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リメイク  作者: 春木
第五章 カナン奪還編
40/78

35話 ショー

 カエンは手を差し出す。すると、大人カナンさんは黙って向かって行く。


「カ……カナンさん……?」


 少し振り返り、何か言ったような気がしたが、エネルギー玉が激しく音を鳴らし始めて聞こえなかった。そしてその瞬間、子供のカナンは倒れてしまった。

 カエンは大人カナンさんの手を引くと、またしても何の魔法か、大人カナンさんはその場から消えてしまった。

 一体……何が起こっているんだ……? 龍族の一味は何をしようとしているんだ……?


「さーて、この世界の救世主、ヤマトくん!!」


 僕を向くと、カエンは大きな声を発した。


()()()()()()だ!!」


 カエンがエネルギー玉に向かって手を翳すと、ヴォルフとドレイクの姿は消滅した。


「な、何を……!」


 そして、エネルギー玉は更に激しく膨張し、眩しい光の中で、ルークさんとガンマにその光は集まっていく。

 やがて、光は収まり、ぐったり疲れた様子を浮かべるルークさんと、意気揚々とした笑みを見せるガンマ。そして、二人に拍手を送っているカエン。

 異様な光景だった。


「何のショーなんですか……コレは……」


 カエンは静かに僕に近寄る。


「異郷者の君は七属性と……。いや、あと仙術魔法だっけ? そんな力も扱えるなんて、ズルいと思わない?」


 僕の背筋は凍る。

 予想が……。この世界に来てから、僕の勘は鋭い。


「ルークはヴォルフの水魔法、そして水龍の加護を。ガンマはドレイクの雷魔法、そして雷龍の加護を受けた」

「それって……つまりは……」

「この二人は、この記念すべきショーにおいて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そして、()()()()()()()()が与えられたんだ!」


 そう言うと、高らかに手を広げた。


「おめでとう、二人とも。紛れもなく、()()()()()()だ」


 そして再び、二人に拍手を送った。


「友達のカナンも、僕の気持ちを分かってくれたんでしょう。快く()()()()になってくれた……」


(大人カナンさんの……裏切り……?)


「それに免じて、君たちを逃がしてあげよう。さよなら」


 手を掲げられると、僕らは気付いたら地上にいた。


「な、なんだ!? 転移!? 空間魔法!?」


 しかし、僕の困惑もすぐ落ち着くことになる。


「セーカ……」


 セーカは、あの忌々しい光景を見ても、ずっと涙を堪えて俯いたままだった。一先ず、龍族の一味からカナンは取り戻せたことを知らせる為、僕は龍咆銃を上空に打ち上げた。


「あの様子じゃ追ってくることはないだろうけど、僕たちも楽園の国へ向かおう。セーカ……」

「うん……」

「ゴーエンやダンさんに会おう……」

「うん……」


 ここに来て、またも力の無さが悔やまれる。気を失ったカナンを抱えるのは、腕力のない僕にはできず、傷心しているセーカに任せ、三人で海岸へと戻った。

 しかし、そこにはまたしてもルークさんがいた。


()()()()()……ってことですか……?」


 ルークさんは、いつものお気楽な空気感はなく、少し不安気な顔を浮かべていた。


「いや……ドレイクさんの妹ちゃんさ、俺は戦うこともあまり好きじゃないけど、アイツ言い過ぎだと思って。あんなことしてたの、俺も知らなかったからさ……」


 そうして、言葉の出ない様子で頭を掻き毟る。


「俺はきっと怒られるだろうけど、話しておくよ。ヤマトくん。俺から、少しの詫びと思ってくれ」

 

 僕はゴクリと唾液を飲み込む。


「僕たち龍族の一味、カエンさん、ガンマさん、風龍(ふうりゅう)の加護を受けたフーリンくん、そして俺は、自然の国、楽園の国、自由の国、守護の国を本格的に攻め落とし、()()()()()()()()()()つもりだ」

「なん……だっ……て……!」


 龍族の一味は、もうそこまで準備を進めてるのか……? あのショーで、属性の複数持ちが成されたとは言え、相手は神と守護神、精鋭の兵士だっているのに……。


「それを僕たちに伝えて、どうしろと……」


 真っ直ぐな目で、ルークさんは答えた。


「北の国、()()()()へ逃げて欲しい。風龍の加護を受けたフーリンも、この後、岩龍(がんりゅう)の加護を受けている者から岩魔力を授かる。そして、()()()()()()()()()()()()()()までに、まだ一週間は掛かるはずだ」


 たったの一週間……。 それに、カエンの元の力って一体……。


「俺には妹がいたんだ。人間たちに龍族の血が流れていることを煙たがられて殺された……。これは嘘じゃない。だから、そのセーカちゃんの気持ちに胸が痛いんだ」


 そして、無防備にも僕に近寄る。


「君たちとはきっと、戦う運命にあると思う。でもやっぱり、それはまだ今じゃなくていいと思うんだ」


 ルークさん……本当は……悪い人じゃないのか……?

 でも、イカれた思想を持っているし、ヴォルフのことも生贄にしていたような光景に見えた。


「すまない、足を止めて。それじゃあ、次に会う時は本当に戦う時になる。俺は()()()()()()()を使える。覚悟しておいてくれ」


 そう言うと、ルークさんはアジトへ戻って行った。

 分からないことだらけだが、セーカも話の中で少しずつ気を持ち直してきて、ゆっくりと待ち合わせ場所、楽園の国へと向かった。


   *


「君は本当にお喋りさんだね、ルーク……」

「すみません、カエンさん……。ドレイクさんがあんな酷いことをしていたとは知らず……。昔のことを思い出してしまいました……」


 俺は、龍が祀られている小さな村で生まれた。両親と、妹、四人で貧しくも幸せな家庭だった。

 ある時、村長に俺と妹は呼び出された。


「俺たちに龍族の血が濃く残っている……?」


 村長は、特別、魔力感知に鋭い人だった。と言うことは、少なくとも両親のどちらかにも龍族の血は残っているはずだが、俺たちよりも薄いと話す。一番濃く血が流れていたのは、妹の方だった。

 龍を祀っている、とは言っても、それは龍だ。龍族の末裔は裏切り者とされ、俺たちは小さな迫害を受け、一つ離れた住居に住んでいた。それだけでも、幼かった俺からしたら悲しくもあった。

 妹は、突如隠れていた、見たこともない国の騎士に取り押さえられる。

 もう嫌だ……もう嫌だ……。

 そんな時だ――――。


「小さな子供相手に、随分と乱暴ですね」


 現れたのは、黒いスーツを纏った紳士だ。一瞬にして二人を外に消すと、妹を取り返した。


「あ、ありがとうございます……」


 すると、男は俺の前で膝を付いた。


「私はカエンと言います。怖かったかい?」

「はい……。でもそれよりも、妹を守れない自分の弱さの方が苦しくて……」

「そうか……。ならば、君に力を授けよう」


 その時、村長は悲鳴を上げた。


「き、貴様が、()()()()()()()()()()()()()()か……! 龍様の力は渡さぬぞ!!!」


 そして、隠していた短刀で突き刺した相手は、俺でも、カエンさんでもなく――――()だった。

 一番、龍族の血が濃い妹が、龍の加護を受けることを懸念したんだろうと思う。

 しかし、そこで初めて、俺の魔法は発現した。妹が刺し殺された後、村長は血塗れに倒れていた。


「あ……俺……人を……殺し……」

「何を悔やむ必要がありますか? 彼は妹さんを殺した大悪党。この世界は狂っている。差別、戦争、酷いことばかりに支配されている」


 俺は、そう告げるカエンさんを黙って見つめる。


「私たちで変えましょう。この狂った世界を。天使族である貴方ならば、きっと力になれる」


 これは、天使の国の端の村で、弱い弱い少年が、七龍と呼ばれる一体、光龍(こうりゅう)の加護を受けた記憶だ。

□龍族の一味 アジト潜入班

 ヤマト・エイレス(大和ヤマト):風・炎・水・岩・神威/光剣・グローブ

 セーカ:雷/拳

 カナン:炎+爆破/弓

 大人カナン


◆龍族の一味(雷龍島アジト内)

 カエン(龍長):炎

 ガンマ:闇(幻影)・雷

 ルーク(天使族):光・水

 ドレイク:ショーにより力を吸収された。

 ヴォルフ:ショーにより力を吸収された。

 フーリン:風

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