさんが、風龍の上に飛び降りると、そこには今まで見たことのない二人組がいた。
一人は細身の少年と、一人は鎧に身を包んだガタイのいい男の人だった。そして、鎧を着た男は僕たちの前に出る。
「我が名はガドラ! 異郷者は貴様だな!」
野太い声で僕たちに声を上げる。
「岩龍の加護を受け、鉄壁の守りを得た我は、衛兵の称号を冠する者! いざ、尋常に参らん……!」
すると、衛兵 ガドラと名乗った男の両腕は、ゴーレムの腕のように太く巨大化した。
「それじゃあガドラさん、異郷者の相手お願いします。そいつに手間取ってたら、作戦より早く来た意味なくなっちゃいますから」
そう言うと、後ろに控えていた細身の男は、単身で自然の国へと飛び降りて行ってしまった。
「まずい……! 止めないと……!」
「ヤマトくん、僕が行こう……!」
そして、ブルーノさんは追い掛けるように彼の後を追い、飛び降りて行ってしまった。
「二対一でも余裕だったのだがな。もっと不利になってしまったぞ。どうする? 異郷者よ」
悠々な態度を見せる衛兵 ガドラ。
「あなたを負かして……すぐに追い掛けます……!」
-風神魔法・ウィンドストーム-
僕は、衛兵 ガドラの背後に回り込む。
しかし、
「聞いていた通り、単調な攻撃だ……」
すると、背後を見向きもせずに、背中から岩がボコボコと出現し、僕の腹を思い切り押し付けた。
「グフっ……!」
そして、僕は一度後方に退く。
やっぱり龍族の一味は強い……。ヴォルフのように、加護を受けて直ぐの状態なら魔法を上手く扱えないかも知れない。そこで戦闘経験の差が生まれるけど、この人は衛兵の名を冠している人だ……。
カエンが龍長、ルークさんは……商人……? ドレイクは博士、ガンマが研究者だったはず……。なら、衛兵であるこの人は、龍族の一味の中で最も防衛に優れた称号を受けていることになる。
でも、勝機はある……。以前のショーに居なかった二人組が攻めてきていると言うことは、一人一属性のままのはずだ。
余裕の表れなのか、僕の情報を仕入れているのか分からないが、ガドラから攻めては来ない様子だった。
なら……試してみるか……。
「僕の攻撃は単調ですか……」
「ああ。聞いていた通りとても単調だ。目で追えなくとも、絶対防御の前で貴様に成す術はない」
僕は、光剣を構えて向き合う。
「それでは今から、一直線に攻撃をします。あなたは全力で防いでください。真ん中にしか行きません」
そして僕は、光剣を顔の横に構える。
「行きます……!」
-風神魔法・ウィンドストーム × 炎神魔法・ラグマゴア-
「オラァ!!」
「ふんっ、ガキの浅知恵だな。そう宣言することで、本当に前から攻めるのか、背後を攻めるのか、惑わせる作戦なのだろうが……」
ヤバい……読まれてる……!!
「衛兵を舐めるな……!!」
すると、ガドラは前後に分厚い岩を張った。
ラグマゴアなら壊せるか……? 厚すぎる……けど、ウィンドストームのスピードも乗ってる……。賭けるしかない……!!
その瞬間、
「ガアアッ!!」
「君…………!」
僕が岩魔法に追突する瞬間、狙ったかのように、剣豪 ホクトは上空からガドラの脳天の鎧を割った。
「ズルいぞ……。貴様……ら……」
そして、そのままガドラは気絶してしまった。
「ホクト……なんでここに……」
「あなたが死にたくないと言ったから……。あのまま岩龍の加護を受けた岩魔法に追突していたら、炎神魔法の効果が途中で切れ、あなたは気絶させられていた」
色々と言及したいことはあるが……。
「飛び降りて行った二人を早く追いかけなきゃ!!」
「この人はどうする? 殺す?」
僕は少し悩んだが、決めた。
「殺しちゃダメだ。連れて行って、バルトスさんの水魔法で拘束してもらう」
「分かった」
そう言うと、大柄な男なのに、ホクトは片腕でヒョイと持ち上げてしまった。
マジかよ……。
僕たちは大きな大樹に飛び降りる。やはり、龍は操られているのか、上空で滞在したきり全く動く気配はなかった。
「あんなに活気に溢れていた自然街も……龍の出現に慌てたのか……。誰もいないな……」
森林街の店は全て閉められ、閑散としていた。
戦闘の音もしない……荒野地帯の方か……?
僕たちは足早に荒野地帯へ向かうと、戦闘らしき音がドンドンと鳴り響いてきた。
「ヤマトくん! 倒したんだね!」
ブルーノさんは、僕に気付くと会釈を送った。やはり、一属性しか加護を受けていない相手に負かされるほど、守護神だって弱くはない。
風には風を……アゲルの戦略は間違ってはいなかった。
しかし、風の神 ヒーラや、守護神 バルトスさん、荒野地帯 隊長 ランガンさんの姿はなかった。
でも、三対一……ここでの戦いを早々に……。
「アハハハッ! やっぱ負けちゃったね!」
すると、少年は笑い出した。
「三対一だぞ! お前に勝ち目なんて……」
「おいで、リューダ……」
少年が合図を送ると、森林街の上空で全く動かなかった風龍は突然咆哮を発し、こちらへと向かって来た。風龍は少年の側に近付くと、顔を擦り付ける。
「僕とリューダは友達なんだ。人間如きが……僕たちに勝てるとでも思っているのかな……?」
すると、少年は風龍の頭を撫でた。
「さあ、おいで……」
そして、風龍は少年の身体に吸い込まれるように消えて行ってしまった。
「何が……起きているんだ……?」
ニヤリと少年は僕たちを見遣る。
「そう言えば、ソイツは自分のことを衛兵だとか呼ばれて喜んでいたみたいだけど、本当の名は散兵だよ。君が一瞬で退けたヴォルフと同じさ……」
「あの鉄壁が……ヴォルフと同じ……?」
「そう、つまりは……」
すると、少年は姿を消した。
「使い捨ての器に過ぎないってことだよ……!!」
気付いたら、僕の背後でガドラを抱えていた。
そして、
グチャッ――――――
鎧を腕で貫通させ、心臓を取り出した。
「オエッ……。何してるんだ、お前……」
ニヤニヤと視線を向けると、ガドラの心臓をそのまま口の中に入れ、グチャグチャと噛んで飲み込んだ。
有り得ない……どんな神経してるんだ……。
「僕の名は衛兵 フーリン。風龍の加護を受け、今この場において、岩龍の加護を得た」
他の人たちと同じ……二属性持ちになったのか……? 心臓を食べただけだぞ……?
「困惑した顔を浮かべているね、異郷者くん。僕の風龍魔法はイートフライ。捕食・融合・吸収したものを、僕自身の力に変える力。ショーに参加しなかったのも、今日この人に先んじて強襲を掛けたのも、この力をカエンさんに認めてもらったからなんだよ……!!」
目で追えない程の速度に、二属性持ち……。かなり厄介な相手だ……。
「簡単には好きにさせません」
フーリンの背後を取り、現れたのは、
「風の神 ヒーラに、守護神 バルトスさん!!」
「疾風の加護を受けた私の速度には敵いません。グレイスの仇も取らせて頂きます」
「わあ、粘着質だな〜。あの兵士のことまだ気にしてるなんてね。まあ、探す手間が省けたよ」
そうか……。グレイスさんを殺したのは……フーリン……!!
「遅くなってすまなかったね、ヤマトくん。急なことだったから、今、ランガンに他の兵士たちの出動準備をさせているところだ。先に僕たちが駆け付けに来た」
バルトスさんは、そう言いながら僕たちに並ぶ。
風の神に、風の神 守護神、雷の神 守護神。これだけの戦力があれば……勝てる……!
「ホクト……頼みがあるんだけど、いいかな……」
ホクトは、僕の目を見て静かに頷いた。
「カナンが心配なんだ……。ここは一先ずなんとかなりそうだから、カナンの元へ向かって欲しいんだけど……」
神威でかなり魔力消費してしまうが、やむ追えない。
「分かった」
そう言うと、ホクトは直様走って向かってしまった。
「ちょっと待って! 海だってあるんだし……僕が空間移動で連れて行くから……!」
「必要ない」
そう言うと、ホクトは宙に浮いた。
なんなんだ……。本当に、アイツは……。
そして、一頻りの臨戦体制が整う。バルトスさんは一歩、僕らより後方に退いた。
「守備は任せてくれ! ヤマトくんは牽制を!!」
「私がいれば治癒もすぐに出来ます! 任せ切りになって申し訳ありませんが、ヤマトさん、お願いします!」
直ぐにフーリンを退けて、僕も向かうんだ……!
「任せてください……!!」
そして、僕はフーリンに光剣を向けた。
◆VS 衛兵 フーリン:風・岩(風龍の力も体内に入っている)
ヤマト:風・炎・水・岩・雷・神威/光剣・グローブ
ヒーラ(風神):風
バルトス(風の守護神):水
ブルーノ(雷の守護神):風
ガドラ:フーリンにより殺された岩の龍族の一味。
ホクト:ヤマトの頼みにより楽園の国へ向かう。
リューダ:風龍。フーリン曰く、フーリンと友達。




