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リメイク  作者: 春木
第六章 正義の国編
45/78

40話 正義執行

 ルビーは、動揺しながらも笑みを浮かべさせた。


「やる気になったみたいだな……クイナ……!」

「この国はもう、正義の国なんかじゃない。本当に正義であると誇れる神に戻って欲しいから……!」


 そしてルビーは武器を上げ、声を上げた。


「海洋隊全兵士に告ぐ! 今この時を持って、私たち海洋隊以外の全ての兵士たちを反乱者とし、正義の名の下に全員捕えろ!!」


 その合図と共に、バラバラに兵士たちは武器を構えて突撃しに行った。


「どうする!! 異郷者……剣豪……!! これを放ってでも、お前達は神の元に行くか……!!」


 クソっ……! 確かにこんな状況、見過ごせるわけない……!


「大丈夫だよ、ヤマトくん」

「ヴェンドさん……!」

「剣豪さんが色々荒らしてくれている間に、縄はクイナちゃんに解いてもらった」


 少し後退するが、まだルビーは声を上げる。


「お、お前が私を止めたって、コイツらはここに留まるしかないんだ! こんな人数が乱闘して……。って、あれ……?」


 しかし、乱闘は全く起きていなかった。


()()()()()()()()()()()()()分かってるかい?」


 中央にただ一人、立っていたのは、


()()()()……!」


 守護神 ブルーノさんだった。


「僕の雷神の加護の魔法は、剣豪さんには効かなかったみたいだけど、()()()()()()()()()()()()んだ」


 そして、全兵士はその場に気絶させられていた。


「僕の魔法はただの気絶に過ぎない。暫くしたら起き上がり、再び乱戦の火蓋が上がってしまうだろう……。ロズ……雷の神を頼んだよ……。ヤマトくん」


 いつになく真剣な顔を浮かべ、僕をまっすぐ見遣る。


「そう言うことだから、俺の大切な妹の足止めは、俺一人に任せておいてくれ」


 ニッコリと笑みを浮かべ、ルビーに近寄った。ルビーは既に諦めた姿を見せていた。


「剣豪さん……。雷の神の元へ、連れて行ってください……!」


 僕が言葉を掛けた瞬間、目を合わせたと同時に、


 ブオッ!!


「うわぁ!!!」


 僕の腕を掴み、遥か上空に飛び上がり、五重の塔の最上階の部屋をぶち壊して中へと入った。


「ちょちょちょちょ!! えぇ!? 連れてってって行ったけど、行き方があるでしょ!?」

「だって、この行き方が一番早い」


 そこには、誰にされたのか、鋼の岩盤に両手両足、そして首までも固く拘束された大柄の男がいた。


「あなたが……雷の神、ロズさんですね……」


 すると、大柄の男は笑う。


「ふっ……随分と乱暴な侵入だな、ホクト……。異郷者を殺すんじゃなかったのか……?」

「死にたくないって言った。だから殺さない」

「そうか……お前は単純でいいな……」


 この乱戦を引き起こした張本人である雷の神は、大柄な男なのに、どこからも恐怖心は感じなかった。

 僕は近付き、ラグマの熱で拘束を全て解いた。


「これは、()()()()()()ですか?」

「そうだ……。異郷者にはなんでも分かるのか……?」

「違いますよ。あなたが、悲しい顔をしているから……」


 雷の神ロズさんは、全く動きはしなかった。


「ロズさんにとって、()()とはなんですか?」


 ロズさんは何も答えなかった。


「ふふ、ここまで来られた褒美だ。雷の加護を授ける」


 諦めた様な顔で、僕の腕に手を当てる。このビリビリ流れるエネルギーは、間違いない。雷神魔法のエネルギーだ。

 そして、ふわっと意識が飛ぶ。

 この感覚は……カズハさんの時と同じ…………。


   *


 目の前には、笑顔のロズさんがいた。


「なあなあ、バベル! 俺も岩の神みたいにかっこいい名前にしてくれよ!」

「うーん、君は臆病で優しい男だからなあ。固苦しい名前より綺麗な名前を付けたかったんだが……」


 白髪の男、前に見たあの男が唯一神 バベル。バベルは、赤い薔薇の花を持っていた。


()()()……これじゃあ気に食わないか?」

「女みたいで嫌だ!」

「じゃあローズを少し変えて、ロズなんかどうだ? ゴツくてかっこいい名前じゃないか?」

「まあそれなら……かっこいい? かも……?」


 ロズさんは大柄な男だが、バベルと話している時は純真無垢で、笑顔を絶やす様子は見られない。


「君は雷の神になる。雷は尖ってしまうイメージだから敢えて臆病な君にしてみたんだけど、君は考え過ぎてしまうから、()()()()()()()()()()()()()()心配だ」

「大丈夫だ、バベル! 俺は正義の国を作って、人に優しく、悪を許さない国にするんだ!」

「そう言うところが危ういんだよ」


 そう言うと、バベルに鼻先を小突かれていた。


「君は優しい男だ。()()()()()()()()()()()()()()()()。自分にも優しく出来る人を指すんだ。君にはそう言う神になって欲しい。一途……それが()()()()()()()()()()だからね」


 その言葉を幕切れに、僕の視界は薄れた。


   *

 

「優しくあるべきは……他人だけじゃなく、自分にも優しく出来る人を指す……」


 僕は、バベルの言っていたことを復唱していた。素直に、その通りだと思ったからだ。


「どうして……()()()()を知っているんだ……?」


 やはり……。今見ていたのはロズさんの記憶。


「僕は、七神から加護を渡される時、少しだけ記憶を覗けるみたいです。最初は出来なかったんですけど……」


 すると、ロズさんはボロボロと泣き出した。


「バベル……正義ってどうすればいいんだ……?」


 この人は本当に優しくて、危うい人なんだ。僕の身体は自然と動いていた――――。


()()()()()()()してあげてください」


 そうして座り込むロズさんの肩に手を置いた。


「君の手は……バベルに似ている……」

「どうやらバベルさんとは同じ星の出身らしいので、似ているのかも知れませんね」


 僕はロズさんの手を取り、立ち上がる。


「さあ、ブルーノさんがずっと待っています。あなたが授けた力で、今もこの国を守っています。今度は……あなたが彼に返す番じゃないですか?」


 ロズさんはまたも泣き出してしまう。


「ブルーノ……ごめん……ごめんよ……」


 そう言うと、剣豪ホクトの開けた穴から飛び上がり、雷の様な光を放ち、戦場に降り立った。

 僕たちもそれに続く。


「おかえり、ロズ……。泣き虫は相変わらずみたいだな」


 ブルーノさんは優しく微笑み掛けた。暫くすると兵士たちは立ち上がり始める。


「ロズ……様……?」

「おい……ロズ様がいるぞ……!!」


 これで一安心…………だと思った。


「神の前で恥を晒すな!! 正義執行ー!!」


 雷の神 ロズさんの姿に、海洋隊は更に活気付き、更なる戦闘を巻き起こし始めてしまった。

 動揺するロズさん。きっと他の神たちと同様に、たくさんの人を巻き込んでしまうような力しかないのだろう。

 ()()()()……危うい言葉だと思った。ロズさんから託された想い……。信じたい――――。


 -雷神魔法・サンスプリード-


 僕の詠唱と同時に、僕の身体全体から細い雷の光がバチバチと広がった。


「今度は……何魔法なんだ……?」


 活気付いていた兵士たちも、構える兵士たちも、ルビーやヴェンドさん、クイナさんまでもが静止していた。

 そして、全員が一斉に武器を下ろし、泣き崩れた。


「な、何が起きてるんだ……?」

「それは()()()()()()()です。雷が伝播し、周囲の人間に想いを強制的に伝えることが出来るみたいですね」


 僕にも分からない中、背後から聞き覚えのある声。


「アゲル……!?」

「ヤマトは、何を考えていたんですか?」

「沢山だよ……。ロズさんが自分を戒めて悩んでいたこととか、クイナさんの気持ちとか、本当は戦いなんてしたくないルビーさんの気持ちとか……! 本当に沢山だよ!! 僕にだって正義なんか分からない! 何を伝えればいいのかなんて分からないよ!!」

「その()()()()()が、()()()()に届き、()()()()()()()()()()()のかもしれないですね」


 そう言うと、アゲルはニコッと笑みを浮かべた。

 この世界で繁栄している七国には、それぞれを統治する七人の神がおり、特別な力を宿す。

 世界を治めるのは世界の唯一神。七国の神と契約し、神々に力をもたらした人物。


ヤマト(主人公):風・炎・水・岩・雷・神威/光剣・グローブ

アゲル(大天使ミカエル):光

カナン:炎+爆破/弓

セーカ:雷/拳+炎

アズマ:水/治癒+岩


〇正義の国

 三大名家を筆頭に、少しでも禁を犯す者を取り締まらせ、犯罪者をより多く捕まえるように示唆している。

 三大名家は争うように犯罪者探しに躍起になり、次第に協力関係ではなく敵対関係を持つようになった。


ロズ(雷の神):紛争状態になってしまった国を見て、自分自身で自分を戒め続けてきた。

ホクト(氷の剣士):氷/大剣


◆海洋隊

ルビー:水/海洋隊 隊長


◇雷鳴隊

クイナ:雷鳴隊隊長

ヴェンド:岩/クイナの専属医師・海洋隊元隊長


◇風漂隊

ブルーノ(守護神):風/物書き・風漂隊隊長

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