36話 正義の国
僕たちが楽園の国へ戻ると、既にアゲルたちはくつろいで待っていた。
「無事でよかった。仙人様たちは?」
「ディムさんが、褒美をよこせと叫びながら、ガロウさん、リオラさんの二人を連れて美酒の調達に向かいました」
あぁ……楽園の国に来たがってたな、そう言えば。
「僕らの方も大変でしたけど、ヤマト、セーカさん、本当にお疲れ様でした。生きて無事にまたお会いできてよかったです。本当に」
「おい、ヤマト! 聞いてくれよ! 龍を守る雷獣ってのがいてな、俺が倒したんだぜ!」
意気揚々と、和やかな空気を壊すアズマ。
「え、でも……アズマって攻撃魔法使えないよね……?」
「なんか、アゲルから光槌っての貰ってな、岩魔法で封じ込めてやったんだ!」
岩魔法で封じ込めた……? でもそうだ。こっちも似た現象が起こった。
「こっちの方も、セーカがカナンと同じ炎魔法の弓を放って攻撃していたんだ。大人カナンさんが何かしたんだとは思うんだけど……」
僕たちは互いに起きたことの情報交換をした。
そして、当然議題は分かれることとなる――――。
「戦争は絶対に止めるべきだ」
「いいえ、一刻も早く正義の国へ向かい、雷神の加護を受けるのです。それがヤマトの本来の使命です」
二属性二龍加護を受けた二人。ルークさんが光魔法と水魔法、ガンマは闇魔法と雷魔法。ガンマの幻影魔法は神の目すらをも欺ける。そして、能力未知数の龍長 カエン。
アゲルは七神の力なら大丈夫と言うが、実際にあの光景を見てしまっては、どうしても不安が過る。この国の人たちにはお世話になった。見過ごせない。
「ヤマト、いいですか? 貴方の使命は……」
「アゲル、提案がある」
珍しい僕の目線に、アゲルは黙って向き合う。
「僕とアゲルの二人で正義の国へ行って、雷神の加護を渡してもらう。そして、戦争も止める」
「カナンちゃんにセーカさん、アズマのことはどうするんです?」
あの龍族の一味を見ていて感じたことがあった。三人が僕たちの旅に同行するには、もう荷が重い。
だから、
「ゴーエンに頼んで鍛えてもらうんだ」
「たった一週間ですよ……?」
そんな時、アゲルの背後から一人の影が現れる。
「たった一週間……。されど一週間だぜ」
そこに、棍棒を携えたゴーエンが現れた。
「ヤマトたちが来る前に、アゲルから話は聞いた。だから、ちょいとコイツを持って来てたんだ」
そう言いながら、棍棒を振り回す。
「その棍棒は? ダンさんの物に似てますけど……」
「この棍棒は、アズマって野郎の武器にする」
「はい……?」
この世界では、かなりレア……と言うより、特別な人間にしか扱えない能力がある。
それが、魔力付与と言うものだ。
本来、人間には等しく、一つの属性魔力しか潜在的に存在しないが、武器に属性を付与させることで、武器からのみ、その属性の魔法を発動することができる。
「で、なんでアゲルはその能力使えるの……?」
まあ、アゲルには謎が多いし、制限がまた解除されたんだろうと思いつつも訊ねた。
「もう分かっていると思いますが、岩の神に会ったことでまた少し制限が解かれたんです。ずっとヤマトに渡していた光剣と言うのは、【光魔法・トレース】と言い、誰かの魔力の一部を武器に付与する、と言う能力です」
「なるほどな。今までは自分の光魔法を付与した光剣しか出せなかったけど、岩の神 カズハさんに会ったことで、力の一部の属性魔力を武器に付与できるようになったってことか」
自分でも徐々にこの世界の魔法への理解が早くなってきているのが分かった。
「はい。この属性魔法の付与は、七神の皆さんであれば出来ますが多用は出来ません。自分の魔力をそのまま渡すわけなので、その間、膨大な魔力消費となるのです」
だったら自分で鍛えるべし……と言ったところか。
「それで……なんでゴーエンはその棍棒を持ってきたんだ……?」
アゲルはニタリと笑うと僕を見遣った。
「ヤマトが言い出しそうなことなんて、もう読めています」
僕が、アゲルに従って正義の国へ行く、その代わりに他のパーティメンバーの強化をしたい、と言い出すことすら予見していたってことか……。
まあでも、それなら話は早い。
「一週間しかないんだ。直ぐに向かおう」
「神威……ですね」
そう、アゲルはこのことも読んでいた。
僕がアゲルと二人で、と言ったのは、神威で移動する為だ。このことまで読んで、既にゴーエンに手配済みだったのだ。
「ゴーエン、後のことは任せました」
「おう! 行ってこい! めちゃくちゃに強くしておいてやるからよ!」
頼もしすぎて僕はゴーエンの訓練は受けたくないな……。
「アゲル、想像できるレベルの情報をくれ」
「分かりました。まずは雪山を想像してください」
雪山……。富士山とかでいいのかな……。
「それでは、五重の塔を想像してください」
五重の塔……前に修学旅行で行ったな……。
「は!? 五重の塔!?」
「いいから、雪山に五重の塔です! もうこの想像だけで十分に行けますから!」
雪山に五重の塔……おかしな風景にしか見えない。でも、アゲルが言うならきっと本当なんだ。
-仙術魔法・神威-
*
「寒いですね」
防寒対策を忘れていた。……と言うより、本当に富士山みたいな雪山の横に、五重の塔と日本の歴史に出て来そうな瓦屋根の家が建ち並んでいた。
「なんだこの国は……もうこれ江戸時代とかの日本だろ……」
「ちゃんと正義の国ですよ。前にも話しましたが、バベルは元々日本から来ているので、こういう歴史が好きな七神が作り上げたのでしょう。ほら、後ろに国の門が……」
そして、アゲルが国の門を指差すと、
「 侵入者だー!! 捕えろ!! 」
僕たちは、正義の国の兵士たちに取り囲まれていた。
「ま、待ってください! 僕たちは雷の神に会いに来ただけなんです……!」
しかし、兵士たちは聞く耳を持たなかった。
「ヤマト、ここは素直に従いましょう。正義の国……その名の通り、兵士に危害を加えてしまったらそれこそ牢獄行きになってしまいます」
アゲルは耳元で僕に囁いた……が。
「アゲル、何か言いたいことはあるか?」
「予想外でした……」
僕たちは不法入国で、アゲルの懸念していた地下牢獄へと入れられてしまった。
「一週間しかないんだぞ!? 早く雷の神に会わないと!!」
「不法入国だけで牢獄に入れるほど、セキュリティの厳しい国ではなかったんですが……」
僕たちは、それぞれ別々の檻に入れられた。その為、壁越しに背を合わせて話している。
暫く何もない空間で何もない時間を過ごすと、人は考えることを放棄し出すのだろうか。
「アゲル、オーバーをしてくれ。その間に僕がラグマでこの檻を破壊する。そして、すぐに雷の神に会おう」
「ヤマト、落ち着いてください。そんなことをすればすぐにまた牢獄戻りです。それに何かおかしいんです。兵士が話を聞かなかったこともそうですが、雷の神は正義を重んじる神……まずは補給係が来たら事情を話しましょう」
しかし、補給係に事情を話しても、彼らは門兵と同じように全く話を聞くことはなかった。
そして、早くも一日が経過してしまった。
「壁を破壊しよう」
「ここは地下牢ですよ」
「全員を岩神魔法で動きを止める」
「守る為の力じゃなかったんですか……?」
正義の国へ入ったと言うことは、このビリビリと殺気立つようなエネルギーが雷魔法のエネルギーだろうか。なんとなく、強力な攻撃魔法の予想がする。……と言うか、雷魔法は強力な攻撃魔法がいい。
「ハァ……。このまま一週間経ったらどうする……?」
すると、アゲルは隣の檻からガサガサと物音を出した。
「よし、そろそろですかね。僕が何も考え無しに閉じ込められているわけないじゃないですか。雷の神には会っていないので力は弱いですが、正義の国へ入ったので僕はまた魔法の制限が解けました。お披露目しま……」
そう、アゲルがキメていた瞬間だった。
バコン!!
大きな音が鳴り響き、
「な、な、なんだ……!?」
僕の頭上には大きな穴が開き、僕の目の前には大剣を構えた、水色で長髪の女の子が立っていた。
「見つけました。殺します」
そして、僕に大剣を突き付けた。
この世界で繁栄している七国には、それぞれを統治する七人の神がおり、特別な力を宿す。
世界を治めるのは世界の唯一神。七国の神と契約し、神々に力をもたらした人物。
ヤマト(主人公):風・炎・水・岩・神威/光剣・グローブ
アゲル(大天使ミカエル):光
カナン:炎+爆破/弓
セーカ:雷/拳+炎
アズマ:水/治癒+岩
〇正義の国
大剣を携えた水色の髪の少女




